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    domaindeep

    辺境の老害字書き。現在は鬼滅の鱗滝左近次が大好きマン

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    domaindeep

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    明治初めの現役育手sで情報漏洩暴露を書きたかったけど、前振り長すぎて止めた奴。この時点で5000って進まない、進まない

    育手の情報漏洩書きたかったらしい 隻腕の育手がその兄弟に出会ったのは、雪も解けぬ春先だった。
     特に春先は弟子入りが多い。冬の夜長に鬼に襲われた後、あてどもなく流離って、運良く生きていれば人里離れたこの場所に辿り着く。そしてこの、難のある育手の元でも、子供達は好奇心を抑えられず、新しい弟弟子が来る度に揃って顔を見せる、この時もそうだった。
    「……貴方が、鬼狩りと聞きました」
     そう言ったのは青年の方で、即座に育手を失望させた。どう見ても十代後半、下手をすれば二十だろう、鬼殺隊を始めるにはトウが立ちすぎている。顔立ちも今まで見てきた中でも飛び抜けて優しい作りで、心根もそうだと一目見て分かる青年が、到底厳しい鬼殺の任に堪えうるとは思えない。
     それよりも、と育手は次の手を考えていた。こういったお人好しを、正確には頭の回転が余り早くなさそうな者を、欲する場所は幾らでもある。
    「それがどうした?」
     青年は随分と考え込んでいた。言葉を発するのがうまくないらしく、自分の望みを言う事一つにも随分かかるらしい。
    「ど、どうか、私達を鬼狩りにして下さい……親をあんな目に合わされて……もう……」
     青年は潤んだ青い目を伏せ、背を丸め、その左腕にしがみつく少年にも懇願を促したものの、少年は黙って俯いたままだ。そんな兄弟は何処にでもある、薄汚れた絣の着物を身につけているものの、浮浪者のそれではない。どのみち、こうして子供が育手の元にやってきた以上、実は帰すつもりはない……だが、ホイホイと受け入れるのも『楽しくない』。
    「帰れ、お前なんぞに、鬼狩りは無理だ」
     押して引く、という手段というより、この茶番に対する嘲笑じみた発言だ。予想通り、青年は酷く身を固くして、いよいよ寄る辺を喪った、と言わんばかりに顔色を悪くした……そういった態度こそが、育手が密かに楽しんでいる行為の一つだ。
    「……だったら、僕がなる」
     少年はようやく顔を上げた。その幼い瞳が何を目にしたのか、子供特有の澄んだ光はすっかり失われ、代わりに宿るのは冷たく鋭い何かだ……育手として十年以上を過ごしているが、この少年は稀に見る逸材だと直感した。今持っている才能は不明だが、方向次第では凄まじい成長を遂げるだろう。勤勉とは言い難い育手が、この原石の発見にゾクリとしたぐらいだ。
    「そうだな、お前だけなら引き取ってやってもいい」
     その途端、少年は青年に文字通りしがみつき、二人一緒にと育手が本心から折れるまで、わめき続けた。


     こうして弟子入りした兄弟は、兄は伴田左近次、弟は隼と名乗った。左近次は二十と言った後に、睨まれて十九と言い直していた辺りからして、随分頼りない。
     左近次は水の呼吸にすら適性がなく、そもそも刀を取り落として悲鳴を上げるなぞ前代未聞だ。当然ながら、半月経っても芽が出る気配すらない。誰の目から見ても、鬼殺隊隊士は絶望的だ。ただ、雑用周りは非常に手際がいいので、時期に育手は左近次を雑用係と決め、修行と称してそちらを押しつける様になった。心根の優しさがそれを丁寧にした、実際飯も美味く、その点は好評だった。
     そもそもこの隻腕の育手は、酒の栓こそ器用に開けるものの、家事一切は何かと文句を付けては、成績の悪い弟子にやらせており、左近次が来る前は随分酷い有様だった。なので、左近次より幼い兄弟子達は、面倒で辛く、何より幼いながらもそこそこに持っている矜持を傷付けられるばかりの仕事を敬遠して、ここぞとばかりに皆左近次に押しつけた。
     そうして兄弟子達が随分楽になったと笑っていると、何処からともなく礫が飛んできたものだ。それが中々の鋭さで、失明しかねない場合もあったが、放った本人はただ繰り返すばかりだ。
    「左兄を馬鹿にするな」
     普段はまるで口を聞かない隼が、この時ばかりは子供独特の高い声で、出来うる限りの冷たさを込めて吐き出す。新参者のくせに、と兄弟子達は憤ったものの、隼は弟子の中では群を抜いて優秀で、身体能力で隼に勝る者はいない。育手が本来使っていた風の呼吸の素質も十分で、隼は教えられる全てをすぐに会得した。鮮やかな風の残像を纏わせ刀を振るう隼を目にして、鬼殺隊隊士になれないと考える方が難しい。実際、子供等の悪戯も風の如く悉くかわして、冷たい視線を周囲に向けたものだ。
    「隼、兄弟子達を虐めてはいけないよ」
     対する左近次は、あからさまに嘲られていると分かっているだろうに、何処までも穏やかだ。本当に自分を馬鹿にされていると分かっているのか、逆に周囲が心配するぐらいだ。もっとも、『虐めて』という辺りも含め、この兄弟の普通とは違う部分を匂わせており、左近次がただの馬鹿ではない可能性も示唆させたが、それ以上にはならなかった。
     確かなのは、隼が心底左近次を好いており、左近次も隼を溺愛している事だ。少ない飯を何時も、隼に分けてやる左近次を目にして、奇妙な郷愁に駆られる者もいる。執拗な虐めの幾らかは、兄弟仲の良さを妬んでのものだ……応じて隼は、こういった嫉妬には随分敏感に反応し、より一層左近次にひっつく様になっていた。左近次を害する者は決して許さず、遂には公然と左近次を下男と言い放った兄弟子を、放逐にまで追い詰めた次第だ。
     そして、微妙な空気が全てにおいて生まれた。
     柔いが無能な兄左近次と、有能だが頑なな弟隼……彼等はいずれ別れると、他ならぬ育手が決めており、弟子達も『幾度となく繰り返された』その先を知っている。ただ、その固定された筈の未来が訪れた時の結果が、この兄弟が関わってくるとなると、誰にも上手く見通せないままなのだ。


