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    cantabile_mori

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    cantabile_mori

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    1月28日プチ無配
    牧台・葬台

    お料理だよ!全員集合!「料理してお腹いっぱい食べないと出られない部屋⁉︎」
    「な、なんだってぇ──!?」
     二人のヴァッシュは一斉に叫んだ。
     目を覚ませば、この真白い見覚えのある部屋に居たのだが──実を言うとこれが初めてではない。何度かこの摩訶不思議な部屋にいつの間にか居たという経験がある。
     二人のヴァッシュは額を集めて視線を交わし、後ろの黒服二人に向けて二対の目を向けた。
    「なんやけったいな部屋やな。またこのメンツか」
    「……別次元のワイとトンガリ、やな。なんでまたこいつらと」
     黒服二人、一人は黒ジャケットに白いシャツ、そのシャツは前が開け放たれていて見事な胸筋が見える。ガタイがいいというのはこういうことを言うのだ。もう一人は同じ身長だがグレーのシャツでしかもなんだか小さく見える。まだまだ青臭い男の子にも見え、しかしそれを言ってしまえばキャンキャンと吠えてくるだろう。二人の共通点はどでかい十字架を模した銃火器を背に持っているというところだ。
    「ウルフウッドたちも来てるんだ。俺のウルフウッド、とりあえず理解はできた?」
    「『俺のウルフウッド』ときたか。ご褒美のチューあげたるわ」
     やーん、とバカップル空気を全開にしている先輩たちを尻目に、フンワリした金髪のヴァッシュが葬儀屋のウルフウッドに駆け寄る。
    「僕たちもちゅー、する?」
    「するわけないやろボケ! さっさと料理して出るでこないな部屋!」 
     しゅん、としてしまうフンワリヴァッシュを見て、ウルフウッドから顔中に熱いキスをされていた先輩トンガリのヴァッシュがびしっと葬儀屋に指をさした。
    「そこは甘えてくる恋人にチューするところだよ! ウルフウッドちょっとこの子になにかズバッと言いなよ!」
    「せやなぁ、とりあえず今すぐフンワリにチューしたったら料理対決で手抜いたる」
     一体どういうことなのだ。それも料理対決? よくわからないが馬鹿にされていることだけは葬儀屋にはわかった。
    「うっさいわおっさん! 勝負するなら手抜くとかそないなハンデつけさせへんで!」
    「ほなはよチューせな。ワイがフンワリにチューしてまうで?」
    「なっ……」
     なんと先輩スパダリウルフウッドが徐にフンワリヴァッシュの肩を掻き抱き、右にトンガリ、左にフンワリという両手に花の姿を見せつけた。
    「あっ……先輩の、ウルフウッド……」
     なぜか頬を赤らめているフンワリに葬儀屋が憤った。
    「なにきゅんとしとんねん! おどれにはこの料理対決に勝ったら身体中にちゅーしたるからこっち来い!」
    「ほお、大きく出たな」
     身体中に……と口の中で呟いてさらに顔を赤くしたフンワリの手を引いて己の腕の中に抱きとめる葬儀屋。
    「身体中ってほんと?」
    「ワイは嘘吐かん、その代わり絶対勝つで、この勝負!」
     トンガリのヴァッシュは自分の恋人であるウルフウッドの胸に可愛らしく擦り寄りながら言った。
    「じゃあ俺はウルフウッドになーんでも好きなことしてあげるってのはどう? やる気出た?」
    「なんでもか。二言はないな?」
    「もっちろん!」
     かくして、先輩たちと後輩たちによる料理対決が始まった。

