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    vita_di_sardina

    @vita_di_sardina

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    vita_di_sardina

    MEMO「おれの妹にもそうやって言うこと聞かせてんのか?」
    義兄と義弟の話年下の恋人が分かりやすく落ち込んでいたのだ。

    それは大変に珍しいことだった。恋人はいつも朗らかににこにこしていて、それは朝起きたときから始まり食事をしているときも、一手に任されている四人分の洗濯物を干すときも畳んで仕舞うときだって、水回りの掃除をしているときも楽しそうで、大きなベッドで毎晩おれのことを干涸らびてしまうのではないかと思うほどに責め立てているときすらも、ずっと手本のような笑顔を浮かべている。おれも含めてこの家に住んでいる残り三人は少しばかり見習った方が良い。特に恋人の兄について、そう思う。
    出会ったときからずっとそんなふうにしているところばかり見ていたから、あまりひとの感情の機微というものを掴もうと思ったことがなかったおれですらこいつは何を考えているのだろう、どうせこいつもおれの前…いや女の前でだけ甘ったるい笑顔を見せているだけだ、と勘繰っていたのが懐かしい。初めて会って、セックスをして、そのときおれは処女だったからあいつにとってはたいそう面倒だったろうに、また会って、またセックスをして、そうしているうちになぜだか彼はおれのことを気に入ったようで、おれも彼を気に入ったから、互いに都合の良い相手として半分一緒に生活するようになっていた、はずだったのだが、一足先に恋人を作って二人暮らしの広い部屋におれを一人残していった兄が今までおれを気にかけたことなんてなかったのに、おれたちの──少なくともおれの意志をさておいて、気付いたら兄たちとおれたちの四人暮らしになっていた。
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