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    yuzenchiyo5

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    yuzenchiyo5

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    まれでゅ
    転寮と書いて誘拐と読む話
    マレ様がちょっと拗らせすぎちゃってる気がする


    最初エスのターンだけで愉快な長さになってしまったので削りまくりました

    ##マレデュ

    「なんで誰も起こしてくれねーんだよ!」
    「そんな物好きいないっつーの」

    エースはいつもの数倍慌ただしく朝の身支度を整えながら、とっくに支度を整え寮を後にしようとしていたルームメイトに文句をぶつけた。
    自分で設定したアラームを自分で無視して寝続けたのだから、まぁ自業自得ではある。

    「ちぇっ、いつもだったら・・・」

    空いているベッドに腰かけて靴を履きながら無意識に呟くが、その手がピタリと止まる。
    いつも寝過ごしかけた時は、誰かが起こしにきていたような気がするのだが。

    「うおっ、やべぇ!」

    今はそんな事を考えている場合ではなかった。鞄に荷物を乱雑に突っ込んで、頭の中に引っかかった疑問を振り払うように、エースは全速力で寮の廊下を駆け抜けた。





    どうにか遅刻は免れる事ができた。が、朝食は食べ損ねてしまい、空腹のせいで午前中の授業は殆ど集中できなかった(ちなみに監督生には”いつもと同じじゃない?”と言われた。納得いかねー)。

    「はぁー・・・腹減った・・・・・・」

    そんなこんなで待ちに待った昼休みだ。いつものことながら混雑している食堂で適当な顔見知りに声をかけ席を確保してもらい、大盛りにしてもらった昼食を頬張る。が、どうにも周囲にそわそわした空気が漂っているのが気になった。

    「なんかあった?」

    ご飯を口に運ぶ手を止めて隣の生徒に声をかける。その生徒は「アレアレ」と小声で囁きながら食堂の隅を指さした。

    見ると、ディアソムニアの寮生が窓辺の席に並んで昼食を取っていた。あそこの寮生が他と比べて少なめとは言え、そこまでは普通の光景だ。恐らく周囲がざわついて居るのは、そこにあの"マレウス・ドラコニア"が居るからだろう。確かに珍しい。

    が、その有名人の方ではなく、その体面に座っている人物に目が止まる。あの青みがかった黒髪、何故か妙に見覚えがある気がするのだが・・・・・・

    「おっ、我が寮期待の新人エー・・・スちゃんじゃん!今日寝坊したんだって??」
    「うおえっ!?」

    いきなり横から声をかけられ、情けない声が出てしまった。慌ててそちらを見れば、ここまで驚くとは思ってなかったのだろう、ケイト先輩も面食らっている。

    「脅かさないでくださいよ、つか何でオレの名前に妙に間が入ってんの??」
    「ごめんごめん。ん〜、なんか"エース"の間にもう一文字あったような気がしてさ〜」
    「人の名前勝手に改造するのやめてくれません!?」

    ケイト先輩はこちらの突っ込みに悪びれなく再度軽く謝ると、今朝の事について茶化し始めた。ただの寝坊で絡んでくるなんて、よほどマジカメのネタに困っているのだろうか。
    そういえば、と窓辺の席をもう一度見る。ネタ探しなら向こうの方がよっぽどいいだろうに。けれど、いつの間にかマレウス達は食堂を後にしていたようだった。





    午後の授業も終わり、ようやく放課後。大口を開けて欠伸をしながら全身をほぐすように伸びをし、エースは再度机に突っ伏す。

    「ねみー・・・・・・」

    今日は先生の都合で部活は休み。放課後をどう過ごそうかとぼんやりと考えながら頭を起こせば、ふらふらと覚束ない足取りで教室を出て行こうとする監督生の姿が視界に映った。今日提出の課題を職員室に持っていこうとしているらしい。そういえば今日はあいつが日直だったな。
    クラスメイト全員分あるから、たしかにそれなりの重さにはなる。危なっかしいなと目で追っていたら、案の定段差でこけた。
    相変わらず鈍臭いやつだとこっそり笑いながら席を立ち、ノートの下でひっくり返っている監督生の元へ向かう。

