「ネロ、君はどんな本を読むの?」
(唐突だなあ。さては相当酔ってるな、先生)
「えぇ……?どうしたの先生、急にさ」
「いや、ネロはけっこう本を読むだろう。それでだよ」
小さなダイニングテーブルの向かいに座るファウストは、ほとんど水平に近い角度で頬杖をついてこちらを見つめている。いつもシャキッと伸びた背中は見る影もない。
(嵐に靡く南天の木みてえ。)
今日みたいに深い時間まで晩酌しないとお目にかかれない姿だけど、いまはそんな事よりも気になることがある。
「俺、ファウストにその話したっけ?」
たしかにネロは、時間が空いたときに本を読むのが好きだ。だが、そのことはほとんど誰にも話した記憶はない。
訝しむ気持ちが声に滲み過ぎないように、軽い調子で訊いてみると、ファウストはこともなげに答えた。
5449