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    shinashi_natuka

    @shinashi_natuka

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    shinashi_natuka

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    遊郭パロ龍つばの身請け後の話的な……

    色々あり長らくかけてなかったBつばのリハビリに。

    ぱしゃ、と水面に指を滑らせれば反射して映し出されていた自分の顔や咲き誇る藤の花々が歪んだ。見上げれば、流れる川を跨ぐように作られた藤棚で満開の藤が風に揺れている。
    遊郭にいた時に触れたものとは違う生きた水と、話しに聞いていただけで実際目にしたことがなかった大輪の花々。指先から伝わるひやりとした温度と目の前に広がる光景に、改めて外に出られたのだと実感して。
    「つばさ……つばさ」
    二度ほど名前を呼ばれ、つばさはようやく声の方に振り返る。そうだ、自分の名前はもう〝空〟ではなく〝つばさ〟に戻ったのだった。
    「……龍広さん」
    振り返った視線の先には、藤の花と同じ色の髪が風に揺れていた。
    「ここにいたのか」
    探したぞ、と安堵している龍広の顔にはどこか焦りの色も混じっていて。商家町で買い物中、勘定を済ませている彼の横にいた時にこの風景を見付けてしまい、何も言わずにふらりと歩いてしまったのだから当然か。
    「すみません……勝手に……」
    「いや、無事ならいいんだ」
    龍広は、川辺に蹲るつばさの横に立ち同じように咲き誇る藤を見上げた。
    何も言わずに離れてしまったことを怒っているのだろうか、彼は何も言わない。二人の間に沈黙が流れ、川のせせらぎと商家町を行き交う人々の喧騒のみが聞こえる。
    「あの……」
    「綺麗だろ、ここの花は」
    ごめんなさい、ともう一度謝ろうとした言葉を遮る形で龍広は口を開いた。その視線は、相変わらず藤の花に向けられている。
    「藤の花だけじゃない。もう少ししたら紫陽花も……他にも色々と咲き始める。俺は、そこまで詳しいわけじゃないが……」
    怒ってはいないらしい。それどころか、相も変わらず藤に向けられているその顔がどこか照れ臭そうなのは、気の所為だろうか。
    「連れてきて、くれたんですか……?」
    そういえば、今日の買い物に付き合ってほしいと言ってきたのは彼の方だった。
    「言ったろ? 色々な場所に連れて行ってやる、って……迷惑、だったか……?」
    ようやくこちらを向いた龍広の顔は、どこか不安そうで。つばさは慌てて、首を横に振る。
    「いえ……! 嬉しい、です……どれも、初めて見るものばかりで……」
    彼と見る景色は、鳥籠の中にいるままであったらどれも見ることができないものばかりだった。伝えれば、「ならよかた」と龍広は笑う。
    「今度、またどこかに行くか?」
    山とか、海とか。ずっとずっと小さく狭い世界で暮らしていたつばさの知らない、大きく広い世界。男達の話でしか知らない、架空のものだと思っていた世界。彼となら、どこへでも行ける気がして。
    「はい、龍広さんと一緒に」
    嬉しくなって、つばさは自分を狭い場所から広い世界へと飛び立たせてくれたその手に自分の手を重ねた。
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    koyubikitta

    DOODLE一緒にいても何とも思わないけど一緒にいなかったらなんとなく不安になる夜帳と比鷺
    #お題ガチャ #男ふたりの色んなシーン https://odaibako.net/gacha/1739?share=tw

    早野の夜鷺さんへ贈るタイトルお題は、『書を捨てよ、此処を発とう』 です。
    #shindanmaker #同人タイトルお題ったー
    https://shindanmaker.com/566033
     浪磯の部屋を引き払って別の部屋を借りる予定だと聞いたのは、その部屋を明け渡すほんの数日前の事だった。というかつまり、今日初めて知った。
     萬燈夜帳が契約している部屋はいくつか存在しており、浪磯にあるマンションの一室もそうだった。バルコニーから海が見えるその部屋に、比鷺は何度か足を運んだ。山ほど本やCDがあるんだろうと思ったが、それほど物はなかった。当然だ。彼の自宅は別にあるのだから。広くてシンプルなのに殺風景ではない、趣味の良い部屋だと思った。
     良い風じゃん、日当たりも良さそう、トマトでも育てれば? なんていい加減なことを言いながら不思議な気分になったのをよく覚えている。出会ったばかりの頃はずっと萬燈に怯えていた。今は……今はどうだろう? 怯えたって仕方がない相手だとは思う。怖い部分もあるし、可愛い部分もある。人間らしいな、と思うときも人間らしくないな、と思うときもある。まあだから、つまり、慣れたんだろう。慣れた比鷺はふかふかのソファに寝そべってテレビで洋画を見たりもした。自分が介入できない映像を二時間も見続けるのは大変だな、と思って、次はあまり使ってないゲーム機を持ち込んだ。萬燈と対戦して、勝ったり負けたりする。……まあ、トータルでは俺が勝ったけどね。
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