    が、エースが手を出すよりも先に、丁度廊下に居たのであろう生徒が、紙の山から監督生を救出していた。

    「大丈夫か?」

    その声が聞こえた途端、エースの足がピタリと止まる。
    差し出された手を掴んで、"ありがとう"と律儀にお礼を言う監督生。その正面に立っていたのは、今日食堂でエースの目を引いた黒髪の生徒だった。胸元のマジカルペンに付いた緑色の魔法石が、廊下に差し込む陽の光を反射してキラリと光る。

    「提出物か?この量を一人で運ぶのは大変だろ。僕も丁度先生に用があるんだ、半分持とう」

    言うや否や、散らばってしまった紙を拾い集め始めていた。遠慮していた監督生も、積み上がった課題の山をヒョイと軽く持ち上げる姿を見て、"お言葉に甘えようかな"と残りの半分(というか4分の1ぐらい)を受け取った。

    "ありがとう。えっと・・・・・・"

    「デュースだ。デュース・スペード。お前はたしか・・・オンボロ寮の監督生だったな」


    デュース・スペード。その名前を聞いた途端に、今日一日の出来事が頭の中に蘇る。自分をわざわざ起こしに来る物好き、ケイト先輩にいつも纏めて呼ばれるエーデュースの片割れ。それがデュースだ。
    入学初日から何度も衝突してきたアイツの事をどうして忘れていたのだろうか。自分だけではない。監督生や先輩も、デュースの事を忘れている。一体何が起きているのだろうか。
    アイツが付けている腕章はディアソムニアだった。ならば、ディアソムニア寮生の魔法か何かだろうか。だとしても一体何のために?

    とにかく立ち止まって考えているだけでは埒が明かない。まずは本人に聞こうと廊下に出るが、とっくに二人とも見える範囲からは居なくなっていた。けれど行先は分かっている。エースは再び、廊下を全速力で駆けた。





    「監督生!」

    教員室近くの廊下を歩いていた監督生を見つける。デュースは・・・見当たらない。

    ”どうしたの?”

    「あいつは・・・デュースは!?」

    監督生は、エースの切羽詰まった様子に困惑しながらも、デュースの向かった方向を伝えた。まだ追いつけそうだ。再び脚に力を込めて駆け出す。教員室の前だからなんて気にしてられるか。



    方向から大体の行先を予想はついた。偶にぶつかりそうになる他の生徒に雑に謝罪を入れながら、一つ二つと角を曲がる。

    「・・・っ!デュース!!」

    見慣れた後頭部がピクリと反応し、振り向く。孔雀色の瞳はいつもとなんら変わっていなかったが、その目元に、スートは無い。

    「どうしたんだ、そんなに慌てて。僕に何か用か?」

    まるで他人行儀のような声音が気持ち悪い。

    「おまえ、いつの間に転寮したんだよ」

    監督生とのやり取りを見るに、恐らくデュース自身も自分がハーツラビュル寮生だった事は忘れているだろう。それでも試しに聞いてみることにした。万が一、という事もある。いや、覚えていたらそれはそれで謎が深まりそうだけど。

    「・・・?何のことだ?」

    案の定、だ。

    「だから、いつハーツラビュルからディアソムニアに移ったかって聞いてんの」
    「移るも何も、僕は元からディアソムニア寮生だが・・・。誰かと勘違いしているのか?」

    デュースの名前を聞いただけで思い出したこちらとは違い、何かが引っかかる様子もない。やはり原因を探ったほうがいいのかもしれない。

    「用がないならもう行くぞ。」
    「あ、おい、」


    「スペード」


    ゾクリと、全身が粟立つ。
    背後から、何かどす黒く淀んだ何かが近づいて来る。背中に冷え切った鋭利なナイフを突きつけられているような、そんな悍ましい感覚に全身が包まれる。
    コツ、コツ、と、一歩ずつ確実にこちらへと迫ってきている。その度に、まるで気温まで1度、また1度と下がっていくように感じられた。

    だが、固まるエースとは逆に、呼ばれた当人であるデュースは、その声の主を視認するなり、ぱっと表情を明るくし、エースの横を通り抜けてそちらへと向かった。

    「ドラコニア先輩!」
    「どうやら補習は免れたようだな」
    「はい!先輩のおかげです!」

    親しげに話しながら、連れ立って歩き始める。そしてそのまま、またエースの横を通り過ぎて行った。歩きながら、1度だけデュースが振り返っていたような気がするが、よく覚えていない。


