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    シリーズになる予定です。
    ぽっせの3人が出会うまでの過去の其々。
    捏造過多です。1年ほど前から構想しているので
    本編とずれています。

    こにらは夢野幻太郎のお話です。
    直接描写はありませんが、モブ幻があります。
    ご注意ください。

    夢野幻太郎の話 あの頃、学校で独りでいることは然程苦痛ではなくて、寧ろ教室の片隅で呆然と彼の事を考えながら次はどんな嘘で楽しませようかと考えている方がずっと楽だった。たとえば、休み時間にボールのように飛び出していくクラスメイトを見ながら、あいつはどんな風に家を過ごすのかを考える。育ちのいい母親はちょっと世間知らずで箱入り娘、我が子にも呆れられるほどのお嬢様ぶり。父親はそんな母親にベタ惚れで子供はそんな両親を疎ましいと思いつつもいつかは密かに思いを寄せるあの少女と両親のような夫婦になれたらと思っている……。
     そんな風に、僕にとって所謂孤独と呼ばれている時間は、無限にある自由時間に過ぎなかった。ひとつ僕を悩ませるものといえば、高齢である両親のことくらい。彼らは僕が学校で独りでいることをずっと気にかけていたので、僕はふたりに学校生活のことをほとんど話さなかった。掃除用具入れに突っ込まれて鍵をかけられたとか、給食に虫を混ぜられたなどと言ったら、恐らくは卒倒してしまうであろう姿が容易に想像できたものだから、僕はじっと黙っていた。プライドが許さないとかそう言うことではなく、僕はしわくちゃの顔をもっとくちゃくちゃにしてさめざめと泣くだろうあの顔を見たくなかったのだ。だから、僕は笑っていればいいのではないかと思い始めた。それからなんとなく何をされても笑うようにし始めたら、水をかけられた時タオルを貸してくれる女子や、教科書を破かれて途方に暮れていたら隣り合った机の境界線から少しはみ出すようにして教科書を差し出してくれる奴が出始めた。
     彼のお見舞いに行った日、へらへら笑っている僕の顔を見て、彼が君の笑顔はとても綺麗だよ、そうやって笑っていれば君にももっとたくさん友達ができるよと言ったので、僕はそうかな、ありがとう、と言って本格的に笑う練習をはじめることにした。とは言え友達は君だけでいいんだけど、とは彼に言わなかった。
     さて、そうして練習を始めてみたはいいものの、鏡の前でうまく笑えているか自信がなかった。しかし、おじいさんが僕のそばに来て、一体全体お前は何を始めたんだい、と言ったので、笑顔が上手になったら友達がたくさんできるかもしれないと思ってと言ってみた。それを聞いた途端に、おじいさんがとても優しげな表情で涙を浮かべたので僕は少し焦って、でも、ここはきっと笑うところなのだと腹を据えて、にっこりと笑って見せた。よかった、そんな可愛らしく笑える子を無視する子なんていない、これでお前にもいい友達ができるよ、とさめざめと泣くおじいさんの肩に手を置いて、ああ、そうか、嘘は人を救うのだと僕は改めて思った。
     年月はあっという間に過ぎた。僕は成長し、中等学校を卒業した。卒業する頃僕は、年老いた両親に僕はもうしっかり働くから、僕のことはどうか気にしないで、と告げた。そうしたら立派になったな、とおじいさんが言って、お前には本当のことを言ってやらないとな、と言った。
     なんのことだかと思っているうちに、ある日徐に両親に呼ばれ、僕は畳の上でそっと膝を折った。目の前には両親がこれまた僕と同じように膝を折って、僕をじっと見ている。
    「本当のこととは、なんですか」
     僕はまっすぐに言った。膝の上できゅっと拳を握りしめたまま、只々僕を見ながらも口を開かない両親から話すのが辛そうに見えたからだ。
    「……お前は、私たちのことをなんとも思わなかったのかい、私たちのような老いぼれが、お前のような子を育てていることに」
    「それは」
