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    ネオン(どシコりシコ太郎)

    @neon_ug

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    ここをFGOの帝都騎殺/龍以のえっちな作文とか絵とかを格納するキャンプ地とする🏕️すけべな人だけ通りなさい

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    POIPOI 97

    ・パイロンとデッドローンのアレから豊かな妄想を膨らませた、イマジナリ香港マフィアパロ?話
    ・九龍城塞が世界で唯一都市となった微小特異点という世界設定
    ・九龍城塞をモチーフにしている以外の世界感がかなり捏造ばかりなのでご留意を
    ・パイデの衆人環視スケベを書くために書き始めたネタなのに…
    ・ラストまでストーリーラインできてしまったから8月後とかにできれば最後まで書きたい

    ・・・・・・・・・・・・・・・・・






    「……ツボ」

    血の色の長袍(チャンパオ)を纏った、老翁というには精悍な白髪の短髪が、低く小さく呟く。白々しく光る蛍光灯を受けても、小さな正円のサングラスに隠れた瞳は覗かれることを良しとしていないようだった。

    「任された! アンタたち、しっかり目ん玉開いて見ておきな! 壺をかぶるよ」

    中盆の翁の進行を受け、場を挟んでその真正面に座っていた女の、張艶のある声が響く。後頭部の高い位置で一括りにされたマゼンタのロングヘアがしなやかに揺れる。
    ここはこのエリア――少し前までは九龍(カオルーン)と呼ばれていた、とある国の半島地区であり、今となっては世界に唯一存在する都市――の中で数少ない、公認されている賭場のうちのひとつである。
    いま執り行われているのは「丁半」というダイスを使った賭け事だ。世界が矮小化される前に存在していた「二ホン」という国の古い賭博で、それに合わせてなのかこの賭場の内装もその二ホンの伝統的な造りを模したものになっていた。床材は畳――板に藺草(いぐさ)と呼ばれる植物を織り上げた、目の細かい、微かに青みがかった色のもの――が何枚も組み敷き詰められ、パズルのように見事、隙間もなくフロアを覆っている。そこに敷かれた長い矩形の真っ白な綿布で床は東西をちょうど二つに分かたれており、彼岸と此岸に分かれて客はその畳の上に直接、胡坐をかいて座り込んでいるという構図であった。
    ポニーテールの美女が、右手で握った茶碗程度のサイズの笊(ざる)の中に賽子(サイコロ)を入れる。そして目の前の白布の上に乗せられた、床材と同じ素材の小さな板盆の上に笊を勢いよく伏せるとほぼ同時に、左手の指の股を大きく開いて客達へ見せつけた。
    所謂「壺振り」と言われる役回りの、女が着ているのはニホンの民族衣装だ。たしか名前をキモノといったそれは一枚の平らな布を体に巻きつけたような不思議な、いかにもエキゾチックな雰囲気がある。その臙脂の衣装の、両肩をすとんと落としてしまって顕になった肌色の艶が室内灯を受けて煌めいている。惜しむらくはその豊かな胸元が真っ白な、包帯のような布でしっかりと覆い隠されてしまっていることだった。

    「どっちも、どっちも」

    サングラスの翁が賭けのスタートを示す掛け声を発すると、それを合図に場を囲む客がやんややんやとざわめきだす。

    「さてさて、今日は拙者神がかってツイてますからな〜! 最後も華麗にキメちゃいますぞ〜!」

    白のTシャツにジーンズといった極めてラフな格好の男が半場へたんまりと札束を積んでいく。それを見た真向いの美青年の、凛とした声が場の喧騒の中できらりと光った。

    「黒髭の旦那、調子良いねえ! 次も勝ったら一杯奢ってくれよ、ほら、S−A地区に新しく魚蛋河(ユーダンホ)の店が出来ただろ」

    掛金を丁場に出す手首を覆う藍のバンデージ以外、剥き出しの上半身が羽織るのは精緻に彫られた紅牡丹の刺青だ。眦の切れ込んだ鋭い目つきが妖艶な、濡れた黒い長髪を後ろでひとつに結わえた男は見た目と裏腹に豪放磊落、呵々と笑って振舞酒を強請る。
    それを聞いて口回りや顎にふさふさと、呼ばれた通りに真黒な髭を蓄えた男は大きく舌打ちを返した。

