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    kira2starlb1

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    kira2starlb1

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    尻叩きのサン穹…

    ハピエンになるらしい 多分一面の真っ白、雪、雪、そして雪。
    身を刺すような冷たさに自らを温めるものなどこの場に存在しないと知る。
    独り言のようにほう、と小さくついたため息も白になり、散り散りとなって消えてゆく。
    どうして俺はこんなところに立っているのだっけ、どうして自分はこんな場所で一人立ち尽くしたままでいるのだっけ。
    身を切るかのような冷たさが自分の愚かさを咎めるかのようだった、ふと我に返って辺りを見渡しても誰もいない。そんなの当たり前だ。

    「寒い…」

    そういえば、何かを探しにきたような気もするのだ。
    何か大事なものを落とした時のような、バッグをひっくり返して無くしたものを探しているときのような焦燥感に身を包まれているのだからきっとそうだ。
    指先が悴んで動かない、ため息を吐くための唇も、もうとっくに凍ってしまっているような気がする。

    「さむいよ…」

    だんだん眠くなってきてしまって、寝てはダメだとわかっているのに瞼は落ちる━…あぁ、もう、ダメかも。

    身を包む寒さが冷たさとなって、痛みとなって…雪に埋もれたこの身を、何百年後か先にもの好きな誰かが掘り起こしてくれたらいいな、と思った。
    きっとこの姿のまま綺麗に凍っているだろう…冷凍保存だなんて言葉は聞いたことがあるが、そういえばソレは内臓もきちんと凍ったまま残るのだろうか?
    誰かが解凍してくれれば、もしかしたら俺のこの体なら息を吹き返せるのかも。

    「……し…い」

    雪が頬に落ちたのだと思った。
    音もなく誰かが俺の頬に触れた。










    体が重い。
    死んだら人は体が軽くなると、よく物語では描写されるが…俺はそうはいかなかったらしい。
    死の世界から返品されたのだと気づいたのは、知らない天井のように思えたこの部屋が、実はよく見知った場所であると思い出したからだ。
    動き出そうと思って、けれど指先一本すら動かない。

    「…」

    唇だって動きやしない。
    それもそうだ、ついさっきまで凍っていたのだから…いや、さっき?どれだけの時間が経っているのだろう?
    そして今自分が思考しているこの感覚ですら、他人と自分に時間のズレが生じているのではないだろうか。
    その証拠にほら、時計の針が進むのがいつもより早く見える…

    「プリザーブドフラワーってご存知ですか?」

    それに、誰かがすぐ近くに来ていることすら気づかなかった。
    瞳を動かして声の方を見ると、ひどく怒った顔の友人がいたのだ。
    否、怒った顔ではないのだ。
    すっと眉毛はまっすぐに伸びていて口はきゅっと真横に結ばれている。
    しかし美しいその顔が俺に向けるのは…どう足掻いたっていかりなのだと、わかってしまう。

    「美しい花ならば、一番綺麗な瞬間を枯れることもないまま長いこと存在させ続けることができますがねぇ。残念ながら貴方は人間なので」

    腕を動かす。
    声の主の方へと伸ばす。
    届かなかったその手のひらを、彼は自分の方へと手繰り寄せ…握った。

    「馬鹿なんですか、貴方」

    あぁ、ひどく熱い。
    人間の体温とはここまで熱いものだっただろうか、まるで火傷しそうだ。
    その熱に安心してしまって、再び睡魔が襲う。
    きっとここで目を瞑ってしまっても今度は息絶える心配はないだろう。

    「本当に…お兄さん、貴方は愚かですよ…」

    手を包むように握った両手をまるで祈りのように額の方にやり、懺悔のように呟く彼は罪人のようだった。
    どうしてだろう、迷惑をかけたのは俺の方のはずだったのに?

    「……」

    何かを言いたくて、開きかけた口は彼の瞳から流れる涙に閉じられた。
    きっと何を言っても彼には届かない。
    随分独りよがりに傷つく男だ、助けた理由も、泣いた理由も、何も言ってはくれないのだから。

    「…しんぱいかけて、ごめん」

    結局、それを言うのが精一杯だった。
    彼はこっちを向かないし、俺はもう体力が限界だった。
    だから目を閉じて、重い体をベッドに預け、今はこの聖域の中で彼に守られることを選んだのだ。



    次に目を覚ましても、まだ彼は隣にいたままだった。
    どれくらいの間眠っていたのだろうか、ずいぶん体は動くようになったが腹は減らないままだった。
    体調が悪い時に食欲が湧かないメカニズムとは一体どういうことなのだろうか、調子が良くない時ほど何かを食べて回復したほうがいいと思うのだけれど…人体とは摩訶不思議なものである。

    「随分寝てましたね、体のあちこちが浮腫んでしまっていますよ」

    「……あ、ごめん」

    目を開くのが億劫なのは、顔が酷く浮腫んでいるからだった。
    顔をペタペタと触ると、確かに自慢のハリツヤを持つ頬に指が静かに沈んでいく。
    寝過ぎ、といえば聞こえはいいが生死の境目をうろうろしていたのだからこのくらいで済んで良かったというべきだろうか。

