笑顔を取り戻すために 人間は滑稽だ。
有限の時間を最大限に活用せず、修行にも励まず、毎日道楽に耽っている。人間の数倍の命を持ち、人間より何倍も力強いオレでさえ日々怠らず修行をしているというのに。
強くならなければ、守りたい人も守れないのに。
ほら今日も町で人々が道化に群がっている。あんな馬鹿なことしている暇があれば、鍛錬の一つや二つぐらい、できていただろうに。
「やあ。今日も来てくれたんだね、天狗くん。前にも伝えたはずだけれど、そんな高い所から見ても、ショウの面白さは十分に感じられないよ」
「顔もまともに見せないお前なぞの『ショウ』とやらを見に来たのではない。一日の鍛錬を終え、休憩に相応しいこの高木で羽を休めさせているだけだ。そっちが勝手に木の下で煩く騒音を立てているんだ」
「そうかい。でもやめないよ。この大通りでやるほうが一番多くの人々を笑顔にできるからね。君もどうだい?」
「ふん、道楽に耽る弱き人間と一緒くたにするな」
確かにこいつは人間に笑顔を与えている。だが人間は弱い。どれだけ笑っていても、それは自身を守る力にすらならない。
オレは……笑顔より、力を手に入れないといけない。
「……一回降りてみなよ。気高き天狗様も地から離れたくなくなるほど、最高なショウを魅せてあげる」
「煩いぞ」
――『お兄ちゃん、泣かないで。アタシ、大丈夫だから。痛くないから、笑っ……て、』
「……そんなくだらんことに費やせる時間などない」
時間が、ないのだ。オレには。
「うーん今日も失敗かぁ。なかなか難しい依頼を引き受けちゃったねぇ」
眉間に皺を寄せ、むっとした顔のまま一目僕を見下ろしては、黒き翼を広げ飛んでいく彼の姿は段々と小さくなり、やがて赤く燃える夕焼け空に消えた。
「すまないね咲希くん。必ず君のお兄さん……いや、僕達の司くんの笑顔を取り戻すよ。だから君も……どうか耐えていてくれ。司くんのためにも、ね」
開発中のカラクリを改良すれば、高い所からでも見栄えよく飛ばせるのだろうか。彼一人ためだけにショウをするのなら簡単だけれど、警戒高い彼のことだから、大道芸人を扮する僕がそんなことしたらますます怪しんで距離を取られてしまうだろう。
明日も彼は同じ時間にここに来るんだ。それまでに、新しい「ショウ」を考えておかなければ。
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天狗がなんだ。上等だ。おいしくもぐもぐしてみせよう。のなんちゃって設定(あんま深く考えてないのでご都合設定しかない)
◆ほぼ天狗じゃない咲希:
天狗と人間の子供。99%人間の血を継いじゃったので大変体弱い。子供の頃下級妖怪に襲われて命を落してしまいそうになった。死んではいないが、ベッドから降りられない仮死状態を何年も続いている。親愛なる人の心からの笑顔が力の源だけど言葉が出なくて司に伝えられない。
◆天狗の司:
天狗と人間の子供。天狗の血を多く継いだので強い。強いけど子供は子供なので、下級妖怪を追い払えず咲希を傷つけられた。仮死状態に入る前に見た咲希の無理した笑顔が悲しくて笑わなくなった。強くなって妖怪の頂点になれば咲希を救う方法を見つけられると思い込んでいる。
◆あまり強くない天狗の類:
司と咲希のことを子供の頃から知っていた、あまり強くない天狗。いつも笑顔な二人に力をもらっていた。事件のことを知り、どう二人を助ければいいかわからなくて迷っていた。
ある日咲希を見舞いに行ったらなんと咲希の心の声が聞こえ、でもそのまま司に伝えても、友人でもない自分を信じてもらえるか&また心から笑ってくれるかわからなくて、道化になって司の笑顔を取り戻そうと決めた。