「お前が、呪いをかけたのか?」
俺に関する記憶をすべて失った騎士団長から襟首を掴まれ凄まれる。
呪い。
悩んで悩んで、覚悟を決めて行動した結果がこれだ。
普通の人間である騎士団長に主従契約はできないと何度も伝えた。
主従契約とは一般的に悪魔や吸血鬼と従属契約を結ぶものであり、魔力の有無にかかわらず人間と行うものではない。
従者として傍にいさせてほしい、悪魔からコアを貰い身体に埋め込めば理論上はできるらしい、と手当たり次第調べてきた確証のない方法を試そうとされれば、決意も揺らぐ。
魔界に行くと連絡が入った時は分かったからやめてくれと懇願してしまった。
「本当にいいんだな?」
「あぁ」
最後の確認に少し目を細める彼の胸元へ手のひらを持って行くが、人間離れさせてしまうことへの申し訳なさで魔力は出てこない。
きっとこの先、彼には未来がある。
素敵な人と結婚して、子どもを授かって、暖かい家庭を築いて。
思い描いた未来の家族は幸せそうに笑っている。
自分とは違う、普通の人間の彼に契約などするべきではない。
「……やっぱり止めないか?」
「……春人、俺があいつらよりも実力不足なのは理解してる。お前の従者として相応しくなれるよう努力する」
だから頼む、と真剣な瞳で見つめられて俺は折れてしまった。
折れるべきではなかったのに。
突っぱねて突っぱねて、嫌われるくらい突っぱねるべきだった。
好きな男に弱いのだ俺は。
***
俺が主従契約に求めるのはいつも同じ。
ずっと俺の傍にいて。
他の人を好きにならないで。
ずっと俺だけを愛して。
ただそれだけだ。
それに頷いたら俺も覚悟を決めて、身体中に魔力を循環させる。
主従契約の呪文を唱えれば、魔法陣が浮かび上がる。
彼は頭を垂れ俺の手の甲へ口付けた。
契約の証である刻印──主の身体に刻むことができる──箇所へキスをして終了だ。
本来は。
魔力を持つ種族を付き従わせるものであり、人間同士で儀式として擬似的に行ったとしても主従契約を結ぶことはできない。
だから俺はある魔法をかけた。
主従契約に一番近そうな魔法を。
「そうだよ」
そうだ、お前に呪いをかけたのは俺だ。さあ嫌え。
煽るように鼻を鳴らして肯定すれば、剣先をこちらに突き刺してくる。
だが予測していた痛みは来ることはなく、カツンと顔から数センチも離れていない石壁から響いていた。
チッと吐き捨てるように舌打ちをして踵を返す。
やっぱり間違いだった。
長寿種族である俺が生きている限り成長が止まる魔法をかけるなんて。
終わり
騎士団長×創作くん
2025/01/09