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    yanagi_denkiya

    @yanagi_denkiya

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    yanagi_denkiya

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    昼に言っていた「罪を犯したわけでもないのに刑務所の一角にブチ込まれてるファーさんの話」。主人公は安定のサンディ。
    カップリング要素今の所なし。続けばベリファーになる。
    メモ書き程度にざっくり。

    「……何だこれは」
     物々しく無機質な刑務所の中、その部屋の前だけが異様だった。色とりどりの切り花がまるで献花のようにドアの横に積み重なっている。
     新米刑事であるサンダルフォンは、入署早々上司の命令でこの独房に収監されている人物に面会をしに来たのだ。
     初めて来た土地で、よりにもよって囚人に知り合いも因縁もない――筈だ。
     訳も分からぬまま連れてこられた先にこんな不気味な光景が広がっているのだから頭が痛くなってくる。
    「遺体安置所から死体が呼んでいるというオカルトな話じゃないだろうな。俺は霊媒師じゃない、刑事だ」
    「こんな高層階に死体を保管するはずがないだろ。その程度の推理もできないのか、新米刑事さん?」
    「ぐ……」
     言い返せず言葉を詰まらせると、そんなんじゃこの先やっていけないよ、なんて軽口を叩きながら看守はドアの前で立ち止まる。
    「あー、ちなみにだが……言い残すことは?」
    「……やはりここは遺体安置所じゃないのか?」
    「――まあある意味そうかもな」
     そう独りごち、看守の男はくるりと踵を返した。決してドアの方は見ないようにして。
    「気をしっかり持てよ。じゃあな」
     そう言って看守はひらひらと肩越しに手を振り、さっさと詰め所へと戻ってしまった。
     恐る恐るドアノブを掴むと、何らかの暗証が行われロックが外れる小さな電子音が聞こえた。ゆっくりとドアを押しあけ部屋の中に一歩足を踏み入れて絶句した。そこには監獄という言葉とはほど遠い光景が広がっていたからだ。見渡す限り本、本、本――部屋の四方の壁全てに本棚が押しつけられ天井までみっしりと本が詰め込まれている。床にも足の踏み場が見えないほど分厚い本が積み上げられ、文字通り一歩間違えれば大雪崩が起きてしまいそうであった。
     そんな部屋の中央にはゴブラン張りのカウチソファが置かれており、その上には何者かが寝転がっていた。顔の上に開いた本を乗せて眠っている。顔は見えないが質素な白いシャツの下に透けて見える身体のラインから男性だろうと思われた。
    (此処は独房で……その中にいるのは凶悪な犯罪者……の筈だよな? それが何故ソファに寝転んで本を読んでいるんだ? 犯罪者に対して手厚すぎないか?)
     考え込むサンダルフォンの耳に小さな摩擦音が聞こえる。はっとして顔を上げると男が老猫のような緩慢さでのそりと起き上がったのだ。
     そこに居たのは美しい――否、そんな単調な言葉では言い表せないほどの壮絶な美の化身であった。透き通るような白磁の肌に煌めくプラチナブロンド。ほの蒼い双眸はじっと見つめていると気を失ってしまいそうだ。
     この世界に存在するどんな言葉を使っても――否、この世の言葉で形容することそのものが不躾な気さえした。
     今すぐにでもひれ伏してしまいそうな気持ちを必死に抑えつけていると、そんなサンダルフォンの葛藤など知ってか知らずか男はじろじろと頭の先から爪先までぶしつけな視線を向けてくる。
     気圧され動けずまるで針のむしろにいるような心地で立ちすくんでいると、男はふっと息を吐きだし侮蔑するような視線を向けてきた。
    「……本当にノコノコ来たのか」
    「上司の命令だ。新米の俺が断れる筈もない」
    「『お前なら』例え仕事を辞めることになっても此処には来なかっただろうな」
    「正真正銘お前が呼び出した俺こそがサンダルフォンだ。署内に同じ名前のヤツは居ない。人違いなら帰るぞ」
    「そう急くな。なるほど、おおよそ理解した」
    「一人で勝手に納得しないでくれ。俺には全く状況が分からん。要件は何だ?」
    「お前に会いたいと、そう伝えただろう?」
     そこだけ切り出せばまるで愛の告白のような甘ったるい響きと声音であった。
     思わず生唾を呑み込み無意識に伸ばそうとした手を握り込む。慌ててかぶりを振り思考を切り替えた。
    「この場所は……アンタは一体何なんだ。どうして見ず知らずの俺に会いたいなどと思ったんだ」
    「見ず知らず、ね」
