2022お誕生日おめでとうロナルド君!!「くそ……アチィ……」
今夜は本気で熱帯夜だった。
昼間に降ったゲリラ豪雨の所為で、
湿気もすごいし。
ぱたぱたと上着の裾に風を入れてみても、
アンダーがピッタリしてるせいで全然だめだった。
暑い。
だらだら汗が流れてるのがわかる。
心なしかいつもより髪の癖が際立ってるような。
「とりあえず、
このへんでひと段落……だな」
一緒に吸血アブラムシ掃討に当たっていたショットが溜息を吐く。
その手には、
アブラムシがたくさん詰まった網の端が握られていた。
「VRCへの引き渡しは俺がやっとくぜ」
「え、いや……それなら俺も一緒に待つけど??」
面倒をまるっと引き受けようというショットに首を傾げてそう問うと、
ショットはなんだか微妙な顔で視線を左右に彷徨わせた。
「いや……大丈夫、その〜……アレ。
俺、VRCにその、ちょっと用事があって……」
「??」
VRCへの用事って何だろうか。
なんだかすごく言いづらそうにしてるけど、
そんな言いづらい用事なのか?
もしかして俺はものすごくセンシティブなところに足を踏み入れようとしてるのでは……、
と唐突に思い至って、
はっとする。
「ご、ごめん!
聞かれたくないこともあるよな……うん、帰るわ!!
ありがとな!!」
「え、いや、まぁ……おう」
微妙な顔してる。
まぁ実際微妙な話題だったんだろ。
悪い事したな、
なんて思いつつ、
踵を返して事務所への帰路に着く。
そして、歩く事暫し。
「ただいま〜……って、
そっか。
なんかあいつ、
祖父さんに呼ばれたとかなんとか言ってたな……」
事務所には鍵がかかっていて、
電気も着いていない。
今日の依頼はもう無いし、
現時点で留守電も入ってないから、
事務所はもう閉めていいだろう。
看板をひっくり返してドアを閉め、
メビヤツに帽子を預けながら上着を脱いで、
ホルスターごとリボルバーを外す。
んでもって、
汗を吸って気持ち悪いアンダーを脱いで、
そのまま風呂場へ直行。
脱いだ服はそのまま洗濯機へイン、
ぬるめのシャワーで頭から全部流す。
今日はドラ公がいねぇから風呂も湧いてねぇけど、
今日はマジであちぃからシャワーで良いだろ。
いつもあいつうるさくて、
湯に浸からないと疲れが取れないとかちゃんと洗えてないとか色々うるせぇから、
今日はもうざっくりで良いと思った。
所謂お付き合いというか、
要は恋人同士って関係になってから、
ドラ公はオカンかってくらいに細かく口うるさくなった。
いや俺はオカンっていう程オカンの記憶なんかねぇんだけど。
やれ汗臭いだ服が皺だらけだ髪が傷んでるだなんだ……、
最終的には私がやるからゴリラは大人しく座っていたまえ、
でなんやかんや勝手にやってるから、
そんなに手間はねぇんだけど。
ただ、なんだ。
なんだかこう……こそばゆい、ような。
大切にされすぎてる、
ような気がする。
俺にそこまで手間かける必要があるのか?
っていつも思うけど、
あいつが楽しそうだからそれでいいかな、
なんて。
直接言いやしねぇけど。
いつもドライヤーをかけたがるドラ公がいないから、
ドライヤーはしないでタオルドライだ。
髪が痛むってまた言われるかな。
めんどくせぇから俺はこれで良いんだけど。
部屋着のジャージに着替えて腹減ったなって思ったところで、
そういえばドラ公がいねぇから飯もねぇのかと思い出す。
今から飯買いにいくのも、なぁ……??
でも腹減ったし、
ヴァミマ行くか??
