始まりはゼロから 事の起こりはロイドの兄、ガイが彼女のセシルと同棲を始めたいという話からだった。昔から知らない仲ではないし、兄が警察官として働き始めた頃はご近所であったノイエス家が頼みの綱であった故にどんな人かはロイドも熟知している。だが実際交際を始めたと聞いた時はモヤモヤしたものだし、今でもよく分からない感情に苛まれる事も多い。それによく知る仲とは言えど弟が同じ家にいるのもどうかと冷静に思ったのだ。
「そう言うわけなんだけどランディ、警察学校に入るまでの間でいいから置いてくれないか?」
だからと言ってどうしてそうなる、というのが前述の事を聞いたランディの感想であった。彼もノイエス家は兎も角、ガイとは知らない仲ではない。ロイドが小学生の時から付き合いのある三つ上の兄貴分で親友でもあり相棒でもある。元々施設育ちだった彼を就職と共に連れ出した事も知っていたし、その後もバニングス兄弟との交流も途絶えてはいない。だがそれは少し困るのも本音だ。理由は二つある。一つは自分がロイドにランディが片想いしている事。自分もまだ若い盛りなので何か過ちがあったら迷い無く死ねる。というかその場で自殺しようとする自信が彼にはあった。出来れば自分の理性の為にもやめて欲しい。そしてもう一つの理由は、とある部屋に保管してあるDVDとBlu-rayディスクの事である。出来ればその趣味だけは知られたくないし、勧めたくともお勧めし辛いものである。――ランディ改め、ランドルフ・オルランド。二十一歳にして駆け出しのスーパー戦隊オタクである。
元々は暇潰しになりそうなものをレンタルショップで探していた所に見付けた代物だった。CMなしの二十四分を五十話近く。早々に飽きるか最後まで見るかの二択だろうと思っていたのだが、それが甘かったのだと気付くのは全話見終わった後だった。ヒーロー達 の事もそうであるが、ヴィランも中々魅力的――というよりも女幹部という存在にランディは気付けば惹かれてしまっていたのだ。これは、食い入るように二千年から現在までの戦隊を観賞する事になり、一度見ただけでは足りないからと自身でDVDやらBlu-rayを買い揃えてしまう程だった。そうしてランディはスーパー戦隊オタクへと成長してしまったのである。
「もしかして、彼女がいて都合が悪いとかか?」
「お前、俺がモテないの知ってて言ってるだろ?」
お前が本命だとは言えなかった。そんな勇気は備わっていなかった。勇気は魔法の筈なんだが。そうこうしているうちにランディの様子に首を傾げるロイドが可愛らしくて、次の瞬間には了承の返事を出していたのだった。
ロイドにもまた、ランディに言えない秘密があった。物心ついた時から共にあったそれを手放す事など出来ず、また自身の夢でもあった。唯一の家族である兄にしか理由を言った事が無いのだが、ロイドは警察官を目指していた。
「けいさつかんになって、じーすりーになる!」
これが幼い頃にロイドが言い放った言葉である。その時兄も流石に夢を壊す選択肢を取れるはずもなくその場を濁したが、現実に存在しないと理解した歳を過ぎてもその理由を変えた事などついぞ無かった。ロイド・バニングス、十八歳。実は隠れた仮面ライダーオタクである。高校に入ってからバイトも始めて給金は全てDVDとBlu-rayディスクの購入にあて、ふと気付いたら何か一シリーズを休日丸々使って観る程だった。隠しているつもりもないのだが、相手が不快であるならば抑えようともロイドは思っていた。だが、思わぬところで事件というのは起きるもので。
「「あ」」
居候の関係が出来上がって三ヶ月後。ランディの右手には拳法使い手達のいる戦隊のDVDが、ロイドの手には二人で一人の仮面ライダーのDVDが。その日、二人が互いに知らなかった趣味が露天したのだった。
【この後二人が自分の推し作品を勧めあって観賞する話とかがある】