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    weedspine

    気ままな落書き集積所。

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    weedspine

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    従者の矜持。

    夜に震える嵐が倫敦を襲った夜。
    自室で寝ていた亜双義は、若干の息苦しさに目が覚めた。
    小さくて暖かい毛玉が胸の上で震えている。
    息苦しさの正体はこいつらしい。

    「にゃめん、どうした」

    就寝の挨拶をした時には、バンジークスの寝室で
    にゃんじーくすと一緒に猫用ベッドにいたはずだ。
    いつものやんちゃで不遜な態度はどこへやら。
    身体をかたく縮こめて、亜双義の寝間着に爪を立ててしがみついている。
    顔を伏せ、耳もぺたりと寝ている。ひどく怯えているようだ。

    窓を叩く雨粒は激しさを増し、強風に揺れる枝がぶつかり合い、
    庭に出したままの何かが転がり屋敷の壁にあたったようだ。

    「怖いことでも思い出したか?」

    亜双義が優しく尋ねると、にゃめんは少しだけ顔を上げた。
    その目はうるんでいる。

    にゃめんが倫敦に来るまでの旅路について、自身は語らない。
    しかし、亜双義が記憶をなくした時の苦労を思えば、
    ちっぽけな子猫がひとりで辿った日々がどれほど危険に満ちていたかは
    想像にたやすい。
    雨風をしのげぬ場所で寝た日もあっただろう。
    乱暴な人や、縄張りに踏み込まれ怒る獣に襲われたこともあるはずだ。
    この屋敷にたどり着いた時のぼろぼろだった姿からも伺える。
    今夜、たえず聞こえる嵐の騒々しさは、きっとそれらを思い出すに
    充分な恐ろしさだ。

    カーテンごしに稲光が鋭く闇を裂くと、少し遅れて轟音が響いた。
    その音に再びにゃめんは顔を伏せ、亜双義の胸元にぴたりとくっつける。

    「俺も覚えがある。すがる相手もいなかったな……」

    荒れた海の上、質素な船室で過ごした夜は何度もあった。
    船の揺れのままに揺さぶられるハンモックの中、自分で自分の体を抱きしめ、
    ひたすら無事を祈り震えるしかないあの時間。
    できることなら二度と経験したくない。

    腕を伸ばし、にゃめんをそっとなでる。しばらくそうしていると、
    震えは少しずつ収まり、身体のこわばりがほどけていった。

    「にゃんじーくすと一緒にいなくていいのか?」

    にゃめんは顔を伏せたまま、ふるふると横に振った。
    こんなに殊勝な姿は初めて見たかもしれない。

    「こんな姿を主に見せたくない気持ちは分かる。好きにするといい」

    亜双義の呼吸に合わせてゆっくりと上下する胸の上で、
    にゃめんはようやく落ち着いてきたようだ。

    嵐が遠くに去った頃、部屋の中には穏やかな寝息がふたつ、重なって響いていた。
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