    「んだよ・・・・・・」

    ようやく出せた声は、自分ですらよく聞き取れないような、絞り出したような声だった。

    "どうしたの?"
    「ッ!?」

    振り向くと、監督生が心配そうな顔でこちらを見ていた。そういえば、こいつも忘れてるんだよな、デュースの事。

    「なんでもねーよ。つかグリムは?」
    "あっ、居ない・・・"
    「どうせ暇だし、探すの手伝ってやってもいいけど?」

    わざとらしい笑顔で左手を差し出しながら、答えを待つ。

    "こ、今月は厳しいので・・・"
    「んじゃ次の日直肩代わりな、交渉成立!」

    監督生の返事を待たずに駆け出す。今日一日だけで溜まりに溜まった頭の中の靄を吹き飛ばしたくて、思いっきり走った。










    --------------------


    空になったカップを受け皿へ置き、マレウスは視線を上げる。その先では、机の真ん中に置かれた赤と青の斑模様をした林檎が、また一つ色を増やしたところだった。

    「うっ・・・また失敗か・・・・・・」

    ガクりと肩を落とすデュースを見て、マレウスはくつくつと笑う。そのうち虹色の林檎が出来上がりそうだ。

    「力み過ぎだ。もう少し肩の力を抜け」
    「はい!」

    言ったそばからまた肩に力が入っている。何故ただの色変え魔法にそこまで気合を入れるのだろうか。何事にも全力で取り組もうとするのはデュースの良い所でもあるのだろうが。

    「別に攻撃するわけではないんだ。もっと楽な姿勢になれ」

    デュースの背後に周り、力が入っている箇所一つ一つに優しく触れ、解してやる。

    「は、はい・・・・・・」

    一度深呼吸もさせ、ようやく余計な力が抜けたのを確認したら、マジカルペンを持っている方の腕を軽く持ち上げ、林檎へと向けさせた。

    「そうだ、自然体でいい。だが、狙いはしっかりと定めろ」

    ゆっくりと腕を離し、再度姿勢を確認する。もう肩に無駄な力は入っていないから大丈夫だろう。後は・・・・・・

    「やはり、イメージだな」
    「イメージ、ですか」
    「ああ。魔法は想像力がものを言うからな」

    いめーじ・・・いめーじ・・・と呟き始めるデュース。恐らく頑張って色の変わった林檎を想像しているのだろう。段々と眉間に皺が寄っていく様もなかなか眺めていて飽きないが、さて。

    「そうだな・・・・・・赤や青に拘らず、お前の好きな色を想像すればいい。後はそれに形をつけるだけだ」
    「僕の好きな色・・・・・・やってみます!」

    ペンから放たれたデュースの魔力が林檎を包み、キラキラと輝く。魔法の残滓が机の上から消えると、一色に染まった林檎が姿を現した。

    「ほう・・・緑。ディアソムニアの色か」
    「あ、いえ。これはその・・・・・・」

    言い淀むデュースの方を見ると、慌てて顔を逸らされてしまった。先程よりも少し赤くなっている耳は、夜色の髪の中にあると目立つな、などと考えながら待っていると、ようやく意を決したのか、ゆっくりとだが再び顔を向けてくれた。

    「せ、先輩の色です!」

    僕の色・・・・・・?
    どういう事だと聞こうとしたら、視線がぶつかった。孔雀色の宝石は、マレウスの瞳を真っ直ぐに見つめている。

    「うわっ!?」

    その意味を理解すると同時に、思わずデュースを抱きしめていた。身も心も暖かく感じるのは、きっとこの細くも脆くはない身体から感じる体温のせいだけではないだろう。

    「本当にお前は、僕を喜ばせるのが上手いな」
    「ど、ドラコニア先輩・・・・・・苦しいです・・・・・・」

    おっと。つい力を入れ過ぎてしまった。すまないと謝りながら、少しだけ腕の力を緩める。少しだけだ。離しはしない。

    「ぷはっ!びっくりした・・・・・・」
    「あまりにも可愛らしい事をするものだから、つい、な」
    「っ・・・!」

    耳元で囁いてやれば、デュースの肩が僅かに跳ねた。そのまま背に回していた腕をゆっくりと動かし、後頭部へと指を這わせようとしたのだが、身体を離されてしまった。先に口を塞ぐべきだったか。

