その日は朝から曇天で、重苦しいぶ厚い雲が空に垂れこめていた。予想気温二十度のくせに湿度が高せいか、出勤するこの数分だけでじっとりと汗ばんで、文次郎は額の汗を乱暴に拭う。なんとなく、こういう日はよくないことが起こる、と思った。
刑事の勘――というほど、長く警察をやっているわけではない――文次郎は警察学校卒業後、運良くキャリア組からスタートすることができ、二十八にしてすでに警部補だ――とでもいうのだろうか。胸騒ぎというほど大げさでもないが、どうにも落ち着かない気持ちにさせる天気だったのだ。
その予想はあたった。だから文次郎は今、車を飛ばしている。現場に向けて、サイレンを鳴らしながら。
悪報は文次郎が出勤してすぐ、書類に手をつけようとしたときにもたらされた。
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