お盆「ブラッドさま、これは何でしょうか?」
リトルトーキョーにある商店の店先にある置物を指してオスカーは言う。
パトロールの後にブラッドはオスカーを食事に行き、帰りに2人で歩いてタワーへ戻る途中の出来事だった。
「これは精霊馬というものだ。日本のこの時期に家に飾る風習がある」
「変わった形ですが何か意味があるものでしょうか?」
不思議そうな面持ちだ。ブラッドも実物を目にするのは初めてである。
「あちらの夏のある期間では先祖の霊がこの置物を先祖が乗るのりものにたとえて飾っているそうだ。お前が見ている胡瓜に支えがあるものは早馬に見立てているものだな。あの世からこの世へなるべく早く家に帰ってこれるように。こちらの茄子は出来るだけ現世に長く滞在できるようゆっくり帰り歩む牛のように、其々願いを込めて飾られるものだ」
オスカーはブラッドの話に興味深く耳を傾ける。
そのまま商店を過ぎ歩き続けようと足を踏み出すと、隣にいたオスカーは一歩後ろで少し考え込んでいる様子だった。
「オスカー、どうした?」
「…もし俺が死んだら」
オスカーが立ち止まった場所は街頭の真下。夜の闇も深い中意図せずその空間に彼だけが明るく照らされブラッドとは切り離されたように映った。
伏せ気味だった目を真っ直ぐブラッドに向ける。
「俺の脚ならこの馬よりも速くブラッドさまの元へ行って、日が変わる寸前まで一緒に居ます。牛が歩く時間の分長くブラッドさまと一緒に居られます」
「…そんな縁起でもないことを言うな」
オスカーはブラッドの言葉にハッとしすぐさま謝罪する。
殉職の話をしているのではない。俺より先に手の届かない場所に行かないで欲しいだけ。
ブラッドは無言で彼の手を引き、光の外へと連れ出していった。