    「まだ、今日の、ノルマ、終わってないのでっ!」
    「別に明日でもいいだろう」
    「よくないです!」

    真っ赤な顔でわたわたと慌てる姿を見ているとつい揶揄いたくなってしまうが、やり過ぎてへそを曲げられる事は避けたい。この前はそれで一度部屋に帰られてしまったからな・・・。
    渋々了承すると、デュースは早速鞄から勉強道具を一式出し始めた。
    それを横目に見ながら、カップに茶を入れ、いつもの場所に座り直す。
    が、恋人の横顔をお茶請けに口をつけようとしたところで、早速ペンが止まっているのが見えてしまった。

    息をつく暇もないなと思いながら立ち上がるも、その表情は一目でわかる程上機嫌な事は、きっとマレウス自身も気付いていない。

    「どうした?」
    「わっ!?あ、えっと・・・・・・」

    成る程、応用問題か。デュース自身で答えを導き出せるよう、ヒントを与えるだけに留め、隣に座る。暫しの間、静かな部屋の中で走るペンの音を聴きながら、あらためて茶の香りを堪能するとしよう。


    が、心地良くリズムを刻んでいたマジカルペンの動きが、段々と緩慢になってきていた。
    また何か分からないところがあるのかとノートを盗み見てみたが、どうやらそうではないらしい。

    「はぁ・・・・・・」
    「悩み事か?」
    「あ、いえ、なんでも」
    「どうせお前はその状態では何も頭に入らないのだから、さっさと話してしまえ」
    「・・・結構はっきり言いますよね、先輩って」

    その後少しの間悩んでいたが、話す気になったようで、利き手に持ったマジカルペンについている魔法石をぼんやりと眺めながら、デュースは口を開いた。

    「僕はどうしてディアソムニア寮なんだろうって、考えてたんです」
    「ほう?」

    無意識に声のトーンが低くなってしまい焦ったが、どうやらデュースは気付いていないようで、ほっとする。

    「ディアソムニアってなんか、魔法力が強かったり、とにかく生徒の中でもすごい人達の寮ってイメージがあるじゃないですか」
    「・・・・・・」
    「けど、僕は特別魔法が得意なわけでもないし、勉強だって見ての通りですし・・・・・・。」

    表情が段々と暗くなっていく。その頬にそっと手を伸ばそうとしたが、その前にデュースが顔を上げた。

    「今日なんか、転寮したんじゃないかって言われちゃいました。全然ディアソムニア寮生に見えないんでしょうね、僕は」

    そう言ってふにゃりと、いつもの困ったような笑顔をこちらへと向ける。

    どうやら"思い出した"訳ではないらしい。

    行き場をなくしていた手を今度こそその頬へと添え、そのまま、むにっと、つまむ。

    「んぇ?」
    「やれやれ。珍しく真剣に悩んでいるかと思えばそんな事か」
    「そ、そんな事っふげっ」

    反対側もつまんでやった。なかなかクセになりそうな手触りだな。

    「所属する寮は闇の鏡が"魂の資質"とやらで決めているんだ。その結果偶然魔法に秀でた者が集ったに過ぎん。」

    喋りながらも両手は止めない。むにむに。

    「まぁ、茨の魔女はグレートセブンの中でも特に魔法力が優れていたと言われているから、あながち偶然とも言い切れないか」
    「どっちなんですか・・・・・・」
    「どちらでもいいだろう。とにかく、闇の鏡が決めた事だ。それで十分だろう?」
    「それは、そうなんですが」

    よほど転寮を疑われたのがこたえたのだろうか。歯切れが悪い。そういえば、今日廊下でデュースを見かけた時に近くに居たのはハーツラビュルの寮生だったな。

    気付いたのか?
    ・・・・・・まぁいい。どうせ何もできん。

    「先輩?」

    いつの間にか表情が険しくなってしまっていたらしい。デュースが心配そうに顔を覗き込んでいた。やれやれ、今はお前の悩み相談中だと言うのに。

    「どうかしたんですか?」
    「いや、何でもない。とにかく、寮の振り分けなど気にしても無駄だ。それでも気になると言うのなら、これから相応しくなればいい」
    「相応しく・・・・・・」

