今宵限定クロスローダー「アンデルセンは幸運Eだからカジノでは気をつけてね! なんか負けた客は闇に葬るみたいな噂あるし心配だよ……ホントに気をつけてね!」
……保護者面してそんなことを言った数時間後にわたしの方がカジノスタッフに身が葉を拘束されるだなんて思わなかった。
猿ぐつわと全身にぐるぐる巻かれたロープは最早カジノで大敗したというより奴隷になって身を売られる気分。
「ん〜、ん〜!」
「おい、うるさいぞ。負けたあんたが悪いんだろう? それにしてもこんな平凡な小娘じゃ売っても大した額にゃならねぇ。……売られた先で稼いで返してもらうしかねぇな」
とてもディーラーの口から出るセリフとは思えない。売られるって、一体わたしはどうなってしまうんだろう。……まさか本当に奴隷にされるのか。
「――まったく、たまの休みと思いきや緊急招集とは……スケジュールの調整がなっていないな? マスター」
カジノの場には似合わない小柄な身体で堂々とバックヤードの入り口に立つ姿。開いたドアから漏れるカジノ会場の光が漏れて、眩しい。
「……お客様、こちらは立ち入り禁止でございます」
「あぁ、構うな。そこの小娘の……まぁ、保護者のようなものか」
「ん〜!」
保護者ってなに⁉︎
言いたい言葉は阻まれて形にならない。
「何を喚いている? 保護者面した後すぐにこの有様。情報通りであればこれからお前は闇に葬られるらしいな」
「この方の代わりにご返済いただけるのでしょうか? ……いえ、恐れ入りますが当カジノは未成年の方の入場は禁止となっておりまして……」
「は、俺は童貞だぞ。年齢確認など一々受けてたまるか。――身売りなんぞがまかり通る界隈ではこれさえあれば何も文句はあるまい」
アンデルセンが引いていたキャリーケースが開いて、大量のチップが辺りに散らばる。こんなに大量に、一体どうやって。
「……なるほど。しかし、」
「――しかしこれだけでは足りない……ときたか。これ以上など一晩のゲームで真っ当に負けられるような金額ではない。諮られたな? 正直を取り柄にするのも考えものだ。……まぁいい、チップは足りなければゲームで増やすものだろう?」
表情は子どものそれではない、まるで詐欺師のもの。
「お相手願おうか。賭ける物はこの安っぽい大量のチップと凡庸な少女の身柄の「。お前が勝てば全て手に入るぞ?」
「……どんなゲームをご希望で?」
「ブラックジャックを。……一ゲームで全て終わらせてくれ、俺は休暇の真っ只中なんだ」
ニヤリとディーラーが口角を上げる。
「VIPルームへ、ご案内します」
運が物を言うのがギャンブル。一ゲームで賭けるには明らかに多すぎる金額になるだろうチップと、わたしの身柄。
絶対負ける、闇に葬られる……!
「んん! ……ん〜!」
「ろくに喋れもしないのにうるさいやつだな。お前は今賭けの商品のようなものだぞ、自覚はあるのか? まぁそう時間のかかるゲームではない。大人しくしていろ」
「ん〜!」
こんな身を売られるかもなんて状態で大人しくしていられるわけがない!
大体カジノではディーラーが有利になるようにできている。勝てっこない!
「いいから黙って待っていろ。――すぐに俺の所有物に戻してやる」
「んっ⁉︎」
「文句があるなら俺の手元に帰ってきてからにしろ」
VIPルームへ移動する背中を視線で追いかける。かてっこない、そう思っているはずなのにいつの間にか不安が消える。
(でも所有物って……所有物って!)
自分の身が危ないことより所有物扱いに意識が寄ってしまう。……不安よりも厄介なものをぶつけられた気分。
自由のきかない状態でただひたすらゲームの結果を待つ。動悸が止まらない。
――闇に葬られるより、もっと厄介なことになってしまったかもしれない。