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    Stjerne31

    @Stjerne31のポイピク垢。
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    Stjerne31

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    睡眠薬を飲んでいる鋭心と電話する秀の話。秀鋭。
    実際の薬をモチーフとしているので、人を選ぶ話だとは思います。暗い話ではないです!

    ##秀鋭

    ヒュプノスの贈り物「ふふ」
    「どうしたんですか?」
    「秀が二人、重なって見えてきた。ふは、っふ……おかしい……」
    「じゃあもう寝ないと。効くの30分間なんでしょ?」
    「ああ、じゃあおやすみ」
    「おやすみなさい」
    そう言って俺はLINKのビデオ通話を切った。寝る前の格好ですよなんて言っていたが、本当はちょっと髪にもブラシを当てて小綺麗にしている。それを俺はわしゃわしゃと崩してからベッドに登って、部屋の電気を落とし、目を瞑った。

    鋭心先輩が何かを抱えていて、それを乗り越えるために色んなものの力を借りている。そんなことは伊達にユニットリーダーをやっているわけじゃないから、薄々察してはいた。でもそれが確信に変わったのは、鋭心先輩のカバンからはみ出たものを偶然見つけてしまったからだった。
    カバンには剣羽の校章が刺繍されていて、持ち主はすぐに分かった。ぱかっと開け口が大きく開いていたせいで、中身が全部見えてしまった。その中に入っていた白い袋──内服薬と書かれたそれには「眉見鋭心様」と印字されていて、その下には風邪薬ではなさそうな名前の横文字が書いてあった。
    もしかして怪我とか病気なんだろうか。心配8割、好奇心2割でそれが何なのか気になってしまって、悪趣味だと分かっていながらもネットで調べれば、睡眠薬であることが分かった。効果は強制入眠で、決まった時間に起きられる利点があるのだという。副作用には幻覚や抑うつ、健忘などの症状があるとかないとか。先輩が使っているような睡眠導入剤は処方箋でしか手に入らないものらしく、内科、精神科、心療内科での診断書が必要らしい。
    鋭心先輩は生徒会を引退した後も、1ヶ月に何回か諸事情でレッスンに遅れる日があった。気にしたことなんて無かったけど、それが多分通院だったんだろうってことまでは想像ができた。
    それを知ったところで俺が鋭心先輩に向ける視線は変わらなかった。そんなものか、っていう程度。俺の中ではずっと頼もしくて、カッコよくて、凛とした人のままだ。出会ったときからずっと好ましい人だと思っていたから、ずっと自然と目で追っていた。ただそれだけ。

