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    たまごやき@推し活

    アンぐだ♀と童話作家アンデルセンのこと考える推し活アカウント

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    カルデアアンぐだ♀、青銅の果実

    2022.5

    ##FGO
    ##アンぐだ
    ##カルデア時空

    おひとつどうぞ「――それでね、この苗木を使って余った魔力を貯蔵できるんだって」

     魔術師が髪留めに魔力を貯めたり、剣や宝石に魔力を注ぐ方法を取ることがある。それに代わるもっと簡単な魔力の貯蔵方法がカルデアで検討されている。
     この苗木は検討された方法の中の一つだという。

    「つまり、この苗木はお前の魔力を搾取して実をつけると」
    「搾取って言われると微妙だなぁ」
     実が一つもなっていない苗木が温室にずらりと並んでいる。これらは魔力を注いでやると一度だけ実を生らすのだとか。

     俺は暇を持て余し(断じて原稿の締切に追われているなどではなく)何かのネタになるかと、魔術で生み出された苗木の様子を見に来ていた。マスターが熱心にこの家庭菜園に誘ってきたので仕方なく、というのもまぁ理由の一つではあるが。
     最先端技術ともなれば何かしらの話題性を秘めているはずだ。……と思いきや魔術で作られたこと以外には特にこれといった変哲のない苗を見るに、そのまま使えるネタになるかは疑わしい。
     まぁそう簡単にネタが降って湧けば商売上がったりだが!

     魔力を苗木に注ぐのは、休養日の潤沢な魔力を確保しておくため。そしていざと言う時に腹の限界など考えずに使うためだ。
     例えば今日のように稀な休暇で出撃の予定もないとくれば、苗木の試運転にはもってこいというもの。
     休日も何かと引っ張りだこなマスターがこうして温室でだらけているのも「緊急時用魔力貯蔵方法の実験及びレポート作成」の名目があるからに他ならない。

     元々一般人であった彼女は礼装なしにガンドひとつも撃てはしない。それが魔力でひとつの果実を実らせるというのだから不思議なこともあるものだ。
    「じゃあ魔力を注ぐから、そこで見ててね!」
     目の前で苗木の葉に触れ、魔力をまわす彼女の姿はサーヴァントに令呪を使う時によく似ていた。
     実らせるのに消費する魔力は割と多いらしい。汗と疲労の滲む顔を見るに、コストパフォーマンスはそれほどよくないのだろう。
     ……まぁ魔術師として成長すればもう少し楽に実を手に入れることもできるだろうか。

    「実らせる労力に見合うものだといいが、それもどうだか。そこまで汗みずくになる価値があるものか?」
     全魔力の半分近くは使ったかという疲労を犠牲にして、苗木が青い果実を実らせる。艶々と光っているものの何せ色がコレだ。食物としては食欲を失せさせるしか能はなさそうだ。
    「でも綺麗な色してるでしょ? ……ほら、アンデルセンの髪に似てる」
     そう言ってマスターは俺の髪と果実を見比べる。「そういうお前とは正反対の色だな」、そう言いかけてやめた。
     役目を終えた苗木がさらさらと砂のように消えていくのを眺めながら、俺は彼女がやたらと上機嫌で手のひらの上の果実を転がすのを眺めていた。

    「まぁ何にせよコスパの悪い中リソースを割いた実験台だ。有事など起こらないに越したことはないが備えはあればあるほどいい。腐らせない程度にしまっておけ」
    「今日のはお試しだからすぐなくなるよ」
    「味の研究までしろとでも言われたか? まったく、ただの苗木の無駄遣いだな」
     この果実に賞味期限なんぞがあるかもしらないが、魔術をかければそこそこ保存が効くはずだ。すぐにこれを使うようなシミュレーションの予定があるわけでもなし。

    「これはアンデルセンにあげるから」
     彼女は実ったばかりの青い果実を俺の目の前にずい、と差し出す。
    「……俺は差し入れをせがむためにこんなところに来たわけではないぞ」
     突き返されるとは微塵も思っていないような顔つきで、そんなものを渡してくるのだ。
    「魔力を注いで作った果物だから、きっとサーヴァントにも良い効果があるよ」
    「これはお前の非常食であってサーヴァントの燃料ではない!」
     まったく何のために開発がされたものだか自覚が足りないらしい。しかも俺はカルデアの電力由来の魔力で事足りている。わざわざ、そんなものを渡す理由がないのだ。

