Precious Lights砂漠の夜風が冷たく身を切り裂いていく。
遠くに見える先程発ったばかりの忘れられたオアシスの灯りを振り返り、俺は目の前の寂れた小屋の扉を開いた──……
テッドの前に突然現れた、アルダシア・ガラムという男。
あの男が現れてから、テッドの様子が目に見えておかしくなった。
あんなに人懐こかった笑顔が陰を帯び、あからさまに俺といる時間を作らないようにしている。
アルダシアを初めて見た時、全身の毛が逆立つような嫌な予感が背筋を撫でていったのを思い出す。
人当たりの良さそうな雰囲気の裏にある邪悪。この俺がそれを見逃すものか。
いずれ起こるだろう全面衝突の気配を感じ、俺はアルダシアのことを調べ始めた。
だが予想通り、どれだけ調べてもほとんどこれといった情報が出てこない。どこにでもいる、『普通の中堅冒険者』。それが表向きの奴の「設定」なのだろう。俺が、『小さな交易船の若手航行士』だったように。
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