サンタの秘密を知っているか「クリスマスはサンタが来るんだってチヒロが言ってんだけどな」
サンタなんて、どこで知ったんだか。
六平は口を右に左に器用に動かしながら呟いた。
町との交流はなく陸の孤島のような山で暮らす六平家には、新聞も届かない。テレビとラジオの機体はあるのだが、押入れの奥に仕舞われたまま、前に見かけた時は埃を被っていた。雑誌は俺が定期的に持ってくるが、それ以外の情報源は無に等しい。
チヒロ君に絵本を届けることがあるけれど、選ぶのは電車や動物の本ばかりだ。あとは武器の図録か。どんな幼児も抗えないというパンの絵本を持ってきたこともあるのだが、チヒロ君は一瞥すらしなかった。一瞬も興味を示さない。面白くなった俺はデカい声で音読した。「僕の顔をお食べよ!」。しかしそれでもチヒロ君は興味を示さず、動物図鑑を開いて虎の縞の数を一生懸命数えていた。チヒロ君、君はやっぱり六平の息子やな。センス悪いわ。
4940