     そう言われて、決して思い至らないところがないわけではなかった。僕が小学校の頃すでに、両親は祖父や祖母とよく間違われていたし、周りの両親と比べても年老いているなとは思っていたからだ。だけど、僕は咄嗟に言葉が出なかった。
    「おまえは賢いからきっとどこかで勘付いていたんだろうが、それを言わずに、私たちを責めずにいてくれてどんなに救われたことか」
    「…………」
     僕は、どうしてそんなことをいうんですか、と、言えなかった。給食に虫を混ぜられたり、体操服を隠されたり、水やりをしている時に頭上から水をかけられたり、机に落書きをされたりしたことを鮮明に思い出す。小学校を卒業した頃にはそんなことはなくなっていたが、今でもあの記憶は僕の頭に鮮やかだ。あの頃、僕はこの目の前の2人が泣いているところを見たくなくて何を聞かれてもじっと黙っていた。唇を噛んで、拳を握って、じっと耐えていた。だけれども、『おまえのところ変なんだよ、おまえは捨て子だろ、俺の母ちゃんが言ってたぞ』というその言葉が、ずっと思い出さないようにしていただけで、脳裏には今も、べったりと焼きついている。否、今だからこそ、鮮明に思い出せるのかもしれない。
    「おまえは私たちの子じゃないんだよ」
     ……ああ。
     僕は言葉に出さずにいるのが精一杯だった。溢れそうになる水をなんとか喉に流し込むかの如く、僕は言葉を何度も飲み込んだ。おじいさんは僕の言葉をじっと待っているようだった、きっと彼は僕から流れ出す言葉を受け止める覚悟で其処にじっと座っているに違いないと思った。だけど僕は体に渦巻く黒い濁流を必死に抱き抱えた。ありがちな物語だ、これは。何度も何度も使い古された小説の、お涙頂戴の、ありがちな物語。そのありがちな物語にたまたま僕が主人公となってしまっただけで、こんな話はどこにでも転がっているのだ。そんなありがちな話の平凡な主人公の僕が、老衰した、小さな背中を丸めた父に、そんな悲しい覚悟をさせてはいけない。
    「お父さん」
     何年も父と呼んできたその肩がピクリと震える。父は何も返事をしなかったが、そろりと顔を上げた。深い皺の刻まれた顔。眉が下がり、皺に潰れそうな小さな目は潤んでいるように見える。僕は笑って見せた。笑顔は得意だ。幼い頃から何度も何度も、練習したのだから。
    「お父さんお母さん、僕は何も変わりません。僕は今までもこれからも、あなたたちの誇り高き息子ですよ」
     彼も好きだと言ってくれた笑顔でそっと父の肩に手を置く。年老いて痩せた父は肩を震わせて泣き、母は両手で顔を覆って嗚咽を漏らした。僕は笑いこそしたが、両親のように涙などひとつも出なかった。
    「お前がそう言ってくれて嬉しいよ、本当に優しい子に育ったな、……」
     しかし、僕はその後に続いた両親の言葉を朧気にしか覚えていない。その後の僕は乾く口を潤そうと何度も唾を飲み、先程の緊張が多少和らいだ顔で話を続ける両親の話を聞くことで精一杯だった。ああ、何度もあんなに笑顔の練習をしたのに。肝心な時に表情筋ひとつ動かす余裕がない。なんとか喉を上下させ、唾を飲み、拳を握り、うん、うん、と下を向いて相槌を打つことで精一杯だった。
    「これがその場所だよ。先方には何も伝えていないが、…お前が行きたいというなら話をするから、行ってみるといい」
     両親が差し出した紙を受け取ろうとした僕の指は、震えていなかっただろうか。プルプル震え、小さく四角に畳まれた紙を僕は受け取った。やや黄ばんだそれは年月を感じさせるもので、この紙はきっと何年もの間薄暗い箪笥の中にでも仕舞われていたのだろうと思った。
     ─いったい僕は、どうしたらいいんだろう。
     青年は、そこで途切れたまま続くことのない分厚いノートをぱたんと閉じた。よくもまあこんなにも長々と書いたものだと幼き日の自分に想いを馳せた。5年日記、と書かれた日記帳のはずだが、5年分も書いてはいないだろう。日付から察するに精々1年分と言ったところか。下手の横好きとはよく言ったものだが、それ以上にあの頃の自分にはペンを取る必要があったに違いない。今であれば、あの頃練習した笑顔を眉ひとつ動かさず誤魔化すことができるが、そこに至るまで、あの頃の己にはこの分厚い日記帳が必要だった。それだけのことだ。


