1Kの恋模様# 1Kの恋模様
「くそあちぃ」
奥多摩の山中、今は廃線となったロープウェイの駅はすっかり廃墟へと様変わりしている。心霊スポットとも噂される廃墟へ二人の男が向かった。二人とも年若い。白いワイシャツと黒に近い濃紺のスラックスの男と黒いスリーピースを着込んだ男だった。真夏の奥多摩は都心と比べれば涼しい。それでもスリーピースを着込んでいれば暑いのは当然だというのに暑いとぼやく男の頭にはジャケットを脱ぐことないらしい。
「香坂」
黒いスリーピースの男に突然名を呼ばれ香坂は身構えた。その声が不機嫌そのものだったからだ。
「何ですか」
「お前幽霊とか信じるか」
「え、幽霊って…… 志摩さんらしくないですね」
「……そうだな」
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