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    shinyaemew

    @shinyaemew
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    shinyaemew

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    虫にびびる司とそれを助ける類の話

    ##類司SS

    真夏の夜に大魔王が出た日※ワンダーステージの構造を捏造してます。



     なんということだ、我々の大事なワンダーステージに、黒き大魔王が現れたのだ。現れて、そしてまた姿を消した。そんな最悪の状態だ。

     事件の現場はワンダーステージの休憩室――の中の更衣室に入るまでの共同スペースだ。普段は四人で打ち合わせをしたり、お菓子を食べながら息抜きするのに使っている。そして毎回使用後にちゃんと片付けと掃除もしている。ゴミも勿論毎日出しているぞ。清潔さはオレが保証する。それでも、現る時は現るのが、黒き大魔王の恐ろしさというものだ。

     心当たりがない訳ではない。時間だ。今はもう閉園時間で、外もすっかり暗くなっていた。人間がいなくなった頃に夜の生き物が動き出す。いつもなら四人でフェニックスワンダーランドのゲートまで一緒に向かうのだが、ゲートまですぐそこの所で、オレがスマホをロッカーに忘れてしまったことに気づき、取りに戻ってきたのだ。

     そして更衣室のロッカーにある目的のスマホに辿り着く前に、共同スペースの電気を付けた瞬間に、そいつの姿を目撃してしまい、悲鳴をあげる間もなく逃げられたのだ。それも、更衣室に入る時避けては通れない、ドア近くの棚の下へ。

     このまま通ったら「やあまた会えたな!」とあいつが飛び出てくる可能性が大いにある。あまりにも危険だ。

    「く……っ、どうすれば……っ」

     類達には先に行ってくれと伝えてしまった。そしてスマホは更衣室のロッカーの中だから助けも呼べない。大声を出したら届くだろうか? いや、ゲートからここまでの距離を考えると、オレのでっかいデシベルでも流石に……スマホを諦めて帰るか? だがメッセージが送れないとみんなに心配をかけてしまうことも……

    「司くん? スマホは……」
    「うぉあおあああ!!!?」
    「わっ!?」
    「!! る、るい!!!」

     恐怖で神経が過敏になっている所を後ろから話しかけられて心臓が口から飛び出るところだったぞ!! だがよくぞ来てくれた!!

    「るい!!!! 頼む!! なんとかしてくれ!!」
    「何の話……と、聞くまでもないね。さては虫でも出たのかな?」
    「話が早くて助かるぞ! 目標は黒いやつだ!」
    「それってゴ」
    「言うな」
    「ごめん」

     すまない類、今のオレはあいつの名前を聞くのも耐えられそうにないんだ。ああしかし、類がここにいてくれて本当に助かった。オレより8センチも高い180センチと聞いたが、今は300センチぐらいあるように見える。頼もしいぞ、我が演出家よ。

    「どこから出てきたんだい?」
    「電気をつけたら机の隣にいてな、見えた瞬間向こうの棚の段ボールの下に……逃げたんだ……っ」

     うう、目を閉じると脳裏に恐ろしい姿が走っていくようで嫌な鳥肌が立つぞ。

    「姿を思い出すのも辛いのにありがとう。殺虫スプレーは置いてあるから、ここはもう任せて外で……」
    「い、いやだ……真夏の夜だぞ……外にもいるかもしれないだろう……!」
    「えぇ……スプレーかけたら飛ぶかもしれないけどいいのかい?」
    「ヒィ……!」

     類の提案は冷静で正しい。外なら例えまた出たとしても広いので逃げ回れる。だがオレはもう限界だ。そんなこと分析できるぐらいの余裕もないんだ。こうしている間にもさっきのあいつは移動していて、今や近くまで来ているかもしれん。ようやく掴んだ藁を離せだなんてあまりにも過酷だ。(類は藁なんかじゃなく、むしろ丸太よりも頼もしいが)

    「アァッ! セカイ! セカイで待てばいいんだ! 類のスマホを」
    「それができたら真っ先にセカイへ送ったのだけれどね、生憎僕は昨夜充電を忘れてしまっていて……」
    「そうだった……」

     万策尽きた。どうやら神様は未来のスターであるオレの存在が気に食わないらしい。才能に溢れすぎているのも罪なのか?