    「…い、おい!」
    「…ああ」
     青年は静かに振り返る。背後から声をかけてきた男はおそらく青年の知り合いなのだろうが、青年にはもうそれが誰なのか皆目見当もつかない。はて、と伏せた重い睫毛を少しだけ上げて相手の顔が見えるように視線を動かす。ぼやぼやと霞んでいたものの形が、カメラのピントが合ったかのように男の輪郭としてくっきりと形どったところで、青年は気怠げに息を吐きだした。白い煙が空気を揺らす。
    「あんたか」
     ふう、と口から煙を吐きだし、青年はそういえば見たことがある、と男の記憶を脳内から引き摺り出す。好きではなく、寧ろ嫌悪すら覚える煙草を唇に挟んだまま、青年は男に向き直った。男は一瞬たじろいだようだったが、そうだよ、と手を広げた。
    「お前が忘れられなかったんだ」
    「へえ」
    「ああ」
    「それはご苦労なことだな」
     相槌を打ちながら青年は男を眺める。男は中肉中背で、ごつごつと丸い手はなんの仕事をしていると言っていたか。肌が薄黒いのはなんだったか、話して聞かされた気もするが覚えていない。覚えているのは妙に生臭いセックスだったということと、青年が気まぐれに口にした名前を男が馬鹿みたいに何度も呼んで、矢鱈に青年をぎゅうと抱きしめたということだった。やがてそれにも飽き飽きした青年は、途中で壊れた機械のように上げていた声を止めたが、男は変わらず青年を犯し続け、青年が偽った名を呼んだ。ざらざらした手が太腿を滑った時に少しだけ気持ちいいと思い、どうせならその手で達させてくれればいいのにと青年が思っているうちに男が果てた。それがいつの事だっただろう。
    「また買わせてくれよ」
     金は用意してきたから、と皺の寄った紙幣を突き出す男を青年は黙ったまま見ている。こんな風にやってくる男も女も山程見た青年にとっては、然程珍しくもなんとも無い光景だ。
    「無理だな」
     煙草と同時に青年が言葉を吐き捨てると、男が土をぐしゃりと踏んだ。なんでだよ、と声を荒げている。苛ついた衝動を足に流し、ざりざりざりざり、靴先で土を削っている。削られた土が男の足元で軽い山を作った頃、土の匂いが青年の鼻先を擽った。
    「もう、お前らみたいな下衆に構っている暇はないんだ」
     苛立ちを隠さぬ男の所業を見た青年が、ふ、と口を開いた。
    「なっ」
     もう下準備はこれで十分だ。
     男に聞こえることなく呟き、青年はすらりとした脚を一歩、前に出した。と、そのところで、あ、と声を上げた。
    「ああそうだ、それでも、小生を買ってくれたあなたには感謝しているんですよ」
     吐き捨てた煙草をそう言って踏みつけながら、青年──夢野幻太郎は、それまでじっくり開花を待っていた花がゆっくりと開くような笑みを向けた。幻太郎の肩に手をかけようとした男の手が止まり、幻太郎はその横をすっと通り抜けていく。男は身動き一つしない。
    「おかげで欲しかったものを手に入れられましたので」
     悠々と歩き、己の視界で段々と小さくなる幻太郎を、男は理解の追い付かぬ頭を置き去りにしたまま、成す術もなく眺めていた。ただ、あの体をもう抱くことはないのだと思うと心が萎れた。


     幻太郎が住まいにしている築40年のアパートは、お世辞にも綺麗とは言い難い。それでも管理人が格安で貸し出すというので幻太郎は住まいをそこに決めたのだが、それが住んでみるとまたなかなか心地いい。古びた部屋も薄すぎる壁も、今にも崩れ落ちそうな外壁も悪くない。深夜、ぼんやりと外灯に照らされるアパートにぼんやりと光が灯っているのは幻太郎をなんとも言えぬ心地よさに連れ出してくれる。