     カルデアのサーヴァントがマスターから魔力のようなものを直接受けるとすれば。それは絶体絶命のピンチの切り札となる戦闘力のある宝具を使うため。ありったけの攻撃力をふるわせるためのエネルギー源であるはずだ。
     決してサポートをこなすサーヴァントに与えるものではない。現に俺はマスターから令呪や魔力の供給を必要と思ったことなどなかった。

     例えばこの果実がサーヴァントに良い影響を与えるのなら、それならばもっと受け取るに相応しいサーヴァントが山のようにいるだろう。

     だというのに彼女はまるでティータイムのクッキーを勧めるような手軽さで、直接的ではないにしろ魔力供給になるような品物を俺に渡してくるのだ。上機嫌で、やたらと目を輝かせて。 

    「ほら、変なものは入ってないよ!」
    「そうまでして俺に寄越すこともないだろう。ティータイムにでも自分で消費しろ」
    「でも……初めて礼装なしで魔術っぽいことをしたから。アンデルセンはほら、わたしにとっては魔術師としての先生みたいなものだし」
    「作家を捕まえてよく言う。お前の魔術を見てやった覚えはない」
    「でも戦況の見極めとかパーティへの目の配り方とか、他にも色々教えてもらってるし」 
     そんなのは俺以外でもやっていることだ。
    「この実はまるで目に見える魔術の成果みたいで。だから最初はアンデルセンにあげようと思ってたの」
     自分はこれをもらうに相応しくない。それでもなお食い下がる彼女を引かせる労力が凄まじいことくらいは分かるのだ。……まぁそんなことを言い訳した時点で、俺はそもそも断る選択肢など持っていなかった。
     これはただの実験成果物の配布で、彼女の気まぐれの結果だ。なんてことはない。そうであるのなら受け取るくらいは許される。

    「成果だの何だのと言うが、結局のところこの果実の出来不出来など俺は知らんぞ。魔術師でもあるまいし」
     摘み上げるように青い果実を手に取る。言葉の通り成果を見せたい、などというのなら当然確かめるべきことがある。――この食欲など湧くはずもない青色に歯を立て、口の中に放り込む。音を立てて崩れる果肉と、あふれる果汁は想像以上に本物の果実を思わせる。

    「どう、美味しい?」
    「まさかお前、魔力の量や質が果実の味に関わると思っているのか? そんなのは幻想だ、味の文句なら宛先はお前よりも開発者だろう」
    「え、もしかしてまずいの⁉︎」
    「……さて、どうだか」

     あぁそういえば日本の果物は甘さに特化しているらしいな。朝食よりデザートに出るような品物だ。甘ったるくて毎朝なんて食べるものじゃない。
     食指の動かないはずの青色に抱いたのはそんな安っぽい感想だった。
     ともかく彼女の魔力が混ざったようなそれに感想を付け加えるのはあまりにも、自分向きじゃない。

    「わたしも一口味見しようかな」
    「……は?」
     髪を耳にかけながら俺に近づく彼女の顔。
     俺の手の上の果実を押さえるように添えられた手。
     気を取られるばかりで、気がついた時には果実は一口齧られた後だった。

    「ちゃんと美味しい! ……もう、アンデルセンが勿体ぶるからすごくまずいのかと思っちゃったよ」
     ぐらぐらと頭が揺れるような、めまいがするような。そんな錯覚が消えない。
     人の食べかけを躊躇なく齧る。齧った箇所は違うにしろ。いや、そういう問題ではなく。
     
    「あ、マシュと約束してたんだった。時間だからそろそろ行くけど……後はあげるから何か効果があったら教えてね!」
     
    こちらの気なんか知りもせず、簡単に言ってくれる。勝手気ままにしておいて、自分はさっさとここを出ていくのだから。

    「効果があるか、だと? ふざけたことを聞くな、馬鹿め」

      手の上には二箇所かけたままの青い果実がひとつ。
     どこにやって良いかも分からず、それを持て余したままだった。
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