なんて、
悩んでいたら。
コンコンコン。
窓をノックする音。
そんなとこから入ってくる誰かしらなんて流石に半田くらいしか心当たりが無いんだが、
半田だったら窓破って入ってくるだろうし。
じゃあ誰だろう。
新手の変態もとい吸血鬼だろうか。
「あ?」
シャッ、
と勢いよく開けたカーテンの向こう側には、
翼を生やしたドラ公の親父さんが器用なホバリングにより浮いていた。
「あんたまたアポ無しで……
っつーか、今回はあいつと一緒じゃねぇの?」
てっきり、
祖父さんにドラ公が呼ばれた時はもれなく親父さんもついてくるものだとばかり。
だって親父さん、
あいつに対してやたらと過保護だから。
「あー……そうなのだよポール。
それで今からドラルクを迎えに行くんだが、
その〜……ポールも一緒にどうかと思って」
「なんでわざわざそんなハリケーンのど真ん中に頭から突っ込んでいかなきゃなんねぇんだよ」
誰が好き好んで台風の只中に突っ込んで行くというんだろう。
あんただっていつもは全力で逃げようとしてる癖に。
今回はドラ公がいるからか?
だったら何も、
俺を巻き込む事ねぇだろう。
「こ、恋人なんだろう?
その〜〜〜……ドラルクと……」
「自分で落ち込むくらいなら言わなくたって良いじゃん……」
しゅん、
と全体的に萎れながらそう言うもんだから、
なんだか俺が悪いことしてるみたいじゃん。
いやもしかしたら最愛の息子を横から掻っ攫ってった憎き相手、
みたいなもんなのかもしんないけども。
「いっ……ま、まぁそれに関しては……ぐぬぬぅ……んぐぅ……」
「目ん玉飛び出そうなくらい踏ん張るんならマジで良いって。
あいつだって俺が行くより親父さんが行く方がきっと嬉しいだろうし」
なんせ相手はハリケーン祖父さんだから、
お相手を押し付ける先は人間の俺より親父さんの方が安心だって思ってるだろう。
まぁあいつのことだから、
俺が遊び相手になったらなったで面白おかしく見学してるつもりかもしんないが。
「と、とにかく! だ!
ポール!! 行くぞ!!!!」
がっ、
と徐に胴体を掴まれて、
そのまま窓の外へ。
夜空がやたらと綺麗な夜だ。
あと数時間で、
日が明けるってのに……ってちげーし!!
そんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇし!!
「俺は行かねぇっ……て……」
ふわっと身体が浮いた。
えっと、じゃあ、そうなると、
今俺を支えてんのはこの二本の腕だけ、
ってこと?
「おいっっ、どこか適当なところでいいから置いてくれ頼むからっ!!!!」
落とすなよとりあえず!!
落ちたら多分死ぬ……いやうまいこと壁に足がつければワンチャンいける……か??
でも足痛そうだな。
出来ればビルの屋上にでも下ろしてもらえないかな。
「往生際が悪いぞ、ポール!!」
「往生際が悪いとかなんとかって話なの?!?!
なぁおいっっっ!!!!」
大騒ぎしていても腕が少しも緩くならないのはさすが高等吸血鬼……ドラ公と違って。
暴れる俺を難なく引っ掴んだまま、
親父さんはすいーっと………….ヴリンスホテルへと。
──おいまさかまたあのわけわからんスケールのスゴロクとかじゃねぇだろうな?!?!
おいやめろまじで下ろせ今すぐ!!
口を開こうとして顔を上げたすぐ目の前に迫り来るヴリンスホテルの壁……いや窓?
っておい突っ込む…………っ!!!!
「おぶっっっ!!!!!」
しかし顔面を襲ったのは覚悟した衝撃ではなく、
布の圧力だった。
顔にへばりついて息が出来ねぇんだけど?!
そのままずべべべべって上の方に布が滑ってく。
今俺はすごく酷い顔をしている。
多分。
勢いが弱くなって、
胴体に回されてた腕が離れていく。
「おい何がどう……っ!!」
顔に張り付いた布を退かしながら、
叫んだ瞬間。
パーーーーン!!!!
破裂音と、
それに次ぐのは拍手かなんかの音?
それにしても、
やたら数が多い……ような???
「ハッピーバースデー、ロナルド君っ!!!!」
大仰に手を叩きながら目の前に歩いてきたのはドラ公で、
その背後には祖父さんや一族の人達、
だけじゃなくて──
「サテツにマリアにターチャン、
ショット……お前……?!」
さっきまで一緒にいたはずなのに。
VRC待ちじゃなかったのか?
