風呂上がりおセンチ出勝漫画のプロット風呂上がり
「かっちゃんそこの服取ってー」
投げやりに渡される僕の服。乾燥機から出したばかりだからちょっと温かい。
「ナイッシュー」
服を着て、フェイスタオルで髪を拭いていると彼の背中が目に入った。
服を脱ぐなんて見慣れているはずだっていうのに、なんでかな、妙に目についた。
服をたくしあげて、ゆっくりと右肩をあげて、頭から服を取り去る姿。
僕には左肩を庇っているように、見えた。
「別に平気だわ」
「……なっ、なにが!?」
突然声をかけられて戸惑う。そんな僕をよそに、かっちゃんは思いっきり左手を天井に突き上げた。
「……あ」
かっちゃんは知っていた。僕の心の中に渦巻く罪悪感に。いや、罪悪感とは違うかもしれない。それは普通良い人が悪いことをしちゃった時に思うものだけれど、僕は良い奴ではないし、それに僕のは一方的で自己中な不満だ。
「……うん」
「……チッ」
綺麗な舌打ちが聞こえたかと思うと、瞬間体が前に引っ張られた。
破裂音が脱衣所に響き渡る。それは、僕の手が彼の晒された左肩に思いっきりぶつかった音だった。彼はがっしりと僕の右手を掴み、離す気配もない。痛がる様子もない。
それに唖然として、少しほっとした。
温かい。
慎重に手を広げて、傷跡を確かめる。少し凸凹していて厚みがある。僕が押しても平気なようだ。
「ほんとだね」
分かっている。かっちゃんは元気だし、今だって立派にヒーローしてる。
わかってはいるんだけど。
例えば、彼のあげた両手が不釣り合いだった時。
例えば、彼がお腹を押さえて蹲った時。
僕は一瞬で口の中が乾いて、酸素が上手く吸えなくなる。
自分はしょっちゅう人のために己が身を犠牲にするくせに、それがひとたび他人に、いや爆豪勝己がそうなったとすると、醜い感情が波のように押し寄せてくる。怒りが湧いてくる。そんな怪我を負わせてしまった自分にも、そんな怪我をのうのうと負った彼にも。
全ては後の祭りだ。起きてしまったことは取り消せない。だからこそ、僕はこの先一生引きずるのだろう。消えない傷跡を見る度に。
君の閃光が眩しい。君の姿はこの世界で1番輝いて見える。だから、余計目に付く。君から落ちる地面の影が、僕の前を黒く染める。
君は僕の憧憬だから、苦しい。
多分この息が吸えなくなるのは一生続くんだ。
覚悟はしてきた。
「うわっ!」
突然ぐいっと頭をかっちゃんの胸板に押し付けられた。首元をがっちりと掴まれて、耳と胸がぴったりとくっついている。
なんで、と首をあげようとして、止まった。
聞こえる。
「おい、分かるか」
分かる、聞こえる、君が、
君が生きている音が、する。
優しくて力強い、生の音だ。
きっと僕は一生この呪いから解かれることはないだろう。
ないだろうけど。
そうだ。君が懸命に勝って、勝って、勝ち続けてここにいる。全力で前だけ見て突っ走った君がふと振り返って僕を見た。
そしたら彼は地に足つけてざまぁみろって、大口開けて笑ってる。
太陽に照らされて逆光になったその顔は驚くほど満開の笑顔だった。
僕が侮辱していいわけが無い。
彼の人生の主役は、彼なのだから。
「俺は自分のしたいことしかしねえ。だから後悔もしたことねぇ。まだ満足したこたァねぇが、それでも俺の生きる道を全力で突っ走ってきた。その途中で出来たこれはひとつの俺が俺である証なんだよ。それに俺は、たとえ大っ嫌いなお前だろうが、助ける。なんだって俺は、なあ?」
聞いたこともないくらい優しい響きだった。僕はずっと君を見てきたっていうのに。でも、その問いの答えは分かる。僕はずっと君を見てきたから。
「うん、君は、ヒーローだから」
「ちげーよ、最高の、な」
「……ばか」
でも、確かに君は最高だ。
僕にとって、最高のヒーローだ。
ああ、このままずっと聞いていたい。トクトクと流れる血潮の音は、とても安心する。この心音が永遠に続きますように。