君に甘いエールを 新調した水色のカーディガンは、五時間目になると特に心地よく感じる。手の甲に少し多めに被せるだけで、全身が柔らかい生地に包まれたような錯覚で微睡そうになり、どんな先生の話もララバイに聞こえてくる。
そうなるのも、昼食をお腹いっぱいに食べた上に、昼寝をしていなかったからだろう。今日も司くんが用意してくれたお弁当には、肉団子に、唐揚げ、たこの形に切られたウインナーがぎゅうぎゅうっと詰まっていた。美味しいそれらと共に並んでいるオレンジっぽい塊や、緑っぽい束を司くんに返しても、十分にお腹が膨れる量だった。
そして時間があればショーのことを語らずにはいられない僕達に通常の昼休み時間が足りるはずがなく、喋りながら彼の手料理をじっくり味わっていたら、弁当箱が空になる頃には、午後の授業を知らせる予鈴も鳴り出すわけだ。
それを思い出し吟味しながら窓の方をぼんやり眺めていると、開け放たれた窓から一枚、色づいた葉がそよ風に運ばれてきた。ふわふわとゆっくり重力に負けていくそれを目で追うが、ついにぽん、と僕の斜め左手前にある金色の大地に着地した。
「むぐ……」
あ、大地ががくりと揺れて葉っぱが机に落ちた。
風紀委員でありながら授業中に船を漕いでしまっている彼は愛しい。先生に見つかるまで見守っているのもいいけれど、今日は起こしてみようかな。と、僕は引き出しからちょうどいい大きさの紙を取り出し、折り目をつけながら、丁寧に形にしていく。
普通に折って、普通に飛ばしては面白くない。紙飛行機と言っても、形は世間のそれとは少し違う。真ん中に物入れスペースを備えてるそれは、バランスよく飛べて、彼にぶつけずに机に着陸できる優れものである。
プラスチックパッケージに入った一個入りのラムネを紙飛行機に乗せて、彼の机を目掛けて方向を定め、風を待った。
今だ。
飛ばす角度まで計算した僕の手から放たれた紙飛行機は、綺麗な弧を描いて、とん。
「どわぁっ!?」
「あっ」
ちょうどもう一際大きくがくっと頷いた彼の頬に突撃しては、呆気なく教科書に墜落してしまった。ふむ、少し計算外なことが起きてしまったけれど、結果オーライかな?
「類!!!!!!」
「天馬!!!! 授業中だ!!!!」
「すみませんッ!!!!」
テンポのいいそのやり取りに、どっと教室に笑い声が溢れた。数秒間前まで夢うつつだったというのに、何故あんな大きな声がすぐに出せるんだろう。何故僕だとわかってしまうんだろう。
羞恥で顔を真っ赤にしながら不服そうに睨んでくる琥珀色がひどく愛らしくて、笑いを堪え難いけれど、何とか声に出さずにノートで返事をすることに成功した。
『司くんが眠ってしまいそうだから、起こそうと思っただけだよ? よよよ』
三秒間ぐらい真剣に文字を読んだ後に彼もまた、ノートにペンを走らせてはバン! と見せてきた。どれどれ。
『よよよって文字で書くな』
ツッコむ所そこかい?
参ったな、どうしたらもっと面白い返事が出せるんだろうと考えているうちに、彼はもう顔を前へと戻していて、僕の細やかなプレゼントに気づいたようだった。
ラムネのパッケージをじっと見ているけれど、どうしたのかな。風紀委員になると、授業中は飴の一つも食べられないだろうか。あ、また振り向いた。
『ありがとうな!』
と、口の形と惜しみない笑顔で伝えられたので、自然と『どういたしまして』と微笑んで返せた。
僕達の即興劇はこれにてピリオドを打たれたが、紙飛行機に運ばれたラムネが彼の頬を小さく膨らませたように、僕の口の中に広がった甘味も、休憩時間になるまで長く続いた。