「いや……今日元々パトロール当番だったろ?
それで、お前の足止めするように言われてて……」
それで丁度良く吸血アブラムシも出て来たし。
なんて言われて、
もうよくわかんなくて。
つうか、
何?
「え、俺……誕生日だったんだ……?」
「おみゃあの事じゃから忘れてるだろうと思ったったわ。
ほれ、こっちは吸対からのプレゼントじゃ。
一応中身は確認済み、
セロリは入っとらんぞ」
「ぴぎゃっ……じゃなくて……!!
あにっ……隊長さん、達……から??」
横の方から姿を現したのは兄貴だった。
青い包みに入ってる何か。
吸対からの、プレゼント?
そんな、いつのまに。
「向こうを留守にする訳にはいかんし、
半田が来ればまぁ大体予想のつく展開になるから置いて来た。
吸対からの出席者は俺だけじゃ」
「っ……すげぇ、嬉しい……」
プレゼントの中身は後で確認しよう。
なんかもう、
この時点で涙がこぼれそう。
兄貴に誕生日を、
祝ってもらえるなんて。
いつ以来だろう。
「こっちからもあるぜ。
ほら、プレゼント。
今日はマスターは留守番しててくれてるから俺からな」
さっき足止めの大役を終えたショットが包みを手渡してくれる。
これもまた、
中身は後で見せてもらおう。
「ハッピーバースデー」
「あ……ありがとう、ございます……」
ドラ公の一族からのプレゼントは、
祖父さんから。
なんだかずっしり重いけど、
これなに?
え、ちょっと怖い。
「人の子はすぐ歳をとるから。
この一年、大切にね」
祖父さんの瞳が、
どこか遠くを見ているように感じたのは、
気のせいだろうか。
三つのプレゼントを受け取った俺の手首を掴んで、
ドラ公が高らかに叫ぶ。
「さぁ皆さん、
今日は私の大切なロナルド君の誕生日ですぞ!
遮光カーテンもバッチリ、
皆さま存分に楽しんでくれたまえ!!」
「なっ、おいてめ……勝手な事言ってんじゃねぇぞ!!」
「良いじゃないか。
偶にはこういうのも。
みんな、君のことを慕ってここに来てくれたんだよ。
ねぇ、ロナルド君?」
そう言うや否や、
ドラルクは自然な仕草で端の方へと俺を引っ張って、
遮光カーテンを引き直すフリをして俺とドラルク自身の身体を包み込むようにして隠してしまう。
盛り上がってる人々は、
その事にはまるで気がつかないらしい。
そして、
掠めるように触れたのは、
間違いなくこいつの唇だった。
「おいっ……!!」
「ロナルド君。
私はね、
君が沢山の人に愛されてるって知っているよ。
君は大切にされている。
ねぇ、わかった?
君はもう、
一人じゃないんだよ」
私の愛しの、
昼の子。
耳元で囁かれて、
顔が真っ赤に熱くなる。
恥ずかしくて照れ臭くて、
それでも何か言ってやりたくて。
ドラルクの首のフリフリしたやつを引っ掴んで、
引き寄せた。
意を決して、
口を開く。
「ありがとな、
俺の……一番、すきなひと」
目元に涙が黙ってく。
恥ずかしくて耳元でそう囁くのが精一杯だったけど、
ドラ公の珍しく赤くなってく頬を見るに、
仕返しは大成功だったらしい。
<後書き>
プレゼントの中身
吸対→ちょっとお高い焼き菓子セット(日頃ヒナイチが食ってる分のお礼)と、ヒヨ兄からのメッセージカード
退治人組合→お店のクーポン券と拳銃のメンテナンス用オイル、予備の弾丸(メドキのお店から)
竜の一族→ドラルクも飲める年代もの赤ワイン2本、ドラルクがロナルド君にご飯を作るのに欲しいと言っていたハンドブレンダー
このあとドラルク特性ウエディングケーキばりのバースデーケーキが出て来て、はしゃぎ倒したあと自宅で寝こけて次の日散々甘やかされる(色んな意味で)誕生日を送るといいよ!!
お誕生日おめでとう!!