    それから暫く経ったある夜。予習を終えて、そろそろ寝ようとした時にLINKに着信が入った。どうせプロデューサーだろうと思いつつ画面を見れば、表示されていた名前が「眉見鋭心」で俺は目を見開いた。いつもなら、LINK通話ですら事前にアポを取るような人がなのに。突然、しかもまあまあの夜更けの電話、もしかしたら何かあったのかもと心配になって慌ててとった。その時に俺の脳裏に過っていたのは、あの時ロッカー室で見てしまった内服薬の袋だった。
    「あぁ、秀。すまない、今少し話せるか」
    しかし俺の心配をよそに、その人はいつもよりも少し高い声で、ちょっと幼い呂律でそう言った。大丈夫ですよと言えば、嬉しそうにしたのが声色から伝わってきた。こんな鋭心先輩は珍しい。いつもは綺麗な低音で少し硬くて、大人の落ち着きを感じさせる音をしているのに、今はただ楽しそうで、ふわふわとしていた。
    「秀は………という映画を知っているか?」
    「は、映画?」
    「そうだ。知っているか」
    「いや……ちょっと、知らないですね」
    「そうか」
    何の話をされるのだろうと、俺はベッドの上で何故か正座をしていたのだが、脈絡もなく映画の話を振られた。それでも何か深刻な話に繋がるのかもしれないと思っていたのだが、そこから30分ほど好きな映画の話をノンストップでされた。
    あれ、これもしかして普通の電話なのかなと思った俺がたまに相槌を打つと、「そうだ」「その通り」「そう、それで」という言葉を繰り返して、口調は変わらないものの陽気に映画の話を続けた。いつもよりも早口になった鋭心先輩は、映画オタクと称するのに相応しいと思った。というより、この人が実はこんなに喋れる人だったことにも驚いた。マシンガンみたいに口を動かす鋭心先輩の声を、俺は圧倒されながらずっと聞き続けていた。
    「ああ、まずい」
    「どうしたんですか?」
    「部屋のものが二つに見えてきた。そろそろ寝ることにする」
    「え、ふ、二つに?」
    「ああ、いつもそうなんだ。すまない、切る」
    「あ、ちょ、」
    しかし映画オタクの鋭心先輩との別れは突然で、そう言い残して通話は切れてしまった。
    しーんとした部屋に俺は取り残されて呆然とする。もしかして、あんなに喋ってる鋭心先輩は俺の願望でしかなくて、夢だったんじゃないだろうか。それぐらいあっさりと通話は終わった。というか本当に映画の話しかなかった。一体なんだったんだ。
    俺は鋭心先輩との個チャを見て、20分弱の通話履歴を眺めた。それから今度こそ布団をかぶって目を瞑る。寝ようとしたけど、あの時に聞いた鋭心先輩の楽しそうで柔らかな声色がずっと俺の耳元で残り続けていて中々寝付けなかった。でも不快ではなかった。むしろ、あの20分の時間を過ごす相手に俺が選ばれたのだと思うと、舞い上がってしまいそうなほどに嬉しかったからだ。
    翌朝、俺が起きるとLINKの通知が来ていた。それが鋭心先輩であると分かって、俺は一気に目が覚めた。
    『すまない、昨日は迷惑をかけた』
    そんな素っ気ない文が一つだけ、決して長くは無い通話履歴の次に送られてきていた。
    『大丈夫ですよ』
    そう送った俺のメッセージは、昼休みに見たら既読スルーされていた。別にいいけど。
    それから放課後になって、俺はレッスンに向かう前にロッカー室へ向かった。C.FIRSTに与えられた区画に向かえば、すでに鋭心先輩がいて、制服のシャツを脱いだところだった。昨日までなんとも思わなかったはずなのに、なんとなくドキッとした。黒いインナーが見えたままの鋭心先輩は俺の気配に気付いたらしく、くるりと振り返った。
    「秀」
    「おはようございます」
    「おはよう」
    この業界では、朝だろうが昼だろうが夜だろうが、「おはよう」らしい。最初はあまり慣れなかったけど、テレビ局の人に言われ続けたらついに俺の口からも自然と溢れるようになった。
    「秀、その……昨日は迷惑をかけただろう」
    「あ、いや……」
    心の準備もできていないまま昨晩の通話の話を振られて、俺は制服のシャツのボタンを外していた指を不自然に止めてしまった。
    鋭心先輩は少し逡巡しながら、若葉色の目を泳がせた。それから意を決した様子で口を開いた。
    「……その、俺はある薬を処方されていて。それには軽い健忘の副作用があるのだが……」
    「あー……」
    「……朝起きたら開きっぱなしのLINKとお前との通話履歴だけ残っていた。俺はお前に昨晩何かしたのではないかと」
    いつもの声色とは違っていたけど、昨日みたいな陽気さもなかった。重々しく告げる鋭心先輩はまるで罪を告白するような口ぶりだった。表情もいつものポーカーフェイスに、不安の色を滲ませている。
    迷惑?そんなこと単語すら思い浮かばなかった。むしろあんなに喋る鋭心先輩を見られて楽しかったぐらいだ。
    「昨日の先輩はたくさん色んな話をしてくれて楽しかったです」
    「俺が、色んな話を?」
    「はい」
    良かれと思って俺はそう返すと、鋭心先輩は一瞬目を見開いて、ぎょっとした表情をした。
    「やはり、俺は迷惑を、」
    先輩がぼそっとそう呟いたところで、俺は返す言葉を間違えたことに気づいた。俺ってやっぱりそういうところあるのかもしれない。鋭心先輩みたいに、人が望むような言葉をかけてあげられない。
    俺は慌ててフォローを入れた。
    「あ、いや違うんですよ。最初は仕事の話で先輩から電話貰ったんですけど。そこから雑談になったっていうか……ほら、俺結構喋るじゃないですか。だから趣味の話を色々聞いてもらって……」
    これが俺が鋭心先輩に初めてついた嘘だった。ここで間違えたら、もうあの鋭心先輩には会えなくなってしまうと思った。それと同時に、間違わなければ、もう一度会える気がしていたのだ。
    「そうだったのか」
    「はい、そうです。昨日はありがとうございました……あぁ、覚えてないんですっけ?」
    「……あまり揶揄ってくれるな。お前の早口を思い出せないのは残念だ」
    「ちょ、先輩こそ茶化してるじゃん!」
    俺たちはそんな会話をしながら着替えをした。俺のフォローが間違ってなかったと分かったのは、また数日後に先輩から電話がかかってきたからだ。