    あまり想像がつかないのだろう。口元に手を添えながら考え込んでいる。

    「僕は、スペードが我が寮に相応しくないとは思わない」

    その手を取り、両手で包み込む。

    「お前はまるで自分が何もできないかのように話すが、あの時、僕の大切な物を直してくれたのはスペードだろう。僕にとってこの両手は、魔法と同じかそれ以上のものを備えているんだ」
    「あれはそんな難しい事じゃ」
    「それに」

    片手をデュースの手から一度離し、また頬へと伸ばす。指を輪郭に沿うように這わせてから、クイと顎を引き、緊張と期待の入り混じった眼差しを真っ直ぐこちらの瞳に向けさせた。

    「お前には"緑"がよく似合う」

    鼻先が触れ合いそうな程の距離で告げ、踵を返す。そろそろ茶器を片付けてくるか。
    デュースは暫くぽかんとしていたが、食器のぶつかり合う音で我に帰ったようだ。

    「な・・・それ、全然関係ないじゃないですか!」
    「見た目は重要なんだろう?さぁ、さっさと残りを終わらせてしまえ。夜が明けてしまうぞ?」
    「もう・・・・・・こっちは真剣に悩んでるってのに・・・・・・」

    期待して損した等と呟きながら机に向き直るのを見届け、部屋を出る。丁度良い塩梅に緊張は解れただろうから、少しの間なら一人で進められるだろう。

    食器を片手に廊下を歩きながら、先程のデュースの表情を思い浮かべ、口角を上げる。
    さて、何を期待していたのだろうな。





    「・・・・・・どうしたものかのう・・・・・・」

    廊下の天井にぶら下りながら、今にも鼻唄でも口ずさみそうなほど上機嫌なマレウスの後ろ姿を見送り、リリアは小さく溜息をついた。





    --------------------



    「おやおや」

    マレウスは、デュースの集中を切らさぬようにと静かに部屋に戻ったが、当の本人は机に突っ伏しすやすやと寝息を立てていた。

    勉強道具一式は魔法で一纏めにし、デュースの体をベッドへと運ぶ。寛げるよう寮服を脱がせてから、シーツの上へと横たえた。

    「僕にこんな事をさせるのはお前ぐらいのものだな」

    独りごちながら寮服を脱ぎ、自らもデュースの隣に寝そべる。ギシ、と、静まり返った部屋に、ベッドの軋む音が僅かに響いた。二人分の体重を乗せただけで鳴るようでは、この先が少々思いやられるかもしれんな。

    片腕を伸ばし、気持ちよさそうに眠っている恋人の頬に慈しむように触れると、そのまま、剥き出しの首を、細くも硬さのある腕を、規則的に上下する胸を、柔らかな腰を、その形を確かめるかのようにじっくりと手を這わせていく。

    「ん・・・・・・」

    太腿の辺りに辿り着いたところで、デュースが僅かに身じろいだが、起きる気配は無い。
    そのあまりにも無防備な姿に、マレウスの奥底でドロドロとした欲望が蠢き始める。その己の本能を抑えつけるように、毛布を被り、軽く息を吐いた。

    今すぐにでも、お前を僕で満たしてしまいたい。が、まだダメだ。もし僕の全てをぶつけてしまったら、きっと今のデュースでは壊れてしまうだろう。せっかくやり直したんだ、そっと、そーっと、慎重に愛さなければ。

    心のさざ波が落ち着くのを待ってから、再びデュースを見る。何か夢を見ているのだろう、もごもごと口が僅かに動いていた。

    「どらこにぁ・・・・・・せんぱ・・・・・・」

    思わずくすりと声が漏れる。僕の夢を見ているのか。

    「それは・・・・・・ふらみんごのえさなので・・・・・・たべちゃだめです・・・・・・」
    「・・・・・・、僕は鳥の餌を食べるような男だと思われているのか・・・・・・?」

    内容は少々気になるが、寝言はそこで途切れてしまったようだ。

    デュースの身体を優しく抱き寄せ、毛布を被り直した。夜色の前髪をそっと払いのけ、額にかるく口付ける。
    すぐ傍の穏やかな寝息に耳を澄ませながら、マレウスも瞳を閉じた。



    ──おやすみ、デュース。よい夢を。
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    yuzenchiyo5