     含みを持たせた呟きを枕詞に、男はゆるゆると続けた。
    「此処の人間はどいつもこいつもおかしかっただろう?」
    「いや、案内の看守としか会っていない」
    「帰りに一般の独房を見ていくと良い。敬虔に祈り刑務作業に汗水を流す模範囚ばかりだ」
    「馬鹿な……そんな刑務所があるはずが――」
    「ドアの外の花は見たか?」
     サンダルフォンの言葉を遮るように男が問いを投げた。反射的に頷く。
    「ああ。……大概意味不明だったが」
    「死者に手向ける献花のようだっただろう」
    「だから俺はこの部屋を遺体安置所と勘違いしたんだ」
     その言葉に男はクツクツと喉を鳴らして笑った。いよいよツボに入ったのか腹を抱えて小刻みに震えている。そんな粗野な仕草すら美しいと思えるのだから大概だ。
     ようやく落ち着いたのか細く息を吐いた男は目尻に浮かんだ涙を指先で拭い取りながら続けた。
    「初めは食べ物や差し入れの横流しが置かれた。それがいつの間にやら花になった。直接聞いたことはないが、看守たちがシステム化したのだろう。受刑成績が良ければ花を配給し、俺の部屋の前に置いても良いと」
    「お前の部屋の前に花を置きたいがために、囚人達は必死になっているというのか……?」
     にわかには信じがたいし、馬鹿げた話だ。
     訝しむサンダルフォンにニヤリと口端を吊り上げて笑い、男はゆっくりと立ちあがった。
    「俺の傍に居るとヒトは狂うらしい。理性を無くし襲いかかってきたり、跪いて涙を流し信仰を始める者もいる。手を握り仲睦まじくしていた恋人たちが俺を手に入れようと殺し合い、酷ければ暴動になる」
    「言っていて馬鹿げているとは思わないか?」
    「証明は簡単だ。その扉から外に出れば良い」
    「待て、俺はおかしくなっていないぞ! 妄言を吐くのも大概に――」
    「そう、そこだ。普通は数十秒でも俺の傍に居ると『狂う』。だがお前には効かないらしい」
     笑みを深めながら男は本の海を掻き分けドアを開いた。囚人が当たり前のように独房の扉を開く姿はサンダルフォンを大いに驚愕させた。だが驚きはこれで終わらない。
     ちょうど運悪く通りかかった看守が此方を見た。正確にはサンダルフォンの前にゆらりと幽鬼のように立つ白い男をだ。
     次の瞬間、看守の男は両目からボロボロと涙を流し始めた。膝から崩れ落ち、そのまま這うように男の傍に近づくとその靴にキスをしたのだ。
     それを感情のない目で見下ろし、浅い溜息を吐きながら男は踵を返した。さっさと扉を閉めようとするので慌てて追い縋り一緒に部屋の中に入る。本を掻き分けながらソファに戻った男は、汚らわしいものでも触るようにしながら先程看守の男に口づけられた靴を脱ぎ捨てた。
    「だから俺はここに収監された。俺が外に居るとああなるからだ。数年前、治安維持のため協力して欲しいとお前の上司に頭を下げられた。普通に暮らそうとしても厄介なことにしかならなかったし、ほとほと疲れ果てていた俺は望んだ本は必ず手に入れここに運び込むという条件で此処に軟禁されてやっている。案外住み心地は悪くない」
     さらりと告げられるとんでもない言葉に頭が痛くなってくる。思わずこめかみを抑えながらずっと解消されない疑問を口にした。
    「それが真実なのだとして、何故俺には効かないんだ?」
    「可能性は二つだ。一つは血縁。二親等までの血縁には効かない。当然お前は俺の血縁ではない」
    「……もう一つの可能性は?」
     その問いは何故かサンダルフォンを躊躇わせた。喉奥に引っかかるような心地を覚えながら何とか言葉にする。
    「まだ自我の浅い赤子の頃から慣れさせる。成功例では三年だ。0歳から三歳までの間、日常的に傍に居ること。それで実際に耐性がついた例がある」
    「それが、俺だと?」
    「今例に挙げた実例は別人だ。そいつは俺の六歳下、狂って死んだ使用人の子供を引き取った」
    「……いや、俺はごく平凡な家に生まれ育った。アンタのような知り合いはいなかった」
    「本当にそうなのか? お前の罪を思い出せ、サンダルフォン。そしてその先に俺の目的がある」


    続くかもしれない


    <オマケ>
    いつものざっくり人物紹介

    ・サンダルフォン
    新米刑事。何故かルシファーの魅了が効かない体質のせいで人生が狂い始める。

    ・ルシファー
    近づく者を魅了する体質の持ち主。治安のため甘んじて収監されている。

    ・ルシフェル
    ルシファーの双子の弟。現在行方不明。

    ・ベリアル
    マフィアに買収された不良警官。融通が利きマフィアにも警察にも顔が利くので市民には頼られている。
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