兄離れなんてできない ひゅ、と腕が冷気に当たった気がして、ほんの少し意識を浮上させ、重い目蓋を開けてみたら、月の光の中で、揺れる藤色が見えた。弟の類だ。きっとまた夜遅くまで本を読んでいたのだろう。
いくら知識を積んで賢くなっても、布団の中へ入ってこようとする仕草だけは、子供の頃となんら変わらない。しかし今や類も百八十センチに大きくなっていて、あと一年もすれば高等学校を卒業する歳だ。もうオレのララバイも、寝る前の絵本も必要ない。
「ん……もう一緒には寝れないと言っただろう……」
一人用のベッドが二人目の体重でギシ、と悲鳴を出すので、冷えてきた右手で類の侵入を止めた。はずだが。
「兄さんの隣じゃないと眠れないんだ」
伸ばした腕とオレの体ごと抱き枕代わりにされて、類は布団に潜り込んできた。まだほんのり、本の匂いがする。逆の体勢を取っていたのはいつまでだっただろうか。中等学校の頃からもう、オレの腕に収まらなかったと記憶している。
「……おやすみ、るい」
「おやすみ。……――だよ、兄さん」
最後に何かを言われたような気がしたが、類の体温に包まれて、ぽわぽわする脳が音を言葉へ変換する前に溶けてしまい、わからなくなった。