薬屋と傘屋。 カランコロン、カランコロン
雨水を踏み締めた下駄が、裾にシミをつくる。
カランコロン、カランコロン
稼いだ小銭が心許なさそうに手の中で揺れる。
カランコロン、カランコロン
穴が空いた番傘から落ちる雫で、髪が肌に張り付く。
カランコロン、カランコロン
カランコロン、カランコロン……
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「助けてくれ!!」
土砂降りだというのに、その声は庭を越えて家の中によく響いた。
今家には僕しかいない。両親は少し遠くの領主の元に医者として赴いている。薬屋の家に来たということは、確実に病に侵された人間がいるのだろう。薬材を碾いていた手を止め、庭へ出る。
お世辞でも裕福とは言えない、使い古した粗末な着物と、お手製だろうか、ボロボロの番傘を持った同い年くらいの少年が立っていた。肩で息をしながら、明らかに少ない銭を頸が見えるくらい頭を下げて差し出してくる。
1927