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    cantabile_mori

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    cantabile_mori

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    晴道3P冒頭

    愛に挟まれ包まれて 晴明が、二人いる。
     一体どうしてこんなことになったのか。道満は左右に佇む二人の最優の陰陽師を見比べるのをやめられず、思わず目を見張ってしまった。
    「これはこれは。いつかどこかで相見えた天文台には既に私がいたとはね。これは予想の外でした」
    「やあ、晴明(わたし)。召喚された気分はどうかな」
    「全身に錘をつけられているような感覚だね」
     なんとまあ、周りはこの事態に騒然としているのにも関わらず二人は呑気に話をしている。二つの『安倍晴明』という霊器が同時に存在することなどあり得ないのだ。けれども、こうして道満の目の前には瓜二つの、いや全く同じ顔、同じ格好、同じ話し方をする男がいる。
     すなわち。
     レベル120の、はじめからカルデアにいた安倍晴明と。
     レベル1の、今召喚されたばかりの安倍晴明。
     おなじだけどもちがう、安倍晴明たちがこちらに──いまだに信じられないといった顔をしたままの、蘆屋道満の方に振り返った。
    「面白いことを思いつきました」
    「ええ、奇遇ですね。さすが晴明(わたし)です」
     まずいことになった、と道満の米神に何か生暖かいものが垂れていく。こういうときの晴明は厄介なことこの上ないのだ。
    「拙僧はこれから童子らとお茶会がございますれば」
     こうなったらすぐに退散すべし、と召喚室の扉へ向かおうと足を進めると、その足が意思に反して止まってしまう。下を見れば足に何かが張り付いている。五芒星の符だ。
     ああ、逃げられない。
     道満は一際大きなため息を吐いて、ゆっくりと己の恋仲たち(・・・・)を振り返ったのだった。