    それから定期的に鋭心先輩と通話をするようになった。日はまちまちだけど、時間は絶対に決まっていたから、俺はそれに合わせて夜の予定を組むようになった。それぐらい鋭心先輩との会話が楽しみだった。
    事務所やレッスンで会う姿は自制心の塊のような人なのに、夜に電話越しで会う先輩は子供みたいだった。
    「秀はシュルレアリスムは分かるか」
    「あ、えーっと……絵?ですか?ピカソとかしか分かんないです」
    「うん、だいたい合ってる。実は映画にもジャンルがあって……」
    ある夜、こんな感じの話で映画の話を切り出されたかと思いきや、鋭心先輩が突然啜り泣き始めたことがあった。流石にこれには俺もちょっと動揺した。
    でもシュルレアリスムの映画ってどんなものか分からないし、どう慰めていいか分からなかった。
    「あんまり好きじゃないんだ」
    「好きじゃないんですね」
    「内容が意味が分からない。いや分かるが、なんか嫌だ。不気味だし、一つ一つのストーリーは繋がっていないし、怖いし、気持ち悪いし」
    「は、はぁ」
    「征一郎さん……父に一度『アンダルシアの犬』を見せられて。どう考えても子供に見せるものじゃないのに。ほんとうに、あの人はそういうところがある……」
    どうやら話を聞いていると、とにかくその映画は不気味でちょっとしたグロに分類される描写もあるらしい。幼い頃、勉強になるからと父親に無理やり見せられてそれがトラウマだとかなんとかと、鼻をかみながら教えてくれた。鼻を赤くした鋭心先輩はちょっと可愛かった。
    「でも映画史として革新的な位置付けにあるのは認めなくてはいけないし、うぅ、なぜ」
    「そうやって肯定できるの偉いと思います」
    「う、うっ、ぐすっ、でも好きじゃない」
    「そ、そうですよね〜好きじゃないですよね〜。仕方ない仕方ない」
    俺、今ちゃんと深刻そうな顔できてるかな、なんて思った。正直半笑いだった気がする。だって色んな意味で面白い。
    真面目に聞かないといけないのかなと思っていた時期もあって、プロのアドバイスを貰おうと思った俺は一度スクールカウンセラーに軽くフェイクを入れつつ相談したことがある。でも軽い感じで聞いていいと言われたから、結局俺はいつもと変わらずに接していた。鋭心先輩もそういう気安さを俺に求めているのかなとも思った。事実、俺の傾聴がフランクになればなるほど、先輩はたくさんのことを喋ってくれるようになった。