    「ケ〜ッ何が哀しくてあぶく銭を男に貢がないとならないワケ……いやでも燕青氏肌とかマジ綺麗だし? ワンチャンイケる……ワケないない! 拙者目を覚まして!! ムリムリ無理無理、拙者もう新しく買うフィギュア決めちゃってますんで!」
    「ん? 目抜き通りのふぃぎゅあ? やらなんやら置いちょった店に行くんかえ?」

    それを聞いて黒髭の左隣に片膝を立てて座り込んでいた男が、首を傾けて話に加わる。右目を黒い前髪で隠し、緩くうねる癖っ毛を後ろで高く結んで、これもまた二ホンという国の昔の伝統衣装、「ナガギ」と「ハカマ」の上に重苦しい墨色のコートを羽織った、年の頃なら二十代半ば、うらぶれた気怠い雰囲気の青年だ。

    「そうそうそうそうやだ〜! 岡田氏も実は同好の士だったりしちゃうワケですかな?? んんッ、それなら好みの一体、プレゼントするのも吝かではないですぞ~??」

    思わぬ同志の発見に浮足立った黒髭は、青年の左肩に手を回してがっちり抱きよせるとゆさゆさと大きくその身体を揺らして喜びを伝える。丁場に金を置こうとした無骨な指に握られていた薄い数枚の札が、それに合わせてペラペラと揺れる。

    「い、いんや、ほうじゃのうて……昨日のドンパチであん店、わやになっちょったがよ」
    「わや?」
    「ええと、めちゃくちゃに壊れてしもうて、工事中じゃ」
    「は?」

    呆けた顔で動きを止めてしまった黒髭の手を払いのけてもう一度、青年は事実をありのままに口にした。

    「工事中で、暫く休みじゃ」
    「おい以蔵、ダメ押しするなって」

    くつくつと笑いを堪えられない燕青が、慰めにもならない台詞を吐く。
    すると、ぱあんと手を打つ音がひとつ響き、壺振りの女が中盆の代わりにと玲瓏な声を張り上げた。

    「さぁて、丁方、ないかい?」

    古い西洋風の美術館に飾られていてもおかしくない、精巧な造りの顔。その中央を斜めに走る大きな傷痕を挟んだ青く澄んだ瞳がぐるり、対面側に。それから自分の左右をじっとりと目配せた。

    「おーの、ちっくと待っとおせ、今置くきに」

    黒髭の手を払いのけ、以蔵と呼ばれた青年がなけなしの掛金を丁場へ置くと、それを以てニヤリ、深紅の長袍を纏って微動だにしなかった老翁が重く口を開いた。

    「……丁半揃いのようで。ドレイク、勝負の時間だ」

    広くはないその部屋の中は、集まった人間たちのいきれでじっとりと、汗ばむくらいに張り詰めている。今か今かと女の右手に握られた笊に釘付けの視線が場をいっそう熱くしていくのを他所に、驚くほど場違いな軽快さでドレイクと言う名の壺振りが笑った。

    「はいよ、さあさ今日の運命の結果、とくとご覧あれ!」

    勢いよく盆切れの上の笊が上げられ、現れた賽子の目が中盆の老翁によって読み上げられる。

    「……イチニの半、イチニの半」

    最後の勝負ということもあり、半場丁場、人間もサーヴァントも分け隔てなくドッと沸き立つ。掛け金と場代のやり取りで悲喜交々の中、手元の札束を指で数えながら燕青が楽し気に口を開いた。