    「左近次」
     六つも年下の子供等に呼び捨てされる事は、既に日常となっていた。
     兄弟子の間では、左近次は決して最終選別に行く事はないと、当然の様に話されている。その話が隼の耳に入れば礫の一つでも跳んでくるが、流石に修行の最中ともなれば、いかな隼と言えども聞きとれはしない。子供等はそれを知っていて、隙を見計らっては左近次にうさをぶつけてくる。
     中には、あえて口にするのか、と左近次でさえ疑問視するだろう代物もある。ただ、この育手の界隈はその横柄さ故に、常に鬱屈した空気が溢れており、子供等は何かにつけて捌け口を求めており、全て素直な左近次に向かった。
    「はい」
    「お前、鬼殺隊隊士になれると思ってるのか?」
     左近次は小首を傾げたが、小さく、しかしハッキリと頷いた。
    「はい」
    「無理に決まってるだろう」
     子供等は一斉に笑ったが、左近次はまるでピンときていないらしく、小首を傾げたままだ。その頭の回っていない様子こそ、子供等の嘲笑を誘った。そしてせめてもの慈悲とばかりに、現実を告げた。
    「お前は売られるんだ。最終選別が来る前に、前に人買いが来るぞ」
    「……人を、売るのか?」
     人が売れる、という概念そのものを聞いた事すらない様子に、子供等の嘲笑は大きくなった。
    「ああ、女なら尚更だ」
    「お前が女ならよかったのにな」
     そうしたら師匠の『お手つき』で、程なくして『奉公』だ、と子供等は笑い、左近次は相変わらず小首を傾げていた。ただ、青い目に湛えている色合いがどういったものか、くみ取ることが出来る者は、『幸いにして』いなかった。


