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    ふわ五が卵あっためる話
    ⚠再掲
    ⚠俺×ふわ五
    ⚠俺・・・誰?

    #俺×ふわ五

    俺×ふわ五 朝起きると、ふわ五が短い手を必死に寄せてまあるい塊を抱えていた。俺は最初それがなんだか分からず、まだ自分が夢の中にいるのかと右目を二度ほど擦った。しかし何度擦れど擦れど目の前の光景は変わらず、どこかふわふわ(いや、元々ふわふわしているぬいぐるみではあるんだけれど……)した様子のふわ五が再度船をこぎ始めようとする俺の頬をぺちりと叩いたことによって完全に覚醒する羽目になり(花の休日だというのに二度寝が許されないとは何事だろう)、そうして覚醒した視界でふわ五の腕の中にいるものを見て度肝を抜かれた。だってそれは、正真正銘、どこからどう見ても卵だったのだから。俺は枕に沈めていた頭を勢いよく上げ、目を見開いてふわ五を凝視した。ふわ五はそんな俺の視線をどのように勘違いしたのか、恥じらうようにもじもじしながら、それでも誇らしげに腕の中の卵を俺に見せている。私、生理が三ヶ月来てないの。いつだったかセフレに言われた科白が終末の鐘のように俺の鼓膜の奥で反響し、咄嗟に自分の横っ面に平手打ちを俺は決め込んでいた。突然自傷行為に走り始めた俺を見てふわ五は数センチ驚いたように飛び跳ねた後、くるりと俺に背を向け小さな丸っこい背中を必死に折り曲げていた。俺はそれを五秒ほど眺めてから、ああ卵を守っているのか、とようやく気が付いた。俺が自分を傷つけたことにより、その破壊衝動が卵にまで向かうものだと思ったらしい。いや、どんなDV男だよ。俺は女子供には優しいたちだ。終電間際の駅で女の子が蹲っていたら優しく声を掛けてあげる人間だし、子供が迷子になっていたら屈んで視線を合わせた上で「大丈夫?」と微笑んであげる真人間だ。そんな、卵を割るなんてするわけない。料理するならまだしも。
     俺が慌てて「割らないよ」と無害であることをアピールするように両手を挙げれば、そこでようやくふわ五は安心を得られたらしい。恐る恐る、とでもいうように俺を見てから、態勢を戻し俺と向かい合う形になった。なんとなく首を掻こうとして、すぐにやめた。腕を上げた瞬間にまた怯えた態度を取られたら堪ったものではない。だから俺は僅かに痙攣するだけにとどまった指先を所在なくシーツの上に投げ出してから、「どうしたのそれ」とふわ五に尋ねた。といっても、ふわ五は喋らないし、喋ったとしても俺にはきっと分からない言語だ。俺の質問にぱっと顔を輝かせ、身体全体を使って俺に何かを伝えようとするふわ五をじいっと見詰めて思考したけれど、結局よく分からなかった。というか、全く分からなかった。ふわ五が卵を割らないように気を付けながらぴょんぴょん跳ね、何やらひどく上機嫌であるということしか理解できない。どうやらその卵がどうにも大事であるらしい。というか、その卵、本当にどこから湧いて出てきたのだろう。俺の家の冷蔵庫に、卵のパックはなかったはずだ。
     まさか盗んできたわけじゃあるまいな、と不安になったものの、ふわ五が万引きじみた行為をする様子はどうにも想像できない。だいたい、卵はスーパーで売っているような掌サイズの卵ではなく、それより一回りほど大きいサイズのものだ。こんなものを近所のスーパーで見た覚えはない。だとしたら、本当に、どこから持ち出してきたのだろう。俺は首を右に傾け低く唸った後、いやでもそもそもぬいぐるみが動いている時点で……と思考を放棄してベッドに再度沈み込むことにした。ぼふん、と俺が勢いよく身体を倒したせいでふわ五が数センチ跳ねる。怒るように俺の頬を叩くふわ五に「はいはい、ご飯は起きたら作って上げるから」と言って瞼を閉じた。まだ夢である、という線を、俺はまだ捨てきれていなかった。
     だがどうだろう、夕方頃になって目を覚まし、過眠のせいで痛む頭を引っ提げてリビングに行けば、ソファでふわ五が今朝見た卵を抱えているではないか。マジか、と掠れた声で言ったものの、でもまあ、そこを突っ込み始めたら、ねえ……と言った感じで、「晩ご飯何がいい」と俺はふわ五に聞いていた。ふわ五は何やら卵を割らないように気を付けながらジェスチャーで俺に晩飯のメニューをリクエストし、結局俺がその意味を解読できなかったから晩飯はミルフィーユ鍋になった。ミルフィーユ鍋、楽なんだよな。俺の場合、ミルフィーユにしないで千切ったキャベツと豚肉をそのままブチ込んでるから、果たしてこれをミルフィーユ鍋と言っていいのか微妙なところではあるけれど。晩飯の間、さすがにそのサイズの卵を抱えて飯を食うのは非現実的だとふわ五も分かっているらしく、ソファの上に卵を置き、それに毛布を掛けてとたとたと俺の傍に寄ってきた。俺はそこでようやく、どうやらふわ五にとってあの卵はとても大切なもので、尚且つそれをあたため孵化させようとしているということに気が付いた。どこからともなく現れた卵から何が孵るのか、俺は少しだけ考えた後すぐに頭を振ってその思考を打ち消した。恐らく、それは深淵だ。
     ふわ五は寝て起きてもまだ卵を温めていて、そしてその日以降ずっと卵を温め続けていた。前までは散歩だって大好きだったのに、俺がコンビニ行くよと言っても付いてきやしない。それに不満がないと言ったら嘘だけれど、でもふわ五があんまりにも嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうにあたためているものだから何も言えなくなってしまって、ちぇ、なんて子供みたいに拗ねながらベランダで煙草を吸っていた。なんとなく、今ふわ五の前で煙草を吸ったらものすごい勢いで抗議が来そうだと思ったので。
     ふわ五は明くる日も明くる日も卵をあたため続けた。時々転がしてやって、そうしてまた大事そうに抱えてソファの上で丸くなるのだ。俺はそれが三週間を超えてから、なんとなくふわ五を見ていられなくなってしまった。ふわ五は一人気まずくなる俺に構うことなく、名前辞典なんて眺めて、気に入った名前があると俺にそのページを見せになんて来ていた。その時どんな表情を浮かべていたのか、俺は自分のことが分からなくなっていた。
     そうして、四週間以上経った頃。俺は深夜唐突に目を開け、暗がりの中ですやすやと寝息を立てるふわ五を見詰めた。勿論、眠ってなんかいない。眠ったら、俺が今からしようとしていることができなくなるから。
     俺はそっと起き上がり、寝ている時だというのにふわ五が傍らに抱えたままである卵をそっと抱き上げた。ふわ五は眠ったままだ。どうかそのまま起きないままでいてくれますように、と天に祈りながら卵を持って寝室を出る。向かう先はキッチンだ。俺は棚からボールを取り出すと、さっきまで起きないで欲しい、とふわ五に願った思いとは裏腹に、勢いよく手の中の卵をそれに叩きつけていた。ぐしゃ、だなんて酷い音を立てながら、酷い匂いの液体がキッチンに充満する。濁った黄色い液体がボールの底に溜まるのを見て、俺はへなへなと、その場にへたり込んでいた。
     なあふわ五、知ってるか。卵って、鳥だったら長くても一ヶ月くらいで孵化するんだと。虫だったらもっと早いかも。魚も早いだろうな。恐竜とか、爬虫類とかは分からないけれど。でも、それくらいで孵化するんだって。四週間以上経っても孵化しない時点で、それは多分、この世界の生き物の卵じゃないか、もしくは。
     こんがらがった思考がどろりとした腐卵臭でかき回され、俺はなめくじに馬鹿にされてしまいそうな速度で顔を上げた。匂いに混ざって、ふわ五の幸せそうな、嬉しそうな顔が浮かんでは消えていく。