    愛に挟まれ包まれて



     万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチは人差し指を立てる。
    「二人目の安倍晴明が召喚された、ねぇ。実はカルデアで同じ現象が確認されたことがあってね、稀にカルデア召喚式では同じ霊器が召喚されることがあるんだ。その場合、先に召喚されて種火をくべられた練度の高い霊器に吸収という形で組み込んでもらうんだが、こんなにも霊器反応が強いのは初めてだよ」
     そこで、と言葉を区切ってこう言った。
    「蘆屋道満、君に一つ要請だ。新しく召喚された安倍晴明を君の部屋で大人しくさせておいてくれないかな。なあに、君と彼は良い仲なんだろう? カルデア中で有名なんだ、それくらい知っていて当然さ。そういうことで、よろしく頼むよ」
     ダ・ヴィンチ殿、と呼び止めようとしたが時すでに遅し、彼女(いや彼と言った方が正しいのだろうか)は道満たちを召喚室から追い出してしまった。本人は技術班と、これから既にカルデアに居た安倍晴明に霊器を吸収させるための術式を編み上げるらしい。召喚された二人目の安倍晴明の霊器がここまで確固たるものであるのは前代未聞らしく、一人目であり本人であるレベル120の安倍晴明も召喚室に残り術式開発に勤しむことになり、ぽつんと道満と二人目の晴明が廊下に残されてしまった。
     ちら、と横の晴明を見やる。
    「……ともかく。拙僧の自室へ案内しましょう」
     頭痛が痛いとはこのことか、と思いながら晴明を促すと、隣の晴明は目をぱちくりとさせてからにっこりと笑った。
    「おや、おまえの方から部屋に呼んでくれるとは。生きていた頃はあんなにも頑なに部屋に上げようとしなかったのに──随分と親しいのだね、こちらの晴明(わたし)と」
     その問いに道満は視線を逸らして「ささ、行きますぞ」と足を進めていく。
    (晴明であるのに、晴明でないようなこの感覚は、一体……?)
     だからなのか、この晴明には『晴明と己は恋仲である』ことを話したくはなかった。紛れもなくこの晴明は晴明であるのに関わらずだ。それはなぜか──晴明と道満は、このカルデアに召喚されてから心を交わしたためである。心だけではない、身体も重ねたのは記憶に新しい。記憶にきっかりと刻みつけられたといった方が正しいだろう。甘く、優しく、苛烈に、そして蹂躙されたのだ。その蹂躙をあまつさえ両手を広げて受け入れたのだから、想い合う恋仲になったことは真実であるため胸を張れば良い。だが、この『晴明』を前にすると目を泳がせてしまう。
     シュン、と音を立てて道満のマイルームの扉が開き、後ろの彼を招く。とはいっても道満の工房に足を踏み入れさせるのではなく、結界を張った工房の手前に出現させたスタンダードなマイルームに晴明を招き入れたので、大丈夫なのである。きっと。
     ええ、ここにいるのは召喚されたばかりの赤子の如き晴明であるからして、種火をくべられ鍛錬を重ねた拙僧に敵うわけがありませぬ。道満はそう思いながら、ゆっくりと後ろを振り返った。
    「それでは晴明殿。拙僧はこれにて。この部屋でお好きになさるがよろしい」
    「待ちなさい。せっかくだ、茶でも出して話の花を咲かせようじゃあないか」
    「いやですが。貴方にやる茶などございませぬ」
    「そんな寂しいことは言わないでおくれ、道満。あの晴明とは長いのかい? この私は初めておまえと再会したのだから少しくらいいいだろう」
     この晴明、やたらと絡んでくる。道満は眉を顰め、心の底から不機嫌の感情の塊を取り出すように言った。
    「なんなのですか。晴明殿らしくありませぬぞ」
     安倍晴明という男は個に執着せず、涼やかな顔で全を見据える。なので道満の問いはもっともな疑問であるのだが晴明はスゥ、と目を細めて見せ、その空気さたるやカルデアの外気温並みに冷たいものだった。
    「その『晴明殿』はどの晴明に対して言っているのかな? 私? それとも」
     身長差を詰めて、この視線から逃れさせやしないといった眼光で道満を刺す。
    「──晴明(わたし)?」
     つまり、この晴明──レベル1の晴明は。カルデアにすでに召喚されていたレベル120の、道満と契りを交わしている晴明に妬いているのだ。
     思わず道満の口の端が吊り上がる。
    「ンンン! もしや晴明殿ともあろうお方が嫉妬しておられると? 愉快なこともあるものですなぁ! 天の頂におわすものが水鏡に映った自分に刃を突き立てる様はなんとも面白きこと!」
     同じ顔をした同一人物の自分がいるという状況に追い込まれた一般的な人間が湧き上がらせる感情、つまりは嫉妬という感情をあの晴明が持ち合わせている事実に道満は笑いを堪えきれなかった。あの、誰にも届かぬ場所に居座り何人にも心を揺り動かすことのなかった晴明が嫉妬の矛先を向けたのは自分自身だったという滑稽さは、リンボの記録を有している道満にとって最大の餌になる。
     ああ、どのように下してやろうか。どのように喰ろうてやろうか。幸いカルデアからはこの無防備で圧倒的なレベル差のある晴明を任されている。ならば、何をしても構わないということだ。たとえカルデアで『安倍晴明』と恋仲であり愛を囁きあう間柄であったとしても、道満は道満である。いつだって術の研鑽は怠らないし、術比べでは本気で殺しにかかっている。そんな道満を暴れん坊の猫をあやすように退けられるからこそ恋人という立ち位置にいられるのだが、ここにいるのはそうではない『安倍晴明』だ。今度こそ、今度こそ晴明を下せるのだ。道満は声をあげて笑うのをぴたりと止めて、まるで長年世話をしていた花がようやく咲いたのを目にした時のような笑みを浮かべる。
    「……気が変わりました。やはり客人には茶と茶菓子を用意し歓迎するもの。かつては師であった晴明殿であるのは変わりはありませぬゆえ」
    「おまえの気分屋気質は変わっていないようで何よりだよ。ああ、そうだ。同じ屋根の下で暮らしていたときに拵えてくれた菓子の味が忘れられないんだ。あれをまた作ってくれはしないか」
    「ええ、よろしいですとも」
     道満はその場で霊体化し自身の工房へ移動する。平安の頃によく作っていた菓子というのは、最高級の蜂蜜をふんだんに使った唐菓子──ではなく、その紛い物のような水飴の菓子であったのだが、それを晴明は生前出されたときもなんともなしに口に入れていた記憶がある。だからわざわざその菓子を所望するのは目から鱗で、もしや本当は好物だったのだろうかと、思わず胸がきゅうと高鳴り手が止まった。
    (何をしているのだ儂は。この絶好の機会を逃すでない)
     手先が器用で、サーヴァントとなった道満に料理などは魔力を込めれば一瞬で作り上げてしまう。いくつか拵えて急須に茶っ葉を入れ熱湯を注ぎ、式神に持たせて再び晴明のいるマイルームに現れた。
    「ささ、どうぞお召し上がりを。茶葉は当時のものとは異なりますが、カルデアには良いものがたくさんございますゆえ、貴方の舌にも合うかと」


    つづく!
    このあとレベル1の赤ちゃん晴明さんに押し倒されてレベル120晴明さんも参戦しイチャラブします!
    応援してくれたら嬉しいです😂
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