    「そうだ。ちょっと待ってて」
    「む?」

     そう言って類はすぐ近くにある棚を漁り始め、おいおいおいそこから出てくるかもしれないだろうと思いながらも、類のパーカーを掴む手は離せなかった。

    「あった。簡易着ぐるみのうさちゃんだよ。中は……うん、ちゃんと綺麗だ。これなら後ろのファスナーを閉めれば物理的に虫の侵入を防げると思うよ。酸素を取り込むための換気穴はあるけれど、フィルターもあるから、そこから虫が入ってしまう心配もない。僕がゴ……そいつを退治している間、これを着て外で待っていてくれるかい?」

     丁寧で行き届いた説明と共に、可愛らしいピンクのそれを渡された。耳の所にリボンがついている。

    「……」
    「うさぎは嫌かな?」
    「着る……」
    「うんうん、いい子だ」

     緊張状態が続いたことで疲れてきた体に、もはやツッコむ気力もなくなった。類が見守る中、『うさちゃん』で身を包んだ。

    「すぐに終わらせるから」

     まるで子供をあやすように(うさちゃんの)頭を撫でられ、類は休憩室の扉の後ろに消えた。

     ドアの前で待とうとも思ったが、万一大魔王がドアの下から逃げ出したらオレはおしまいだ。暫く逡巡したのち、オレは夜風に吹かれる木々の音にも警戒しながら、ゆっくりステージのほうへ向かった。



     ◇


     スマホをロッカーに忘れてしまったと、司くんがワンダーステージへ戻っていった。本人には先に帰るように言われたけれど、えむくんの見送りをした所でやはり心配になった僕は、寧々の護衛をネネロボに任せ、早足でワンダーステージへ向かった。

    「うぉあおあああ!!!?」
    「わっ!?」

     休憩室のドアの前に見慣れた金色を見つけ、声をかけてみたら盛大に驚かれてしまい、悲鳴とも言えるそれをフェニックスワンダーランドに響かせてしまった。どうやら共同スペースにゴキブリが出てしまったらしい。幸い、元より休憩室には殺虫スプレーを置いてあるので、虫を退治することはそう難しくない。問題は、僕がきたのを認識した時点から、コアラのようにしがみついてきて離さない司くんである。

     まだ本人に伝えずにいるけれど、だいぶ前から僕は、自分が彼のことを好きだと気付いていた。なので彼とは違う意味で、僕の心臓も早鐘を打っていて、今にも口から飛び出しそうだ。幸か不幸か、彼はそんな僕の事情などつゆ知らず、ひたすらこの空間のどこかにいる虫に気を取られている。

     本当なら僕のスマホをワンタップし彼をセカイへ送れたらよかったけれど、充電を忘れた上に、ワンダーステージへ来ている途中にライトを使った関係で、もうバッテリーが1パーセントしか残っていない。

    「そうだ。ちょっと待ってて」
    「む?」

     そこで思い出した簡易着ぐるみの存在で事なきを得た。子供受けのいい可愛らしいうさぎの着ぐるみに、渋々足を入れた司くんの姿があまりに愛し……面白くて、写真に収めたかったけれど、それもバッテリーのせいで叶えなかった。

     エアも入れればうさ耳をぴんと立たせられる構造になっているが、勿論そんな暇はないので、そのせいでへにゃっと垂れている耳が、更に今の彼の無力感を演出している。かわいいなぁ。

