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    KichiTanu

    @KichiTanu
    オー…ファジ…くんに落ちました

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    KichiTanu

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    オートファジーくんの独白っぽいやつ
    初めて曲を聞いて色々滾った結果。副人格を怖がる主人格パターン

    締め切った薄暗いワンルーム。漂う淀んだ空気。酸素さえ薄く感じられて犬のような息遣いになる。記憶が保てなくて、意識さえも曖昧だ。
     鏡を見れば生きているのかさえ怪しい、陰気で奇妙な男が映る。自分が知っている自分ではない。自分は、本当はこんな姿ではなかった。
     泣きはらして血が滲む眼窩、翳りを増すのはやつれきった手指のせいだ。趣味ではない指輪、右腕内側の刺青を経て、デコルテに這う悪魔めいた文字列。
     記憶が保てなくて、自我さえも曖昧で。それでも何とかつなぎとめているのは、自分ではない確かな存在をどうにか追い出そうとする執念だけだった。
     タップダンス。調子ハズレなベースライン。跳ね回るようなピアノの旋律。遠慮なしに頭蓋に響きわたるこれらは、そいつが繰り広げる劇場だった。
     脳髄に住み着いたそいつは、今や部屋の真ん中で笑い転げている。
    「やっていない。僕は、やってないのに」
     違和感を覚えたのは、周りに合わせて生きようとした時だ。仲間にして欲しかった集団、外れたくなかった部屋、遅れたくなかった季節や流行……。対峙して僕らしくもない冗談を言って、笑おうとして、その度々に胸を引っ掻くうちなる何か。
     おどけて、踊って、可笑そうに振る舞って。チクチクと痛むのは、慣れないことをする羞恥によるものだと思っていた。

     そのうち、そんな事をするのは僕ではなくなっていった。

     初めは良かったかもしれない。僕の新しい一面だと思えたかもしれない。少しずつ、僕は僕を保てなくなっていった。居たかった集団とは疎遠になって、居続けたかった部屋から爪弾きにされて、遅れたくなかった所とはおよそ無関係な位置で立ち尽くしている。
     僕がしたんじゃない。刺青も、髪型も。僕の中の何かが、居心地の良いように僕自身を隅に追いやり、とうとう恐怖と憔悴の塊にまで僕を引きずり下ろしてしてしまった。
     僕が感じられるのは、そいつをどうにか自分から引き剥がそうと思う僕の存在と、刹那の慰めを得て安っぽい安堵を心に焚べる瞬間だった。でも、それさえも、そいつの罠だと薄々分かっていた。
     そいつを蹴飛ばそうとしても、おぼつかなくて倒れ込んでしまう。乱雑な床から無数の手が生えて、僕を掴んだと思うと強引に仰向けにした。
     覗き込む真っ黒な目に赤い瞳孔。竦み上がって声すら出ない。ただただ心の中に拒絶が溢れて「近寄らないで」とか細く鳴くのが精一杯だった。僕の言葉に気分をよくしたのか、そいつは僕に馬乗りになる。耳まで裂けそうなくらい口元を釣り上げて笑うそいつは、目も口も見たこともない黒が湛えられていた。
     天井に顔を向けるくらい仰け反ったかと思うと、勢いよく僕の首へと食らいつく。全身を跳ねさせようとしても、身動ぎ程度しかできないまま、口をパクパクとさせた。
     噛まれているところから、身体に流れ込むような、逆に流れ出ていくような感覚に視界が明滅する。痛みどころではなかった。思考も記憶もぐちゃぐちゃにされて、脳味噌をかき混ぜられていくことだけは確かだった。
     追い詰められて、肩で息して、脈打つ感覚が全身に回る。
     
     僕は穏やかに生きたかった。脳髄のそばにいたはずの案内人。旗を持って手を振るのは誰?
     胸にこびりつく残滓の不愉快さ。花粉症の時に誰しも思う。眼球を取り出して、水道水で濯いで洗いたい。胸だけだろうか。脳髄の入れ物は?
    「違う、僕は、僕は……」
     新たな誕生なんて僕は待ってない。バースデー。浸食されていたはずの感覚を取り戻し始めていくうちにそんな単語が脳に浮かぶ。

     高らかに笑うのは、誰?
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