僕と君の穏やかなひととき……からの……? 強い思いが込められた美しく輝く瞳。なんて綺麗なんだろう。その輝きは高名な宝石すらも霞んでしまうくらいに、煌めいていた。僕を……僕だけを見つめるこの瞳がとても眩しく感じる。やはり彼の本質は光だ。闇に囚われた心ですら簡単にするりと解き放つ改めて救いの光。だと……心から思う。
……のだが、それはまた今度言おう。何故だって? それはーー。
「このねこさんオムライス可愛いし美味しそう! ルックもそう思うよね!」
「あぁうん、そうだね……」
僕用の部屋に押し掛けてきた腹ペコでグルメ本に夢中になっていて目を輝かせて僕に同意を求めてくるこの子に言っても……スルーされるからだよ。そんなことされたら…….神経が図太い僕でも流石に心にダメージを受けてしまう。っていうか僕が嫌だ。
そんな僕の心境など知るよしもないティルは僕に向けていた瞳を本へと戻す。どんどんページを進めていく彼に、少々呆れつつも付き合う。これがさるとか他人なら速攻で切り裂いて放置するけど、ティルにその様なこと出来るわけがない。っていうかしない。する訳ない。絶対に。
「タピ◯カドリンクとかマ◯トッ◯ォとかも流行ってるみたいだよ。ほら見て」
「……見ているだけで胸焼けしそうだ」
「そう? 僕は凄く美味しそうに見えるよ? 食べてみたら美味しいって思うかもしれないよ?」
「……好みは人それぞれだからね。僕と君とで意見が違うのは仕方のないことだよ。ま、人によっては食わず嫌いの可能性もあるけど。そもそも僕、昔から甘いものは苦手だし」
「ん……そっか。そう言えばそうだったよね」
うまく誤魔化せた。正直なところどちらも僕からすれば永遠に口にしたくない食べ物だから、彼が即納得してくれて助かった。ここで粘られたら一緒にスイーツツアーといった最悪のイベントになっていた可能性があったからね……。
っていうか君、僕が甘いもの苦手だって忘れてたのかい? そう投げかけてみたら案の定答えは、うん、だった。これはちょっとショックだよティル。ここ数週間会えなかっただけで君は忘れてしまうのかい?
「そんなことないよ! ただちょっとだけ頭の中から消えていただけだよ! 」
「それを忘れていたって言うの知ってるかい?」
ほんの少しだけトゲを含ませた言葉を投げると、罰が悪そうな表情で視線を右に左に彷徨わせた後、ごめんなさい、と素直に謝罪を申し出る。過ちを素直に認めるのは良いことだよティル。降りかかってきた彼の言葉が心を包み込み、ショックという名の殻をゴッソリと取り除いていく。軽くなった心に僕は自分自身に向けて苦笑を零した。本当……現金なやつだな僕は。
そんな僕の不審な行動にティルは首を傾げるも即座に本へと視線を移す。彼の中で、どうしたのかなルック……まぁ別に聞かなくてもいいことだろうし……まぁいっか、くらいの軽いノリで処理したのだろう。聞かれたら聞かれたで困るし、僕としても別にいいか。
「だったら」
「うん?」
「さっきのねこさんオムライスは美味しそうだし、ルック嫌いじゃないよね?」
「まぁ……嫌いじゃないね」
「食べに行こう! ……って思ったけどこのオムライスを作っているお店がかなり遠いみたいなんだよね」
「なら却下だね。めんどい」
ルックなら絶対そういうと思った! と咲き誇る花々を背景に笑顔を見せるティル。そういうところは覚えているんだね君……。
「だからハイ・ヨーさんに頼んで作ってもらおうかなって思ってるんだ」
「あの料理人を焚き付けて作ってもらう作戦か。中々やるねティル」
「ちょっと……やめてよその言い方」
「褒めているんだよ」
その刹那、僕の脳裏にある『可能性』が過った。彼がレストランに向かい、料理を頼む。それを見ていた連中の誰かが城内で『ティル様がオムライスを二つ頼んでた! 誰かと一緒に食べるのか?』と僕にとって迷惑極まりない話を振りまく。それを聞いた猿の側近共が猿に伝える。猿(下手をすれば姉も共に)しゃしゃり出て、ティルに一緒に食べたいと言い出して、ルック……あのね……と、一緒に食べる相手が僕ではなくアレになる可能性が……。
「ダメだ」
「へ?」
「オムライスは僕が作る」
「え?」
「猿なんぞにくれてやるわけないだろ」
「ごめん、なんのこと?」
「料理人に話を付けてくる。君はここで待ってて。誰か訪ねてきても絶対に開けないように」
「えっと」
「いいね?」
「……はい」
強引過ぎたかもしれないけどこれは君(と僕)のためなんだ。わかってくれティル。不安材料は早いうちに払拭するに限る。解放軍のリーダーを勤めていた君なら、この言葉の意味がわかるだろう?
素早く身支度を整えた僕は、彼に一言告げテレポートでレストランへと向かう。この時間は食材の仕込み中かもしれないが、僕にとっては知ったことじゃない。
さて……さっさと話を付けるとするか。無駄な横槍が起こらない内に……ね。
続…く?