危険生物この施設では宇宙で捕獲された生物を飼育、調査している。その数ある中のとある生物。それは特に未調査の危険な生物とのことで、接触を最小限にすべく現在飼育員は一人、数日に一度だけ世話をしている…らしい。
俺はその飼育員の同僚から事務所で話を聞くだけで、そいつ自体は一度も見たことがない。
「アメーバみたいにぐにゃぐにゃしているんだけど体は硬いらしくて、檻の隙間は通れないみたいなんだ。」
彼は毎回興味深そうにそれの話をしてくれる。彼が嘘をついているとは思えないが、いつも摩訶不思議な話をするので俺も次第に興味を持つようになった。
「最近俺の真似をするようになったんだ。目もないのに不思議だよな。」
「今度は体の色を変えられるようになったんだ。色素体を持っているのかな。」
「最近言葉を話すようになったんだ。これがオウムみたいで面白いんだよ。」
「今日は彼女とデートだから早く帰らないと。」
ある日彼は俺にこう話した。
「本当に俺そっくりになったんだ。見てみるか?」
安全のため、特に未調査の生物については飼育規則を守らなくてはならない。しかし俺のそれへの興味は日に日に強くなっていた。
彼の話では通り抜けられない檻に入っているとのことであったし、飼育員の彼がいれば大丈夫だろう。
俺は自分に楽観的な言い訳をして彼について行くことにした。
薄暗い廊下を進む。硬い足音といくつもの施錠された扉が遠くへ流れていく。彼は一際奥まった飼育室の扉の前で振り返り、俺に一本の鍵を渡した。
ごくりとつばを飲み込む。俺がそれを鍵穴に差し込むと、緑のライトが瞬時に音も無く点灯する。はやる気持ちを抑えながら、俺はゆっくりと扉を開いた。
檻で区切られた暗い小さな部屋。その中に人が一人寝ていた。
きっと彼に化けたそれだろう。
…寝ている?
………檻の外で?
「え……」
混乱しながら後ろを振り返ると、
彼は腹に開いた大きな口を俺に向けていた。