恋、だったのだろうか。俺たちの間にあったのは。
誰もいない店内にぽつりと落とされたネロの呟きは、窓の外の雨音に掻き消される。場所は何度か変えつつも、ネロは相変わらず雨の街で料理屋を営んでいた。
昨夜は久々に、閉店後にファウストが来て、カウンターで並んで酒を飲んだ。ファウストが持ってきたのはきちんと下処理された干し猪肉で、それを使ってネロが作った肴はワインに良く合い、二人して飲みすぎてしまった。その酒がまだ残っているのか、少しだけ頭が重い。恋がどうとか、柄にもなく感傷的なことをあれこれ考えてしまうのも、きっとそのせいだ。
ふたつ前の冬に、ファウストと別れた。
もう二度と親しく話すことは許されなくなるかもと思いきや、意外なことにファウストの態度はそれほど変わらなかった。
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