        ✧

    「んで、俺たちは何作るんだ?」
    「それ言うたらガキらにネタバラシしてまうやろ。こっち来て耳貸せ」
     と言って牧師のウルフウッドはとある料理名を言い、おまけにフゥッとトンガリのヴァッシュの耳元に甘い息を吹きかけた。
    「っ……! やめろよっ今料理中だから!」
    「減るもんやないしええやろ、ワイのトンガリさん?」
    「〜〜ッ!」
     耳元を赤くしてぷりぷり怒りながら料理の準備をするヴァッシュに、ウルフウッドは笑みを浮かべながら目の前の机に並べられた野菜たちからいくつかをピックアップする。
     この部屋にはどんな材料もあるようで、机の上にはたくさんの種類の野菜や肉、カセットコンロやらエプロンやらもあった。これは腕が鳴るでとウルフウッドがほくそ笑む。
    「とりあえず玉葱切っとくから合挽肉と卵、トマト缶とバターとコンソメ確保しといてや。そんでボウルに肉入れて塩胡椒しとくんやで」
    「俺のやること多くないか?」
    「あとバジルと粉チーズも」
    「多いってば!」
     などと言い合いをしつつもヴァッシュは手際良く材料を手に取りボウルの中のものを捏ねていく。ザッザッと慣れた手つきでウルフウッドがみじん切りにした玉葱とニンニクを分け、玉葱をボウルに入れる。次にフライパンを熱して先ほど切ったニンニクとバターを炒めていく。
    「肉だねできたか? スプーンで丸めるように一口大にするんやで。そ、上手いやん」
    「伊達にずっとおまえと旅してないよ。こんなに材料なかったけど二人で料理とかよくしただろ」
    「まあな。こないに凝った料理作ってみたかったからええ機会やわ、美味いもん食っとるオドレも見れるし」
    「……ばか。ニンニク焦げそうだぞ」
     イチャイチャとしつつも、ウルフウッドはフライパンにボール状になった肉だねを入れて焼き、ヴァッシュに指示を出す。
    「こいつができる前にもう一つフライパン出してそん中にお湯沸かして、パスタ茹でといでや」
    「はいはい。パスタ役はいつも俺だなぁ」
    「ええ感じの硬さで茹でれるんはオドレの特技やで」
    「そんな特技よりマシなこと褒めろよな」
     あとでいっぱい褒めてやるからと言いながらウルフウッドはフライパンにトマト缶の中身を入れ、コンソメやら調味料を入れていく。
    「パスタ茹で上がったぞ。そっち入れるからな」
    「ええで」
     息のあったコンビネーションで二人は入れ替わり、ヴァッシュが水気をとったパスタをフライパンのソースと絡めていく。ウルフウッドがその間に大皿を一枚そばに用意し置いて、最後の味見をする。
    「どう? ウルフウッド」
    「ん。ちょいと塩やな」
    「わかった。じゃあ盛り付けるか」
     ヴァッシュはくるくる、と皿にパスタを巻きながら入れて、周りにソースとお肉を並べていく。ウルフウッドがよそい終わったパスタの上にバジルと粉チーズをごりごりとかけていくと。
    「よし、完成だ!」
    「ええのができたんとちゃう?」
     渾身の出来だった。ほかほかの出来立てパスタは見ているだけでお腹が空いてくるようだ。
     不意にトンガリのヴァッシュがあちらの方、後輩たちの方を見やる。
    「あっちはどうかな?」
     ドンガラガッシャン、と何やら盛大な音が聞こえてくる。これはもしかすると。
    「……先行き怪しいな」
     どうやら上手くいってはいないようで──。