     隼は優秀だったが、何処までも他の子供等と馴染めなかった。
     一回り以上小柄で、他とは桁違いの冷たい雰囲気を帯びていた。それでも子供等が隼にちょっかいを掛けるのは、隼が才覚に溢れているからだ。育手は隼にも厳しく当たったが、同時に他にはない熱意で隼の指導に取り組んでいるのは、傍目からもハッキリしていた。
     なのでまず、隼は何をするにしても一人ぼっちで、対策をしなければ昼飯さえも盗まれた。もっとも、あからさまにのけ者にされても虐められても、隼には左近次さえいればいいのだから、時期に周囲は左近次への嫌がらせを隼に吹聴する様になった。
    「お前の兄貴は無能者、いずれ人買い行き」
     比較的早い時期から、隼は左近次が何処かに売られる、と囃された。実際、弟子入りを始めた頃には、育手の身の回りの雑用に専念する、左近次同様にそうせざるを得ない子供も数名いたが、何時の間にか姿を消していた。そうして育手の周囲は比較的人の流動が激しく、逃げ出す子供もいれば、姿を消す子供もいる。修行の最中に崖から落ちて帰ってこなかった者も一人いるが、最終選別もないのに、三ヶ月で少なくとも十人は入れ替わっていた。
    「お前の兄貴、頭がおかしいから、鴉と喋ってるぞ」
     その上で、もうそろそろ最終選別、という頃合いになって、そんな話がどこからともなくされる様になった。
    「先生のマネをしてるんじゃないのか」
     実際、育手は時折、鴉を飛ばして何処かに連絡を取っている姿が見受けられる。弟子達が在れは何かと尋ねると、必ず癇癪を起こすので誰も聞けてはいないが、育手の身の回りを世話している左近次は、その姿を見て真似ていると言うのだ。
     隼はそう囃す子供を睨み付けるだけだ。隼からすれば、馬鹿にされているのは腹は立つものの、育手の模倣にまでケチを付けるのはどうか、という考え程度はあるらしい。ただ、この話の行く末をどう見るかといった塩梅の視線をしていたが、この話から程なくして、育手は酷く左近次を叱りつけているのを多くが目にした……育手は兎角癇癪が多く、最早何が彼を苛立たせるかすらも分からないがこの、実に『善意的な』子供染みた行為は育手の逆鱗に触れたらしい。
     本当に驚くと、人は全く身動きが取れなくなる……子供等は皆、それを体験した。左近次はひたすらに殴られ、蹴られ、罵られた。最早育手が何を言っているが聞き取る事さえ困難だったが、言わば逆鱗に触れたのだと悟った。悟ったが、何処かで馬鹿にしたのも確かだ。『たかだか』鴉と喋るマネをしていただけだ、それでここまで怒るのは滑稽だったし、遂に育手が怒鳴り疲れて止める頃には、左近次は擦り傷だらけの身体を起こしてぼんやりしていた。
     育手は確かに横柄だが、弟子達を致命的に傷付ける事はなかったし、餓えで苦しめる事もなかった。どれだけ怒鳴られても、少なくとも煎餅布団で眠り、麦飯と漬け物と、葉物を入れた味噌汁だけは腹一杯喰えるのだから、御時世を考えれば、あえてこの育手の元から逃げようとする者はいなかった。何より、それこそ、と子供等は知っていた。


     その二日後、育手の奇妙な悲鳴が辺りに響いた。
     弟子達は何が起こった、と半ば楽しみを込めて走っていった先にあったのは、何とも奇妙な代物だ……左近次は相変わらず小首を傾げている。その手にはべっとりと血の付いた大石を持っているが、人間のものではなく、動物の血で染まっていた。それがどこぞの狸やらテンなら問題はなかっただろうが、育手が滅多とない顔をしているのは、その矢鱈毛並みのいい鴉は、子供等の目にはあからさまなまでに、育手の鴉だったからだ。
    「………何故……」
    「私に構えと煩かったので。これでは又、師匠を怒らせてしまいますから」
     そう告げる左近次の腕には、爪の跡が残っていた。鴉が襲ったのか、それとも言い分通り本当に遊んでいたのかは曖昧だが、確かなのは左近次は育手の鴉を殺してしまい、もう駄目だと周囲に思わせた事だ。


     育手にとって左近次は最早、我慢限界の存在になっていた。
     幸いにして鴉を喪ったその夜、『取引』があった。それこそ、かの鴉の最後の仕事であり、連絡を受けた人買いが例の場所にやってくる筈だった……左近次の飯には、たらふく睡眠薬を含ませている。明日の朝まで目覚める事はないし、他数名の、見込みのない子供にしてもそうだ。
     だが、何時もと違い、相手は頃合いになっても姿を見せない。何時もだらしないなら気にもしないが、育手が呆れる程にきっちりしている相手だ。それが随分と月の傾きが変わっても姿を見せないので、育手は奇妙な焦りと共に虚空を見やった……そもそも、何か、を育手も幾分かは感じていた。奇妙にひりつく感覚を何時から感じているのか、思い出せないものの、ずっと昔からではないのは分かっている。
     一度、左近次の背を育手は見た事がある。左近次も隼も酷い傷が幾つもついており、『あちら』の方面では売り物にならないとぼんやり考えたが、こうして素面で月の下に立っていると、そこには別の意味がある可能性を突きつけられた。家族や周囲からの虐め、或いは偶然の事故、それこそ鬼の襲撃は事故だろうが、『素人』があれだけの傷を受けて、そもそも生きていられるだろうか?
    「アイツを待っているなら無駄だよ」
     ふと、頭上から聞き慣れた声がした……育手は顔をあげ、息が止まりそうになった。涼やかな色合いの目が、奇妙な調子で育手を見下ろしていた。
    「……隼?」
     居る筈のない者がいるのは、それだけで恐怖だ。だが、それでも相手は弟子、という奢りも確かに存在していた。
    「アンタに接触するまでは泳がせていた、確証が欲しかったから」
    「何の」
     隼の視線が更に剣呑さを増した。
    「自分のやってる事に自覚、ないの?」
     
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