5回好きと言わないと出られない部屋のメモ好き好き好き好き好き!
うわ、めっちゃ適当…
ユウくんは一息でそう言うと、壁にかけられたカウンターの方へ目をやった。同じようにそちらを見るとなんとカウントが1増えている。
今ので良かったのかよ…とドキドキした気持ちを返して欲しいとモヤモヤしている傍ら、ユウくんは
変わりましたよ!カウント!余裕ですね!
なんてウキウキしてる。
そりゃこんな簡単にクリア出来るなら世話ないし、苦労もなく部屋から出られるのだからこっちだって何も文句は無いはずなのに…なのに、、
何でこんな気持ちになるかな…
じゃあ次は先輩がお願いします、と
ユウくんがとことここちらに寄ってくる。
やたら余裕たっぷりな感じがムカついてオレはその両頬を両手で包み込み、顔を上げさせ目を合わせる。
ユウくんは突然距離を詰められて驚いている様子、さっきオレもそんな感じだったんスけどねぇ…
先程打ち砕かれた心を繋ぎ合わせるように深呼吸をする。
あんなので終わらせてたまるか、
オレはゆっくり口を開いた。しっかりとまだ揺れているユウくんの目を見つめながら、
好き
余りにもオレが真剣に見つめながら言うもんだから忽ちユウくんの顔は真っ赤になる。さっきその反応見たかったんだけどなぁ…
直に触れている手に熱が伝わってくるのを感じる。ユウくんはそれがオレに伝わってる事が分かったのか、恥ずかしそうに呻き声を上げて後ろへ後退する。
頬は解放してやったが、追い込むように後退するユウくんに反して前進しながらもう一度好きと伝え、壁際に追いやった所で極めつけに壁に手を添え、所謂壁ドンをしながら好きと3回目の好きを口にする。
はて、あと2回かと思った所で、ユウくんの顔をまじまじと見てみる。オレの影になって更に小さく見えるユウくん、目を逸らしたい程恥ずかしがってるだろうに条件を満たす為に必死にオレの目を見つめ続けるユウくん。
可愛いなぁ、なんて思いながら4回目の好きを伝える。でもその時のユウくんの表情はほんとに何とも言えない感じだった。
端的に言えば大変困っているような感じだ、どうしたらいいか分からないような、オレの言葉がペラペラのただの言葉なのか心からの言葉なのか、探っているような
それからユウくんは申し訳なさそうな顔をする、今度はオレが目を逸らしたくなった。何でそんな顔するの、そんな顔させたくてこんな事やってる訳じゃないのに、それにユウくんだってオレの事…
好き
5回目の好きは少し震えていたかもしれない、それがユウくんに伝わって無い事を祈る…。
この空気を壊したくて少し早口で言ったすぐその後、すぐ後ろからガチャっと言う音が聞こえる。カウンターを横目で見やると条件は無事クリアしたようだ。
だけど、どうも、ここでユウくんを直ぐに逃がしてやる気にはなれなかった、
先輩開きましたよ!鍵!
と逃げるような素振りを見せるユウくんを掴み、キス出来るくらい顔を寄せ、頬を掠めて耳元に口を寄せる。
好き
鍵のあいた音など聞こえないふりをし必要のない6回目の好きを囁き、ゆっくりとユウくんを解放した。今度は間違えようのない心からの言葉、おマヌケなユウくんにも分かる精一杯の言葉、だけどそれからどうこうする気なんてオレには何も無かった。ただ、少しでもこの部屋に閉じ込められてしまった意味を持たせてみようと思っただけだ、
ユウくんは顔を伏せたまま何も言ってくれなかった、正確にはう、とかあ、とか呻いてばっかで耳まで真っ赤になってる。
ほんと分かりやすい子だな、なんて思って
ユウくんがこの部屋のドアストッパーになってしまう前に行くっスよと声を掛ける。
我に返ったようには、はい!とまるで重りでも外れたように足をスルッと前に出す。
大マヌケなユウくんの事だから、オレが勘違いして意味の無い6回目の好きを言っただなんて思う事にしたんだろう、耳のいい獣人のオレが扉の開く音に気づかないわけ無いのに、その後あまり言及はされなかったからオレも何も言わなかった。