     元々住んでいた小綺麗なマンションに居続けることは考えられなかった。幻太郎が一人で住むには広かったこともあるが、深夜に帰宅すると見通しの悪い暗い部屋が大きな穴となり幻太郎を食らうために待ち構えているかのようで、どうにも居心地が悪かった。さてどうしたものか、と幻太郎は思案の末、知人の一人に話を持ち掛けた。知人は快く幻太郎の相談に応じ、幸い築浅のマンションであるし、貸し出してはどうか、と提案してきた。文筆業を生業にしているが、生業にしてからまだ日は浅く、そもそも夢野幻太郎という名が世間に広まっていない以上は、食っていける確証が浅い。売るにも忍びなし、だが住むにも気が引けるマンションをどう活用すべきか、ということで副収入として、幻太郎はマンションを賃貸として貸し出すこととした。結果的にそれが今の幻太郎の生活を支えるには十分な収入となっている。
     ドアを開ければ部屋が見渡せるほど狭い一室へずんずんと足を進め、幻太郎は部屋の突き当りにある古びた窓を開けた。キキキと耳障りな音を立てて窓が開くと、窪んだ窓枠に肘を乗せて年季の入った畳の匂いを、鼻孔の奥まですううと吸い込む。シャツの胸ポケットに入れた煙草を取り出しライターで火を点けると、大きく息を吸い込んだ。
    「ふー………」
     ようやくだ。
     あの男に言った言葉を反芻する。ようやく欲しかったものが手に入った。思い立ってから数年、どれだけ長かったことだろう。慣れぬ携帯にずらりと入った連絡先は、この数年で幻太郎が様々な方法で入手してきたものだ。その一番上に並んだ名前をじっと見つめる。
    「天谷奴零、ね」
     胡散臭い名前だ。幻太郎は携帯の表示画面に肺まで吸い込んだ煙を静かに吹きかけた。
    一度だけ、その姿を遠目に見たことがある。しかし、零、なんて名前が似合うような風貌の男ではなかったように思う。女とも男とも似つかぬような名とは裏腹に、幻太郎がこっそりと見た天谷奴零という男は酷く目立つ男だった。がっしりとした体躯に加えた高身長は嫌でも街中で人の視線を集めてゆく。それでいて妖艶さは漂うものの顔立ちは端正なのだから始末が悪い。ぱっと見れば派手な装飾品も、天谷奴にかかってしまえばすんなり馴染んでしまっているのだから不思議なものだ。幻太郎が着用している書生服も人の目を引くが、それは物珍しさからくるもので、天谷奴のように視線が自然に吸い込まれてしまうのは、その人物だけが持つ独特のものだ。
     …さて、いつ、動くか。
     幻太郎が血反吐を吐く思いで求め続けたものの在処を突き止めると同時に行き当たったこの天谷奴零という男については、調べれば調べるほど胡散臭いことしか出てこなかった。名前だけはかろうじて割り出せたものの、その素性は取ってつけたようなものばかりで、それは幻太郎が知る限り、ごく少数の、そして上質な極秘の情報を扱っている情報屋でも持ちえておらぬものだった。君の体を買っておいてこの程度のことしか出来ずに申し訳ないがね、と情報屋は皮肉めいて言い、これだけは偽りのない情報だよと手渡された紙には、天谷奴の電話番号と在籍している社名が書いてあった。
    (どれだけ胡散臭い男であろうと、会うことに損はないはずだ)
     作られた罠なのか神が与えた好機なのか。しかし罠であろうと何であろうと、行き着いたこの男を素通りする選択肢は幻太郎にはない。じじじ、と燃えて短くなった煙草を灰皿に押し付け、幻太郎は古い窓を閉めた。
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    JLqgn8

    PASTぽっせアンソロジー「海風に踊らせて」に
    寄稿したものです。カプ要素はありません。

    三人がバラバラになった未来のお話です。
    限りなく透明に近いブルー■飴村乱数
    「すべ、ての、いの、ちは」
    「うみ、から、うま…れる」
    「せい、めいの、ゲンリュウ、とも、いわれ、ます」
    「よう、すいは、うみ、のせいぶん、とおなじ、と、いわれて、おり……」
    「にんげん、は、うみで、うまれ、はぐくまれ、そ、して、また、うみに、かえ、る…」
    自分の口が静かに紡ぐ言葉の、あまりのスローさに溜息しか出ない。
    ──まったく、どうなってんの、ぼくの頭。こんなにバカだったっけ?