    「あらら、黒髭も以蔵ももしかして素寒貧かぁ?」
    「…………」

    その向かいに座るふたりは言葉すらなく、重たい視線で勝者を射る。

    「やだ以蔵ってば、まぁたテラ銭すら払えないの?」
    「…………」
    「拙者はテラ銭は払えますぞ! 流石に」

    黙って苦い顔を続ける以蔵の伏せた視線に、血の色の布が横切るのが映る。

    「何だ小僧、またツケか? 構わんがそろそろ上がお怒りになるぞ」
    「やかぁしいわジジイ……クソッ毎度毎度最後に負けちゅう、なんぞ仕込んじょらんろうなぁ?」

    青年が大きく舌打ちをすると、その頭をポンポンと叩く掌と共に豪快な艶笑が降ってきた。

    「ハハッ、そんな器用な真似、そこの李のジジイならさておきアタシにゃ無理ってもんだろうよ」
    「オイっ気安く触りなや」

    その手を振り払って見上げれば、肩脱ぎの着物をそのままにやってきた壺振りの女がニヤついている。

    「なに言ってるんだい、こういう時は喜ぶんだよ少年」
    「拙者の一万HKD(香港ドル)~!! BBA~!! ぜってーなんかやってるだろ!!」

    文句のひとつふたつ返してやろうと以蔵が口を開くより早く、黒髭が女に食ってかかる。

    「なんだい人聞きの悪い! アタシはアンタと同じ、船を海を世界に奪われたしがない流れの海賊崩れさ」
    「うっ攻めたつもりが返す刀でバッサリと……」

    ドレイクも黒髭も元はといえば、旧世界では当世にも後世にも名を轟かせた大海賊のひとりである。それも今、海などすべて消え去ってしまったこの新しい世界では詮無きことで、一方はマフィア子飼いの壺振りなんぞに身を窶し、もう一方は旧いニホンのオタク文化に染まりきって新たな今生を謳歌していたりなどするものだから、使い魔人生もままならない、わからないものである。

    「……まあでも、白龍の旦那ならまさに読んで如くの『思う壺』さね」

    ――白龍(パイロン)。
    このエリアを包括する三合会(トライアド)の現龍頭(トップ)である男の通り名をドレイクが口にするだけで、周りの数人がさっと顔色を青褪めさせる。
    この新しい九龍城砦都市はいくつかのマフィアがそれぞれのエリアを管理運営することで成立している。そのうちのひとつ、元々弱小結社であったトライアドの首領がその地位を若い美丈夫に禅譲したという噂が流れて数カ月、この地区は目を見張るスピードでその勢力を拡大し続けていた。

    「のう爺、そんパイロンつうお偉いさんに上手いこと言うてくれんかえ」
    「呵々、面白い冗談だ。ここは自分の尻も自分で拭けぬ赤子が来る場所ではなかろうよ」

    ツケの無心の無償委託というとんでもない狼藉を働いた以蔵に、李老師はゆったりとした動きで腕を巡らせたかと思ったのも束の間、瞬きも周回遅れの速さでパシン、と小気味の良い音が鳴る。

    「あでッ!」
    「……ドレイク、この不束者をこのまま返すか?」

    座ったままの債務者の、首巻きをぐいと引っ摘まんで逃げられないように固定してから、老翁は本日初めて口の端を釣り上げた。

    「いやいやまさか、アタシが怒られちまう! なあイゾー、素寒貧にお誂向きの良い話があるんだよ、この後時間は?」
    「ったく相変わらず冗談の通じんやっちゃ……ああん? 今わしに残っちゅうんは時間ばぁやろう」
    「良い返事だねえ、そうと決まったらついてきな」

    首巻き(リード)の端を握ったドレイクはぐいとそれを引っ張って以蔵を立ち上がらせると、ぐいぐい部屋の奥へ連行していく。

    「オイッ! 首巻きを引っ張りなや!! オエッ締まる締まる締まる」
    「あ〜らら。頑張れいぞー、今度会ったら一杯奢ってやるよ」
    「えっなんかちょっと羨ましいとか思ってないですけど! 思ってないですけど〜!!」