     せめて何か、命が宿っていたら救いがあったのに、と思うのは、俺の傲慢なのだろうか。でもそんなことを思っていながら、今日の昼飯は親子丼にしよう、なんて思っている辺り、俺も相当に酷い人間だった。
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    DOODLEふわ五が卵あっためる話
    ⚠再掲
    ⚠俺×ふわ五
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    俺×ふわ五 朝起きると、ふわ五が短い手を必死に寄せてまあるい塊を抱えていた。俺は最初それがなんだか分からず、まだ自分が夢の中にいるのかと右目を二度ほど擦った。しかし何度擦れど擦れど目の前の光景は変わらず、どこかふわふわ(いや、元々ふわふわしているぬいぐるみではあるんだけれど……)した様子のふわ五が再度船をこぎ始めようとする俺の頬をぺちりと叩いたことによって完全に覚醒する羽目になり(花の休日だというのに二度寝が許されないとは何事だろう)、そうして覚醒した視界でふわ五の腕の中にいるものを見て度肝を抜かれた。だってそれは、正真正銘、どこからどう見ても卵だったのだから。俺は枕に沈めていた頭を勢いよく上げ、目を見開いてふわ五を凝視した。ふわ五はそんな俺の視線をどのように勘違いしたのか、恥じらうようにもじもじしながら、それでも誇らしげに腕の中の卵を俺に見せている。私、生理が三ヶ月来てないの。いつだったかセフレに言われた科白が終末の鐘のように俺の鼓膜の奥で反響し、咄嗟に自分の横っ面に平手打ちを俺は決め込んでいた。突然自傷行為に走り始めた俺を見てふわ五は数センチ驚いたように飛び跳ねた後、くるりと俺に背を向け小さな丸っこい背中を必死に折り曲げていた。俺はそれを五秒ほど眺めてから、ああ卵を守っているのか、とようやく気が付いた。俺が自分を傷つけたことにより、その破壊衝動が卵にまで向かうものだと思ったらしい。いや、どんなDV男だよ。俺は女子供には優しいたちだ。終電間際の駅で女の子が蹲っていたら優しく声を掛けてあげる人間だし、子供が迷子になっていたら屈んで視線を合わせた上で「大丈夫?」と微笑んであげる真人間だ。そんな、卵を割るなんてするわけない。料理するならまだしも。
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