    「もういいですよ、拾った僕が悪いんですから。元気に外に飛び出していく…最後まで面倒は見ますよ」

    「俺としてはずっとここにいてもいいけど」

    素直に言葉を紡いだつもりだった。
    けれど彼の瞳は鋭いままだった。

    「…軽口を叩くくらいには回復したんですね?あぁよかった。本当貴方に死なれたら僕はどうなると思ってるんです?」

    へら、と笑う彼は全く笑っていない。
    けれど怒ってもいない。
    悲しいかな、わかってしまうのだ。

    「ごめん…悪かったって」

    「もうこんな事しないでくださいよ?不自然に盛り上がる雪の山を見た時僕がどれだけ血の気が引いたか…もうこんな思いはしたくないんですからねっ!」

    あ、嘘だ。

    「…サンポの邪魔にならないよう…すぐ出ていくから」

    「無茶言わないでくださいよ、そんな体でどこに行こうって言うんです?よくなるまではここにいてくださいね」

    これはきっと、本心だ。
    だから、期待をしてしまう。
    いつだってそうだ、嘘と本音がもうとっくの昔に判別できるようになってしまっているのだから期待をしてしまうのは仕方ない事なのだ。
    困った時は助け合う、迷惑をかけられたらかけ返す、相手が倒れるまでよりかかる、それが俺たちの関係だった…はずだろう?

    「僕は貴方が心配なんです」

    「嘘つけ」

    「本当ですよ」

    浮腫んだ足を労るように揉まれるのがくすぐったい。
    どうせそんなことしたって、俺は別に金なんて払わないのに。
    大きな手のひらが俺に触れている、それだけで火傷しそうなほど熱い体温が体の中に流れていくようだ。
    それだけでこの体が息を吹き返すようで、何ともまぁ人間とは単純な生き物だと思う。

    「なぁ」

    「はい、なんですか?」

    「理由、聞かないのか」

    「聞きたくもありませんよ、自殺志願者の言い訳だなんて」

    「………」

    「…事を起こす前に言ってくださいよ、今回は運が良かっただけです。ほんの数秒遅れてれば、助からなかったかもしれない…あぁ、次はきっと助かりませんからね」

    本当は言いたかった。
    俺はただ…お前に会いたかったんだ。って。
    でも聞きたくない、と言われたのだから口を噤むしかない。

    「…何か言ったらどうです?」



    ヤリーロでの件がひと段落つき、今度はあっちへ、こっちへ、そっちの依頼へと翻弄している中、将軍達との出会い、友人との別れ、再会、新しい場所での依頼…とてんてこまいになっていた俺は正直に言ってかなり忙しかった。
    新天地での依頼の量は凄いものだったし、〝冒険〟はどんどん先へと進んでいく。
    そんな中、心が折れそうになることもあった。
    だからこそ、何かによりかかりたかったのだ。
    ぐっと体の体重を預けてそのまま眠ってしまってもいいような、そんな存在に会いたかった。
    だから、何度か連絡をいれてみたのだ。
    今どこにいるの?…と。

    けれど返事はなかった。彼も忙しいのだろうと諦めていた筈だったが普段あれだけ即返事を返してくるような男から長い間返事がないと何となく不快になるものだ。
    不安ではなく、不快。
    コレが指し示すものは何か?自分は彼から好かれているという確固たる自信が打ちのめされた結果による不快感である。

    とどのつまり、勝手に期待して勝手に空回って、勝手に怒ったのだ。

    だから、探した。
    居そうな場所を徹底的に歩き回った。
    普段なら通らない路地裏も、沢山の人が行き来する往来も…けれど会えない。
    唯一会えたのは博物館でボランティアをしている時だったが、それは邪魔をしてはいけないと思い見なかったフリをした。

    そして返信が来たかと思えば、何とも言えないはぐらかすようなスタンプが一つ。
    はっきり言ってイラついた。

    そうして色んなところを歩き回り、あと探すとすればこの場所であろう…と体力を無視して雪原へ向かったところ、あのザマだったのだ。




    「………」

    「だぁんまりです、か。寂しいですねぇ僕はこんなにもお兄さんのことを甲斐甲斐しく看病してあげたというのに…しくしく」

    「ご、ごめんって」

    思わず体を起こす。
    俺を惑わすためのいつもの嘘だとわかっていても、その嘘にひっかかりたくなるほどに弱っていたのだ。
    わざとらしく泣く真似をして、にやりと笑ういつものこの男になぜだか酷く安堵した。

    「わかったらホラ、さっさと治して元気な姿見せてくださいよ。僕は仕事があるのでもう行きます」

    「え、行っちゃうのか」

    「当たり前でしょう!貴方の看病に何件の仕事を棒に振ったと思ってるんです?この借りはお高くつきますよ本当に」

    立ち上がり、ドアの方へと去っていく男の背中をただ眺めることしかできない。
    でも引き止めることなんて、できない。
    迷惑をかけたのはこちらなのだから。

    「あぁ…うん、そうだよな」

    「…もう、そんな顔しないでくださいよ。行きづらいじゃないですか」
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