    先輩が啜り泣きする姿を俺に見せる頃には音声だけではなくて、ビデオ通話もたまにするようになっていた。風呂に入ってあとは寝るだけの鋭心先輩は前髪が下りていて、それに加えて微妙に情緒が乱高下するから、余計に子供っぽさが増していた。
    正直たまんない。めちゃくちゃ可愛い。
    鋭心先輩のお父さんの話とか、おばあちゃんの話もしてもらった。お父さんには色々恩があるらしいけど、それはそれとして好みじゃない映画を嫌々見せられた思い出も多々あるらしく、そういうところは嫌いだとぷんぷん怒っていたのが面白かった。それに比べて、おばあちゃんについては手放しで褒めていた。それから時々急に寂しそうな、孤独な人の目をして遠くの方を見るのだ。そんな姿にも俺は惹かれた。
    鋭心先輩が服用しているのは超短時間型の睡眠薬で、30分を過ぎると効果が無くなってしまう。用法使用量はきちんと守らなくちゃいけないから、また飲むのは良くない。だから俺はその短い間だけ、沢山の鋭心先輩と出会い続けた。
    俺は楽しかった。でも、鋭心先輩はどうなんだろう。俺は結局話を聞いているだけで、落ち込んだ鋭心先輩のことを何も救えていない。そもそもどうして睡眠薬を飲まなくちゃいけなくなったのか、その理由は俺が知る由もない。きっとこれからも知ることはないんだろう。
    でもそれでいいんだと思う。
    俺はただ、鋭心先輩が何かの話をしてくれたらそれで良かった。
    俺はそんなふうに盲目的になるぐらい、鋭心先輩にすっかり恋に落ちていた。寝ても覚めても、たくさんの鋭心先輩と会って、話していたかった。

    「本当に俺は迷惑をかけていないのか」
    「ないです。ないない。気にしないでください」
    ある日のレッスンの帰り道、百々人先輩やプロデューサーがいないことをいいことに、俺たちは例の通話の話をしていた。
    たしかに自分の知らないうちに通話履歴が増えているのは、鋭心先輩の性格なら恐ろしくて仕方ないだろう。
    通話の内容を知られたら、今度こそ先輩は俺にLINKすらしてくれなくなりそうだ。
    「……俺はお前に甘えているな」
    鋭心先輩はそう呟いた。その言葉に俺はぎゅうと心臓が締め付けられた。
    いつも思うんだけど、甘えることってそんなにだめなことなんだろうか。そりゃ、俺だってカッコつけたくて一人で色々しちゃう時もあるけど。でも、俺はやり直しがきかない世界になって欲しくないって思っていて。だから、苦しい時に「苦しい」って言ってほしい。いやまあ、それはそれで勇気のいるのは分かってる。言いたくなかったら、言わなくたっていいことだと思う。
    でも言わなくていいから、そのかわり苦しいことを忘れるぐらい俺とたくさん喋ってくれたらいいと思った。ただ、それだけなのに。どうやったら伝わるんだろう。
    「甘えなんかじゃないです」
    「しかし、」
    「先輩はちゃんと薬の用法使用量守ってるし、飲むことは悪いことじゃないし、副作用は仕方ないし、俺は楽しいし。てかそういうの抜きにして、俺だって先輩に死ぬほど頼ってるし。人間って多分、そういうもんだと思うんですよ」
    「秀……」
    「そんなことより俺、めちゃくちゃ嬉しいんですよ。先輩が電話してもいいと思える相手に選んでもらえたんだって。もっと甘えられたいです。てか俺って結構頼り甲斐ありません?」
    俺はそんな生意気を言って、鋭心先輩を見上げる。
    背がすらっと高くて、スッキリした造形の顔はシンプルだけど、だからこそ美しい。険のある顔に思われがちけど、それは彫りが深くて目元に影が落ちるからだ。俺にはない、大人っぽい雰囲気があってそこも好きだ。
    でも今の先輩はその雰囲気が霧散していて、迷子の子供みたいだった。
    「少なくとも鋭心先輩が甘えようが甘えまいが、俺は先輩に甘えますからね」
    俺はそう言って、ふんっと胸を張った。すると鋭心先輩はぱちぱちと瞬きした後に、ふっと柔らかく笑みを溢した。
    「……多分、今日もそっちに通話がいく気がする」
    「はい。待ってます」
    俺はニッコリ笑った。また電話が来るんだと思うと夜が楽しみになる。
    俺は気合いを入れながら、鋭心先輩との30分のデートを今日も楽しみにしていた。



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