    DONEまれでゅ
    転寮と書いて誘拐と読む話
    マレ様がちょっと拗らせすぎちゃってる気がする


    最初エスのターンだけで愉快な長さになってしまったので削りまくりました
    「なんで誰も起こしてくれねーんだよ!」
    「そんな物好きいないっつーの」

    エースはいつもの数倍慌ただしく朝の身支度を整えながら、とっくに支度を整え寮を後にしようとしていたルームメイトに文句をぶつけた。
    自分で設定したアラームを自分で無視して寝続けたのだから、まぁ自業自得ではある。

    「ちぇっ、いつもだったら・・・」

    空いているベッドに腰かけて靴を履きながら無意識に呟くが、その手がピタリと止まる。
    いつも寝過ごしかけた時は、誰かが起こしにきていたような気がするのだが。

    「うおっ、やべぇ!」

    今はそんな事を考えている場合ではなかった。鞄に荷物を乱雑に突っ込んで、頭の中に引っかかった疑問を振り払うように、エースは全速力で寮の廊下を駆け抜けた。





    どうにか遅刻は免れる事ができた。が、朝食は食べ損ねてしまい、空腹のせいで午前中の授業は殆ど集中できなかった(ちなみに監督生には”いつもと同じじゃない?”と言われた。納得いかねー)。

    「はぁー・・・腹減った・・・・・・」

    そんなこんなで待ちに待った昼休みだ。いつものことながら混雑している食堂で適当な顔見知りに声をかけ席を確保してもらい 8215

    yuzenchiyo5

    DONEふろでゅ
    ぴっしぶからそのまま持ってきた仲良しやつ
    オクタヴィネル寮内、モストロ・ラウンジ。
    学生が経営しているとは思えないほど上品な雰囲気が漂う店内の隅で、給仕を担当している寮生から簡単な現状報告を受けているジェイド・リーチの元へと、別の寮生が慌てた様子で駆け寄った。

    「ジェイドさん、すみません!急ぎ対処してほしいのですが」

    息を切らしながら話す寮生を一瞥し、大体の状況を察する。この寮生は先程、シフトなのに出てこないフロイドの様子を見に行くと言っていた。大方、フロイドは気分が乗らないからと寮の自室でごねているのだろう。店内はそれなりに混雑しているが、今出ている人員だけで事足りているので問題はない。さっさと別の仕事を振ってあげるとしましょうか、と店内の状況を確認しながら軽く聞き流していたら、途中で出てきた単語に少々表情を固くする。

    「それで、デュースが『力尽くでも出てもらう』って言って部屋に向かってしまいました・・・・・・」

    デュース・スペード。フロイドの”お気に入り”である彼も、今日は同じシフトであった。機嫌のあまりよくないフロイドとそれを”力尽く”で連れてこようとするデュース。なるほどたしかに、急ぎ対処しないといけないようだ 6311

    yuzenchiyo5

    DONEエスデュ
    卒業後同棲してるやつ


    エは多分ひm
    音をなるべく立てないよう、慎重に歩みを進める。御近所さんとのトラブルも避けたいが、何より、同居人を起こしてしまわないように。
    けれど、ようやく辿り着いた部屋の扉を開いたら、まだ明かりがついていた。

    「おかえり。今日はまた一段と遅かったじゃん」
    「ただいま。・・・・・・寝ててもいいんだぞ?」
    「昼寝したから眠くないんだよねー」
    「そうか。ならいいが、いやあんまりよくない気もするが」

    リビングのソファで寛いでいたエースはおもむろに立ち上がって、キッチンに向かった。
    先程まで見ていたのだろうスマホは無造作に机に置かれ、ロック画面に表示されている時刻はとっくに日付が変わっている事を示している。

    順調に出世するにつれて帰りが遅くなっていくデュースを、エースは毎日必ず寝ずに出迎え、朝も必ず同じ時間に起きて見送っていた。
    初めの頃こそ夜更かしはよくないとデュースは咎めたが、そのうち、それを少し嬉しく感じている事に気付いてからは、あまり煩く言わなくなった。

    「夕食は?何か食った?」
    「いや、何も。でももう夜中だし軽いものがいいな・・・・・・オムライスとか」
    「いやがっつり食う気満々じゃねーか! 2008