虎ぶる! 朝起きて、何気なく頭を触った。カサ、と音がする。指に何か、髪の毛ではない感触。しかし自分の体を触っている感覚。
「たんこぶ?」
独り言を言いながら、鏡の前に立つ。その僅か2秒後、高専は虎杖悠仁の悲鳴に震えた。
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「つまり、起きたらこのトラの耳と尻尾が体から生えてた、と」
ベッドの上にへたり込む虎杖の頭に生えた耳をマジマジと見ながら言うのは三年生の五条悟。その隣では五条の親友である夏油傑が両手に猫じゃらしを持って座っている。
「やはり呪いだろうか?いつ受けたんだろうね?昨日の任務かな」
「夏油先輩!猫じゃらし振るのやめてもらっていいすか!?気になっちゃうんで!」
「やっぱ気になるんだ。かわいいな」
夏油は笑いながら猫じゃらしを虎杖の顔の前に持ってくる。虎杖はそれをグーで払った。
虎杖の体には、現在4つの耳が存在した。本来人体にある耳と、動物の耳。全ての耳から音が拾えるが、動物の耳のほうが精度は良いようだった。尻尾のほうは、尾骶骨に繋がるように生えているらしい。腕や足と同じように、意思で動かすことができた。
「柄とか形とか。確かに虎っぽくはあるね」
夏油の言葉に五条も同意し、虎杖の頭を撫でた。
「ネコ科ならさ、ネコが撫でられて気持ちいいとこは気持ちいいんじゃね」
おでこの辺りをグリグリと押されると、思わず目を細めてしまう。
「んん…やめろよぉ、せんぱい」
「ハハっ、気持ちよさそーじゃん」
五条は調子に乗って虎杖の喉を掻いてみる。すると喉からゴロ、という謎の音が出た。
「ちょっ!悠仁、お前ゴロゴロ言ってるぞ!?人体の不思議!!」
「笑うなよ!不可抗力だよ!」
「本当にネコみたいだね…」
夏油は何気なく虎杖から生えた尻尾に触れた。すると虎杖の体がビクンと大きく跳ねる。
「ふみゃあ…ッ!し、っぽ…あんっ!さわ、んな…!」
「え、なんなのその反応。性感帯かい?」
夏油は毛の流れに沿って尻尾を撫で上げる。尻尾の根本を押すと虎杖の頬が赤く染まった。
「ん…っ♡やめ…ろっ!やらぁ、それ…っ♡♡」
息も絶え絶えに抗議する虎杖の目に浮かぶ涙を見て、夏油と五条はごくりと唾を飲み込む。
「…傑、俺ちょっとムラムラしてきた」
「奇遇だね、私もだ」
二人は息を合わせたかのように同時にベッドに上がってきた。自分の危機を感じ取った虎杖は、思わず壁際まで後ずさる。
「なに…?先輩ら、目がこわいんだけど…」
五条は壁に片手をついて虎杖の首を触る。その指を享受するように思わず首が伸びた。
(気持ちい…)
心の声が聞こえたかのようなタイミングで五条は口を開く。
「なあ、もっと気持ちいいことしねえ?」
「もっと…?」
実を言えば、少しだけお腹を触って欲しい。頭とお腹を同時に撫でてもらえたら、そのまま眠ってしまえる気がした。しかしこの二人からは、殺気にも似た緊迫感が漂ってくる。誘いに乗りたい気持ちと、警戒心の狭間で虎杖は揺れた。
夏油が虎杖の本来の耳たぶに触れる。
「悪いようにはしないさ。私たちに任せてくれないか?」
「う、ん…」
この二人に体を預けるということがどれほど恐ろしいことだったか、虎杖が思い知るのは翌日の朝のことだった。