全部覚えてる「逃げたって無駄だよKK」
後ろからかかった声に、KKは大きくため息をつく。
「もうくんなつっただろうが、クソガキ」
わざと苛立ちを前面に押し出して顔すら見ずに伝えたのに、大きな子供はけしてめげることがない。これはいったい何度目の問答だろう。
「あんたが僕を、普通の世界に還そうとしてくれるのはわかってる」
わかっているならば大人しく言いつけをきけばいいのに、この跳ねっ返りときたら少しも聞きやしない。
そのまま無言を貫き、いつもと同じく振り返らずに去ろうとしたとき、「でもさ」と暁人が続けた。
「あんたのことは身体が覚えてるから」
とんでもないセリフに息を吸い込み損ね、思わずむせて青年を見てしまった。ばちりと視線が合う。久方ぶりに正面から見た暁人は、勝ったとばかりにほくそ笑んでいて腹立たしい。
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