        ✧

    「わわ──ッ!! だから砂蟲を入れようとしないでってば、ウルフウッド!」
    「ええやろ、ほれ」
    「ち、ちょっとむしった羽根入れないで羽根‼︎」
    「パリパリしててええ食感になるで」
    「砂蟲入れただけで台無しになっちゃうんだよ〜っ!」
     てんてこ舞いのようだった。
     なんと後輩のウルフウッド、葬儀屋は籠にぎっしり入っていた砂蟲──なぜこの料理してお腹いっぱい食べないと出られない部屋に砂蟲なんてものが用意してあるのかわからないが──を手でむんずと掴み、一つ噛みちぎったと思えばフライパンに麺を入れ焼きそばを作ろうとしていた後輩のヴァッシュ、フンワリを泣かせていた。
    「もうこの焼きそば、先輩たちに振る舞えないよ! 勝負にならないじゃないか」
    「年中いちゃついてそうな先輩らにはちょうどええんとちゃうか。それに砂蟲もええもんやで、栄養あるし」
    「そういう問題じゃないんだよっ! もう、ウルフウッドはあっち行ってて!」
     せっかく美味しく出来上がりそうだったのに、と大層ご立腹なフンワリに葬儀屋は小声で「す、すまん」と謝るがふんわりは聞き耳を持たない。これはどうしたものか。
    (挽回せな、あかんなぁ……あ、卵けっこうあるな)
     幸いカセットコンロは二つある。フンワリのヴァッシュにまた怒られないようにこっそりと卵と白出汁、そして砂糖を混ぜて四角いフライパンを手にとる。三分の一ほど卵液を流し込んで焼き、焼けたものを畳んで奥にやって空いたスペースにまた卵液を注ぎ込む。それを繰り返してふんわりとしたそれを手際良く作り上げた。
    「はぁ、なんとか炊き上がったご飯があったからおにぎりは作れたけど……これで勝てるのかな」
    「トンガリ、その」
    「……はぁ」
    「さっきは、すまんかった。その、これ作ったんやけど」
    「へ、それって……」
     ふわふわの黄色い卵。鼻をくすぐる出汁の香り。そして少し、焦げ目のついてしまっているフォルム。
    「だし巻き卵……!」
    「ワイ、孤児院でトマの世話とかしてて、余った卵を卵焼きにして食っててん。ちっこいガキたちに甘いの作ったったら喜んでくれたし、おどれもかなって……思うて」
     もじもじとする葬儀屋に、思わず抱きつくフンワリのヴァッシュ。そして嬉しそうにこう言った。
    「うん、僕甘いの好きだしすっごく嬉しいよ! ありがとう、これでなんとかなりそうだよ」
    「せやけど握り飯とだし巻き卵だけじゃ」
    「思いついたんだ。これに粗挽きソーセージも焼いて一緒に出せば……」
    「ええな、それ!」
     後輩の二人は顔を見合わせて、ニコッと笑った。
     どうやら絆は深まったようである。