    僕は頭を揺らし叩いてみたが、目の前の文字がスムーズに目と頭に入らずに、口に乗せるまでに矢鱈と時間がかかってしまう。
    溜息。
    普段人との会話に困ったことなんてないのに、こうした小難しい文章を読むには脳の処理速度が遅くなるのか、時々錆びついた歯車のように思考が鈍くなる。飴を多量に舐めてみればアドレナリン的なものでも出るのかと思ったのに、そんなこともない。白い飴の棒が僕の横に増えていくだけになった。幻太郎の言葉を借りると、「そんなに飴を食べたら糖尿になりますよ」ってやつくらい?糖尿ってのが僕にはよくわからないけど、幻太郎いわく「飴やら甘いものが食べられなくなりますよ」だって。それが本当に僕にもなるものなのかちょっぴり、ほんのちょっぴり興味はあったりする。だってね、人間の病気だよ?そんなものがこの僕の身体に起こり得るのか、ちょっと気になるよね。でもまあ数十本食べても相変わらず頭の奥は鈍い感じがそのまんまあるし、糖尿がどんな病気か知らないけど、飴を食べてもなんら変わりはないし、まあ、うん。僕にはあまり意味がなさそう。ってことは多分、僕が今この薄暗い部屋でこんな分厚くて小難しい本を読んでいることは、この体にとっては、意味がないのかもしれない。
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    JLqgn8

    DONEシリーズになる予定です。
    ぽっせの3人が出会うまでの過去の其々。
    捏造過多です。1年ほど前から構想しているので
    本編とずれています。

    こにらは夢野幻太郎のお話です。
    直接描写はありませんが、モブ幻があります。
    ご注意ください。
    夢野幻太郎の話 あの頃、学校で独りでいることは然程苦痛ではなくて、寧ろ教室の片隅で呆然と彼の事を考えながら次はどんな嘘で楽しませようかと考えている方がずっと楽だった。たとえば、休み時間にボールのように飛び出していくクラスメイトを見ながら、あいつはどんな風に家を過ごすのかを考える。育ちのいい母親はちょっと世間知らずで箱入り娘、我が子にも呆れられるほどのお嬢様ぶり。父親はそんな母親にベタ惚れで子供はそんな両親を疎ましいと思いつつもいつかは密かに思いを寄せるあの少女と両親のような夫婦になれたらと思っている……。
     そんな風に、僕にとって所謂孤独と呼ばれている時間は、無限にある自由時間に過ぎなかった。ひとつ僕を悩ませるものといえば、高齢である両親のことくらい。彼らは僕が学校で独りでいることをずっと気にかけていたので、僕はふたりに学校生活のことをほとんど話さなかった。掃除用具入れに突っ込まれて鍵をかけられたとか、給食に虫を混ぜられたなどと言ったら、恐らくは卒倒してしまうであろう姿が容易に想像できたものだから、僕はじっと黙っていた。プライドが許さないとかそう言うことではなく、僕はしわくちゃの顔をもっとくちゃくちゃにしてさめざめと泣くだろうあの顔を見たくなかったのだ。だから、僕は笑っていればいいのではないかと思い始めた。それからなんとなく何をされても笑うようにし始めたら、水をかけられた時タオルを貸してくれる女子や、教科書を破かれて途方に暮れていたら隣り合った机の境界線から少しはみ出すようにして教科書を差し出してくれる奴が出始めた。
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