    「すぐに終わらせるから」

     心許なそうに立っている彼(うさちゃん)の薄い毛並みがついている頭を一つ撫でて、休憩室の扉を閉じた。


     ◇


     さて、休憩室を少し散らかしてしまったけれど、無事彼を脅かした敵を退治することに成功した。宣言通りだいぶ早く済ませたつもりなのに、後始末もしたのちに扉を開けると、そこに彼の姿はなかった。

    「っ、司くん?」

     もしも外にも虫が出たら悲鳴の一つは聞こえたはずが、それもなかったから、もしかして今度は何かもっとよくないことに……と急いで外へ出たら、観客席のほうにぽつん、と卵のように丸くなっているピンクの物体が見えて、そっと胸を撫でおろした。

    「司くん。終わったよ」
    「! るい」

     無駄に驚かせないようになるべく声を軽くしてかけてみると、ばっとピンクのうさぎは頭を上げた。ぎゅっとされていたせいで顔が皺くちゃになり、可愛いはずのうさぎの顔が、今やホラー映画に出るようなものになってしまっていて実に面白い。

    「ちゃんと、みつけたか?」
    「うん、大きかったねぇ。でもちゃんとやっつけたよ。ここにも虫はないからもう脱いで大丈夫そうだ。ずっと中にいると暑いだろう?」
    「む……家まで着ていこうか悩んでいたところだ……」
    「未来のスターが不審者疑惑で捕まってしまったら困るだろう? 今日は司くんを家まで送るから、安心して出てきておいで」
    「本当か?? かたじけない……!!」
    「ふふ、どういたしまして」

     まだおぼつかない手足で脱がれた着ぐるみを受け取り、畳んで隣の席に置いた。明日も練習日だ、その時にまた片づければいい。司くんのロッカーから取ってきたスマホを渡し、二人でワンダーステージを後にした。



     今日この道を通ったのも四回目になる。いつの間にか園内の照明も最低限しか残っていない。隣を歩く彼の姿は街灯の薄い明かりで輪郭が曖昧になり、少し顔を向けると、シトラスと汗が混ざったような匂いが鼻腔をくすぐり、胸がざわざわする。

    「なぁ、類」
    「っ! ぁ、うん、どうかしたかい?」
    「? その、類が来なかったらどうなっていたかわからなかったからな。改めて礼を言うぞ」
    「あぁ、そんなこと。お安い御用さ。何となく様子を見に来てみてよかったよ」
    「虫が苦手なのもそろそろ克服したいものだが……なかなか難しくてな」

     司くんが虫をどれだけ苦手とするかは、彼といる時間を重ねるほど、よく知るようになってきた。ムカデのような多足類が特に苦手らしいが、目に見えるか見えないかぐらいの小さなクモにも、大敵に挑むような体制をとるぐらいだ。きっかけはまだわからないけれど、そう警戒させてしまうほどの怖い体験が、昔にあったのだろう。

    「それは……無理に、克服することもないんじゃないかな」
    「む? 類のことだから『ならばこの虫苦手克服機で頑張ってみようではないか!』……とでも返してくるかと思ったが」

     僕のモノマネをしているのか、目を見開きながらポケットから何かを取り出したような動きを見せてきた。僕のポケットは四次元ポケットかな?

    「フフフ、いつかは虫と関わるショーのオファーが来るかもしれないしね。ご所望なら作れないこともないけれど?」
    「い、いや、まだ大丈夫だからな! 遠慮しておくぞ!!」
    「おやおや、遠慮なんていならいよ。でも、」

     たとえ怖いものを克服できなくても、君が呼んでくれるなら、いつでもどこへでも駆けつけるし、君が望むなら、怖い虫なんて近づけないように、ずっと傍にいるさ。

    「? でも、なんだ?」
    「……いや、今度ネネロボに、隠れてしまった虫を探し出す機能でもつけようかな、と思ってね」
    「そんなこともできるのか!? 楽しみにしてるぞ!!」

     そんな口説き文句、結局口には出せなかったけれど。キラキラした瞳で真っすぐ見つめてくる君を見て、僕は僕のできる限りのことをしてあげようと決めたよ。




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