        ✧

    「さぁて、君たちのご飯はどんなものかな? ハプニングがあったみたいだけど」
     ニコニコと自信ありげなトンガリヴァッシュと牧師ウルフウッドが席についている後輩たちの前にドンッ! と大皿を置いた。
    「わ、ミートボールパスタ! 美味しそう!」
    「ほぉ、なかなか美味そうやんけ。でもなんで二つ用意しなかったん?」
     葬儀屋がそう疑問を口にすると、わかってないねぇと言わんばかりにトンガリのヴァッシュが説明をする。
    「このミートボールパスタはだな、カップルが一つの皿をシェアすることによってより仲が深まるという逸話があってだね〜!」
    「まあ簡単に言ってまえば食われる前に食えってことや」
    「俺たちいつも競争しながら食べてたよな」
     つまりは自分たちの思い出の品というわけか、と後輩のヴァッシュとウルフウッドは思った。しかし見た目も十分美味しそうで、二人はついフォークを手に取りくるくるパスタを巻いていった。
    「あっウルフウッド、それ僕のだよ」
    「おどれこそそれワイのや、あっちいけ」
    「ちょっと僕のミートボール食べないでよ!」
    「自分いつも腹減ってない言う癖に食い意地あるな!」
    「だって美味しそうなんだもん!」
     いやぁ見事に喧嘩してるねぇと嬉しそうな先輩のヴァッシュの口元にはミートソース──つまりはつまみ食いをしたあとがあって。
    「悪い子にはこうや」
     と、トンガリのヴァッシュの口元をぺろりと舐めたかと思えば、そのまま唇にディープキスを仕掛けた。
    「〜〜っっ! ん、んぅ〜〜っ!! っ、ばかやめろよ!」
    「後輩たちが美味そうに食っとるの見てたら腹減ってな」
    「俺の唇は食べ物じゃない!」
     やいのやいのとやっている先輩たち二人の前に、フンワリのヴァッシュが二つの皿を出す。
    「お腹減ってるんなら僕たちの作ったのも食べてほしいな」
    「砂蟲入りなんやろ、どれ……お?」
     牧師のウルフウッドの目に入ったのは、山盛りのおにぎりとソーセージ、そしてだし巻き卵であった。
    「わぁっ! 夜更かしご飯セットだよ、ウルフウッド!」
    「この卵焼き美味いなこれ。フンワリが作ったんか?」
    「ワイやで」
     牧師が指摘すると葬儀屋がもぐもぐと最後のミートボールを食べながら言った。
    「ウルフウッドがね、僕のためにがんばって作ってくれたんだ。すごく美味しいだろ」
     と、ニコニコと笑みを浮かべながらフンワリのヴァッシュが隣の葬儀屋を見ながら言う。葬儀屋はというと、なんだか恥ずかしげに耳を赤くしながらそっぽを向いていた。
     ははぁ、これはハプニングがありつつも仲が深まってしまったというパターンだな。
     トンガリがそんなことを思っていると、隣に座りもぐもぐと口を動かしながら牧師のウルフウッドが「ほれキース、キース」と音頭をとっていた。
    「キッキスなんてするかあほ!」
    「僕は別にいいのに」
     さらりとフンワリに言われてしまい、今度こそ葬儀屋の顔が真っ赤な茹蛸のようになる。
    「おどれっ……! お、覚えとれよ、後で!」
     先輩のヴァッシュは「フゥン」と言って降参するように両手を挙げた。
    「負けたよ、君たち二人の胸キュン青春ご飯には!」
    「食べんくてもお腹いっぱいやわ」
     お腹いっぱい食べないとだよ、とフンワリに牧師が言われてしまい、それもそうやなと大きなおにぎりを頬張ってからだし巻き卵を口に入れる。なるほどこれは夜に食べたくなる味だ。最初はどうなることかと思ったが後輩の二人も息がぴったりのようである。
     先輩の二人は「ごちそうさまでした」と言いつつ目を合わせ頷いた。
    (これは後輩の僕らもこれからなんとかなっていきそうだな、ウルフウッド)
    (せやな、ワイらの出番はここまでや)
     なんでもしてあげる約束はまた今度、とウィンクするトンガリに、牧師がその額にデコピンをした。
     四人して完食し、ガチャリと扉の方で音がする。ご飯に夢中になっていたが、そういえばここは『出られない部屋』なのだった。
     背伸びしてトンガリのヴァッシュが立ち上がって、お腹いっぱいになった腹をさする。
    「よし、ミッションはクリアしたようだし各々の世界に帰ろうか」
    「待って、先輩の僕!」
     扉に向かおうとしたトンガリのヴァッシュの手首を取り、フンワリのヴァッシュが引き留めた。
    「その。ミートボールパスタの作り方、教えてほしくて。また会えないかな」
    「……味ではそっちのが勝ちやと思うとるから、また勝負せなワイの腹の虫がおさまらへんわ」
     そう葬儀屋にも言われてしまい。
     トンガリが牧師と目を見合わせる。
     この先また四人で出会えるかはわからない。だけど、またこうして腹を減らしておけばこの部屋が現れるかもしれない。いやきっとそうだろう。
     後輩の二人が手を取り合ってこの先の旅をともにしていく未来がある限り、先輩の出番はあるのだから。
     にこ、と微笑んでトンガリのヴァッシュが手を振った。
    「君たちにいっぱいの幸せがありますように!」
    「祈っとくわ、特にフンワリはもっと食うんやぞ」
     今度会ったら山盛りパスタ五人前食えよと先輩のウルフウッドに言われてしまい、フンワリのヴァッシュはあはは、と照れ笑いをした。
     背中越しに手を振られて、先輩の二人は扉の先に行ってしまった。
    「ワイらに構わずいちゃつきおって。次の勝負は絶対勝ったるで」
    「うん、ウルフウッド。あ、あのね」
    「なんや」
     残された後輩のヴァッシュは言いづらそうにしている。もぞもぞとしてからウルフウッドに視線を向けて、まだ言い出せずにいたら。
    「だし巻き卵やろ。今作ったるから待っとれ」
    「……! うんっ!」
     今日一番、嬉しそうな顔をして席につくヴァッシュを見て、葬儀屋は思った。
    (目で見ればわかるってこういうことなんやな)
     初めて会った時に言われた言葉を思い出しながら、ちょっと顔が熱くなるのを自覚して卵をいくつか割る──すると。
    「ああぁっ!! 殻入ってもうた!!」
     くすり、とヴァッシュが笑んだ。

     もっともっとお腹いっぱいになれそうだ。
     だって、君がいっぱい作ってくれるだろ?
    「ね、先輩」

     扉の先から、「たくさん食べろよ、後輩くん!」という声が聞こえた気がした。

     



     
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