日の光に飲まれた月は.
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いつもの昼の休憩時間に、いつもの屋上。なのにいつもと様子が違う二人がいた。少し蒸し暑く感じるようになっても、長袖の指定シャツを身につける二人は最低限の校則は守っているようだが、今進行中の行為がそのまま続行したら、学校には許されないことになるだろう。
「は…、なせっ!!」
「離さない」
「いきなりどうしたんだ類!ここ、学校、だ、ぞ…!」
日陰に半分しか入れていない二人は、誰かがドアを開ければすぐに気づく位置にいる。そして腰から胸までたくし上げられた黄色いセーターと、その下に潜らせてる血色の薄い白い腕を見れば、尋常じゃない状況だとすぐ気づくはずだ。
「今までも誰も来なかっただろう?」
「そういう問題じゃ…!っ…やめ、ろ!」
「やめない」
暴れるように手をばたつかせるたび、金髪もつられて揺れて日の光を眩しく反射し、地面の汚れが付着してもその輝かしさは変わらなかった。
「やっぱり何かあっただろ!!言いたいことがあるなら言え!」
「ないよ、何も」
日の光には到底勝てそうにない月色は、真っすぐな太陽の熱意に射抜かれ、己の醜さを姿ごと隠していく。
「逃げるな、隠すな!オレはどんなお前も受け入れると言っただろう!」
「……っ」
ぱっと小さな音と共に頬を暖かい手に包まれた紫の少年は、そのワンフレーズで顔を少し歪ませた。
「……」
「ほら。正直に言わないと一生このままだぞ」
「………」
「ちゃんと言えたら続き、いくらでもさせてやるが?」
「……ふ、なにそれ」
「……」
「…………やきもち、した」
手の主は案外力が強く……言葉も強く、どちらにも勝てない月は降参せざるを得なかった。それでも太陽に照らされてくっきりとなった自身の影を認めたくないのか、再び瞼を下した。
「やっぱりか」
「……気づいてたのかい」
「それしかないと思ってな。二限目の後のあいつだろ?正直オレもあれはちょっと近かったと思ったが……咄嗟に避けられなかったから、オレが悪い。」
頬に当てられた手が離れて、そのまま円を描きぱたりと両側のコンクリートに着地した。
「お詫びにと言ってはなんだが……オレを類のしたいようにするがいい」
「……っ」
ぱちくり、そんな堂々とした姿に、さっきまでのもやもやが一気に霧散し、目の前が明るくなった少年は、宝物でも抱えるように、地面から恋人を掬い上げ抱き締めた。
「ふふ… ふふふっ…… 司くんは、やはり凄いね」
「まあオレはスターだからな!これぐらいの察しのよさと懐の広さは持ち合わせて当然だ!」
「ありがとう。お蔭ですっかり気分が晴れたよ」
「元はと言えばオレが原因だからな……これからちゃんと気を付ける」
「そうしてくれると凄く助かるよ」
抱擁も会話も一段落ついた所、異様な静寂が流れた。
「……そ、そろそろお昼にしようか」
「え」
「え?」
「……」
「……?」
「し……しない、のか……?」
「え?」
「えっ」
コンクリートに直に寝転がっても何も変わらなかった二人の体温は、その会話にすらなっていない会話でぐっと上がってしまった。
「して……いいのかい?ここ、学校の、屋上だよ?」
「お、男に二言はない……!!というかそれ、お前が言うか……!?」
「フフフ、確かにそうだ。 ……では、お言葉に甘えて」
ちゅっとしたリップ音を合図に、二つの影は一つになり、物陰に飲まれていった。