夕立は馬の背をわける 夕方になっても暑さはまったひくようすを見せず、公園に人影はなかった。じわじわと、せみの声だけがただやかましく、木陰はそよとも動かない。
おまけに分厚い雲まで流れこんで、湿気もひどい。おおよそ人間の活動できる範疇を超えている。そう思いながら、文次郎は首すじを流れる汗を、袖口で乱暴に拭った。でも帰りたい、とは思わなかった。
滑り台は陽光をたっぷり吸収し、肉でも焼けそうにギラギラと輝いている。砂場に放置された、真っ赤なスコップ。ベンチに置き忘れられたタオル。
それらがまるで自分みたいで、文次郎はにわかに苦しくなる。夏の夕方。
喉が締めつけられるような、息苦しさの理由は、わかっていた。先を歩く男――留三郎の背中を、じっと見つめる。こんなふうに人を誘い出しておきながら、黙りこくる憎たらしい背中を。
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