秋の雨が降れば 最近は暑かった夏もようやく終わり、過ごしやすい気温になってきた。秋の長雨の中、少し冷えるような感覚。あまり湿度が高くなると髪がうねって困る。
家への近道のために公園の中を横切る。早く帰ってシャワーを浴びたい。心の中でああだこうだと雨に文句を言いながら歩く。
……ふと視界に入る、公園のベンチ。誰かが寝転がっている。
公園のベンチに寝転がる人間とは大体目を合わせない方がいい。今までの人生で学習したことだ。
パーカー、スウェット、サンダル。一人暮らしの人間が深夜適当にコンビニに行くときの格好。けれど、明らかに小柄な体躯が見えたものだから。何か、そう……例えば警察に通報が必要な事態なのかと思って目を逸らすのが遅れた。
視線がぶつかる。まるで敵でも見るかのような目で少年がこちらを睨んだ。
「俺に何か用事が? 施しもできない者に無駄な憐れみを向けるな」
低い声が響く。果たして目の前の彼は少年なのか、定かではない。
彼は頼りない腕で自分の身体を支えるように上体を起こしながら、まだこちらを睨んでいる。
やがて視線を合わせたまま、痺れを切らしたように彼が立ち上がった。
あぁ、どこかへ移動するのか。
ようやく目を逸らせることに何故だか安心した。明らかにわたしを敵だと見ている視線に晒されなくて済む。
安心した瞬間、小さな身体が崩れ落ちるのが見えた。雨でぐちゃぐちゃの地面で泥の中。
彼のぶかぶかのパーカーのフードがずれる。
珍しい青色の髪。
それに埋もれるようにして、見慣れたパーツが顔を出す。
普通の少年であるなら、見慣れたパーツなんて言うのはおかしいかもしれない。
小学生の頃、猫を飼いたいと両親にお願いしたことがある。わたしの住んでいるマンションはペット飼育不可。当然どれだけ駄々をこねても飼うことはできなかった。
――ふと、そんなことを思い出した。