    身から出た錆ではあるが、あまりに乱暴にずるずると美女に引きずられる一文無しを、燕青と黒髭はひらひらと片手を振って見送った。


    ・・・


    かくして以蔵が連れ込まれたのは出入口とは真逆にある、腐食の目立つ扉の奥だった。そこはこの賭場のバックヤードのようで、白布やら盆茣蓙(ぼんござ)やらの設営備品やら、別の用途に必要なのか金屏風に楽器、酒器の類までが雑多に収納されている中にひとつ、一人分の灰色をしたオフィスデスクが置いてあり、その前には一応客を饗すためのローテーブルがぽつねんと据えられている。それを挟むように二台のソファが存在してはいるものの、その面積のほとんどは荷物置きと化していて座面が見当たらない。

    「そこのソファにでも掛けたらどうだい」
    「これのどこに座れるっちゅーんじゃ」
    「ああ、置いてるものは適当に避けとくれよ」
    「雑……」

    以蔵は指示の通り、一番手近にあった大きなカエルのぬいぐるみを抱きかかえると、空いた席に鷹揚に腰を下ろした。

    「……で? どがな要件じゃ」
    「なぁに、金が払えないならいつも通り、そのご立派な身体で仕事(はら)ってもらおうって話さ」
    「ほにほに、承知仕った! 今夜はついに姐さんが相手かえ?」

    顎に手を当て乾いた下唇をぺろりひと舐め、男の挑発的な視線が投げかけられたのに気付いた女傑は豪快に笑い声を響かせてその質問を一蹴する。

    「残念、生憎アタシには御稚児趣味はないんでね! それよりどうだいこの子、可愛いだろ?」

    言ったドレイクがローテーブルの上に投げて寄越した資料は、左上をクリップ留めにされていて、一枚の写真とA4の書類が数枚連なっている。写真に映っているのはいかにも三下風の三白眼、似合わない金色の短髪が目立つ粗野な若い男だ。

    「隣のシマのゴロツキ風情がわざわざこっちで人攫いなんて、図々しいにも程がある」
    「人攫い、のぅ」
    「みぃんな花の咲いたみたいな女ばかり、親御さんが泣いて泣いて、ついに龍頭(ロンタオ)のところまで直訴に来たのも居たらしいよ」
    「……で? わしに何をさせようち考えゆう?」

    まだ先程の下卑たにやけ面を浮かべたままで以蔵が尋ねる。

    「泥棒猫の捕獲依頼さ。最近名も売れてきたようじゃないか、なあ? デッドローン・イゾー?」

    ドレイクは彼にとっては極めて不名誉な通り名を口にして、同じように賤陋な笑みを返した。
    ――ツケに借金、常に懐事情が瀕死の博打好きがこうもギャンブルを続けられるのには理由がある。首が回らずどうにもならなくなったとき、彼は猫探しから暗殺まで、依頼人の忠実な犬となり万事をこなす請負人に変貌するのだ。ある時は丸腰で無垢な少女の愛猫を追いかけ回し、ある時は腰に差したカタナで音も立てずに標的の首を掻き切る、仕事の貴賤を倫理に問わぬその仕事ぶりは界隈でも俄に評判を上げていた。

    「……こがぁ大型の猫やとちっくと骨が折れそうじゃ」
    「なんだって?」

    机に資料を放った男の嫌な物言いに美女が眉を跳ね上げる。

    「二割増しで手を打っちゃろ」

    以蔵はここぞとばかりに手の甲を見せた横向きのピースサインでニヤニヤと嗤って、依頼料の割増を強請る。

    「それはアタシの判断の範疇外、終わったら龍頭にでも交渉してみたらどうだい」
    「……そがぁお偉いさんに、組織のモンでもない野良犬が会えるもんかえ?」
    「なあに簡単な話だよ、捕まえた猫を直接引き渡せばいいのさ」

    言って美貌の女は人差し指をピンと立てると、ぱちんと片目を閉じて見せた。

    [続]
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