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    yanagi_denkiya

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    yanagi_denkiya

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    なんだこれシリーズ。パラロス時空、ベリがラジオやってる話。モブ視点。

     ベリアルがラジオ番組を持つとニュースになった時、ファン達は当然大騒ぎになった。週に一度、深夜枠。毎週推しの声が聴けると喜びはしたが、同時に酷く不安にも思ったものだ。本当にやれるのか、深夜枠とはいえ速攻で放送禁止用語を連発して降板させられるのでは――とファン達に危惧されていたが、彼は驚くほど上手くやっていた。
     もともと彼は頭がよく機転が利き、何より舌が回る。雑談のネタも尽きる事がなく、特に日頃から高くアンテナを張っているグルメの話題はシンプルに感心してしまうくらいだった。庶民ではなかなか足が向きづらい高級店の話から、親しみやすいチェーン店の期間限定メニューまで網羅し、「あのコンビニで最近出たアレ美味しいよ」の一言で棚が空になる。
     ベリアルってそこそこ影響力あったんだな、しかもタイムフリー聴取があるこの時代に皆ちゃんとリアタイでラジオ聞いてるんだな、という驚きもあった。勿論聞いたファンがSNSに即情報を流している面もあると思うが。
     今日はリスナーの「初めて凝った料理を作った」というお便りを受け、ベリアルが最近作った手料理の話になっている。肉を扱う時の表現が少々怪しかったが、彼は見事に言葉のみで盛り付けまで表現して見せた。
     思えばやっちゃダメな場所ではちゃんと堪えられる男だったなと感心していると、ベリアルの口からついにこの言葉が飛び出してきた。
    「そういえばさ、これを出した時にファーさんがさ――」
     ファーさん。ベリアルと同じバンド――パラロスのキーボーディストで、別名氷の貴公子。堕天司の王。ファンサゼロの塩対応が当たり前、冷徹が服を着て歩いているような男だが、とにもかくにも顔がいい。もの凄くいい。とにかくいい。
     中性的な美貌は最早人類を通り越して動物まで魅了するらしく、ベリアルのSNSには『猫に纏わりつかれるファーさん』だとか『鳥に木の枝を差し出されたファーさん』だとか『延々犬が付いてきて困り果てているファーさん』だとか『小動物ふれあい広場で大惨事になったファーさん』など冗談としか思えないような動画が公開されている。「何かの物語のプリンセスか……」とファンたちはおののいたものだった。
     そんなファーさん――ルシファーのことが好きで好きで堪らないと公言しているのがベリアルである。正確には『好き』も『愛してる』とも彼は言っていない。直接的な言葉を使わずに、それこそ自らが持ち得るありとあらゆる語彙を用いて『愛』を『表現』するのだ。何だかそちらのほうが並々ならぬ拘りと執念を感じてしまって恐ろしい。勿論言葉だけではなく行動でもベリアルの「愛」は示されるわけだが――とりわけ音声コンテンツであるラジオではベリアルによる『ファーさん語り』が大きなウェイトを占めているのである。
     今日もベリアルは手料理の話から見事に『ファーさん』の話へと繋げていった。この料理はそももそもファーさんの我が儘を叶えようとした結果出来た料理で、いざ作ってみるもファーさんは不満顔だった。何故かと問えば「この前のやつがいい」と言い始めたから、この前のやつ――林檎の葡萄酒煮を肉用のソースにアレンジしてみたところそれが大好評。ちょっと甘めの味付けで初めは驚くかも知れないがクセになる味だぜ。ファーさんもすっかりオレの味の虜なんだ。
     ここまでくるともう完全にノロケである。ノロケであるが――夢に夢見るファンの目から見てもルシファーはベリアルを特別にひいきしているようには見えない。犬のようにじゃれついてきてはあれこれ世話をしてくるからそのまま好きにさせているだけで、ベリアルが与えている感情と同程度のものどころか欠片すら返してはいないだろう。
     どこまでも一方的な感情を向け続け、尽くし、愛を与え――それでもベリアルはこうしてルシファーへ向ける『愛』をファンの前で語ってみせるのだ。
     そのあまりにいびつな関係というか――感情というか――筆舌に尽くしがたいドロドロとした何か。
     まるで彼の言葉を通して甘い毒を飲まされているかのようなその三十分を毎週楽しみにしているファン達もどうかと思うが。
    「はいじゃあ次のお便り。今日もベリくんのファー様語りキレッキレですね……まあね、オレこの番組でファーさんのこと語るために命かけてるからね。ええと……最近ファー様との印象深い出来事ってありましたか? 良ければノロケ大盛りで聞かせて下さい――オイオイ、これって滅多に私生活の話をしないファーさんの事が知りたいだけじゃないのかい? まあいいけど。そうだなあ」
     口ではそう言っているが、ベリアルの声音は嬉しそうだ。ワインの栓を抜こうとして失敗し、拗ねてしまった話を繰り広げている。大げさに話を盛っていそうだが、その声音は愛情深く、まるで子供を見守る親のような様相なのだから堪らない。
     話の途中で番組終了の時間が近づいてしまい、巻きで告知をしている様子に思わず笑ってしまった。そっちがオマケなんかい。
    「それじゃあまた来週。オヤスミ」
     今日はサービスのつもりか随分と色気のある「オヤスミ」が最後に囁かれた。
     動揺して思わずヘッドホンを外した瞬間、まるで夢から覚めたような不思議な心地になった。
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