Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    cantabile_mori

    @cantabile_mori

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 31

    cantabile_mori

    ☆quiet follow

    晴道新刊 人妻ハピエン

    ワンモアトゥルーラブ進捗③カレーライスのその味は


     晴明と道満は良き隣人関係を続けられていた。
     毎日夕方あたりになると道満は晴明の部屋を訪ね、作りすぎたご飯のお裾分けを渡していた。昨日は夏にぴったりな夏野菜の炒め物で、これも大層うまかった。晴明はというと、道満から教えてもらったゴミ出しの日を間違えずにゴミを出せたり、部屋にこもって株の操作をしたりちょっとした探偵のような仕事を受け持ったりしていた。タワーマンション時代と変わらない生活であったが、この安アパートに引っ越してからバランスの良い食生活を送れていることは変わった点であった。
     だがしかし、当初の目的である『道満にちょっかいを出す』ことについては何も進捗がなかった。旦那が帰ってこない本当の理由を話そうか、道満の部屋に式神を入り込ませてびっくりさせようか、などえげつないものから些細なものまで考えついたが、どうにも気が進まなかった。
    (ふむ、なぜなのだろうか。この私が食指が動かないなどと……)
     春に引っ越してきて以来、ずっとこの調子である。まるで五月病が長引いてしまっているようだった。
     まあ、別に道満に悪戯をせずともこうして有意義な毎日が送れているのだ、タワーマンションを移り住んでいた荒んだ日々と比べれば薔薇色といっても過言でもない日々なのだから。隣に道満がいる、いつでも声が聞ける、美味しい手料理も持ってきてくれる。それで十分ではないか。
    (十分のはずだ)
     晴明はパソコンの前で手慰みをして、それからデスクにあったビール缶を煽る。安倍晴明という男は、好きな時に食べ、好きな時に飲む男だった。よってこんな朝っぱらからお酒を飲むことなど日常茶飯事であるし、夜には必ず月見酒をしている。これは平安の世から変わっていない晴明の癖であった。
     晴明は酒には酔わない。厳密に言えば気持ちがふわっとするくらいの酔い方はするが泥酔などしたことがない。ほとんどざるのようなものだ。生前、道満が弟子であった頃などよく酒の席に誘ったことがあったが、自身が僧であることを理由に何度も断られていた。しかし、月がよく見えて占いなどを織り交ぜて誘ってみれば縁側に座ってお酌をしてくれたことがしばしばあったのを覚えている。月の見えない夜も、きらきらと輝く星々の下で語らったこともあった。
    (ああ、何を語らったのであったか。もう思い出せない。ただひとつ思い出せるのは──)
     月明かりに照らされた道満の髪が、綺麗だったことだった。
     はぁ、と晴明は床の畳に寝っ転がった。好きな時に仕事をしているものだから、こうして自堕落に生活していても誰も咎めない。こうして千年前の出来事を思い出してセンチメンタルな気持ちになろうとも、誰も知らないことなのだ。それこそ記憶のない道満には言えないことだ。千年前、おまえと私は陰陽師で術比べをしたり酒を飲んだり、殺し合った仲なのだということなどは。
    (あの時、道満の髪を撫でてやったらどんな反応をしたのだろうか)
     怒っただろうか。嘆息しただろうか。嫌がっただろうか。それとも──
     と、その時。聴き慣れたインターフォンの音が晴明の耳に届いた。
    (宅配も頼んでいないし、道満だろうか。だがお裾分けの時間には早すぎるが)
     晴明はよっこらせと爺くさく立ち上がり(千年も生きているから大変な爺であるので当然かもしれない)、扉を開ける。するとそこには道満がいて、何も手にしておらず手を後ろ手にしてもじもじとしていたのだった。
    「道満? こんな朝からどうしたのです」
    「おはようございまする、晴明殿。そのぅ、少しお尋ねしたいことがございまして……」
     そこで、ちらり、と道満が晴明の部屋の中を何となく覗いた瞬間。
    「……な、なんと汚い! どうされたのですか晴明殿!」
    「へ? 何がかな? 服は洗濯しているけれども」
    「そうではなく! 部屋の中でございまする! これではゴミ屋敷ですよ!」
     何を隠そう、晴明の部屋は空のペットボトルやビール缶、さまざまなお酒の瓶やら服の山で溢れていたのだった。おまけにキッチンはカップ麺の空だらけ。いくら道満が夕食にお裾分けをしているとはいっても朝と昼はカップ麺生活だったのだ。
    「いやあ、最近ゴミを出すのが億劫になってきてね。ほら、暑いだろう、外」
    「それはわかりますけれども、そうは言ってもお掃除はしなくてはいけませぬ! 少し待っていてくだされ」
     そう言って道満は隣の部屋に戻り、五分ほどたつと先程の格好とは異なった、いわゆるお掃除モードといったような格好になっており、両手にはゴミ袋やスポンジ、洗剤などが入った籠を携えていた。
    「勝手ながらお邪魔させていただきますよ!」
    「あっ、道満、こらこら」
     ずんずん部屋の中へと侵入を果たす道満。実は晴明の部屋には結界が張ってあったのだが、それを物ともせず入ってしまった。はて道満には記憶がないはず、と晴明が目をぱちくりとさせている間に、道満はゴミ袋を広げて瓶や缶、ペットボトルや他のゴミなどを分けていく。そして後ろを振り向いてこう言い放った。
    「晴明殿! 本日は掃除の日に決定でございますよ!」
     晴明の脳裏に古い記憶が蘇る。
    『晴明殿! 本日は掃除をしてから術比べでございますよ!』
     平安の世の頃の道満と、現実の道満の姿が重なる。
     格好は違えど、記憶がなかろうと、それは道満だったのだ。
    「晴明殿? 聞いておられるのですか?」
     ぼうっと玄関で道満を見ていた晴明は、道満の声かけにようやっと意識を現実に戻すことができて、「ああ、掃除だね。やろうとも」と言って自らも掃除に参加しだしたのであった。


        ✧


     気づいた時には太陽が天辺にあった。
     晴明と道満、二人で夢中になって掃除をして、目に見える掃除だけではなく布団のシーツの替えや洗濯物、風呂場のカビ取りなどを精力的にやった。それも主に掃除に力を入れていたのは晴明ではなく道満の方で、張り切っている割には楽しそうにやっていた。そうしてピカピカになった晴明の部屋で、二人は氷の入った水で乾杯をする。何せこの部屋には飲み物といえば酒しかないのだから、晴明は洒落の効いた飲み物など持ち合わせていなかったのだ。それでも道満は笑って受け取ってくれた。
    「ぷはぁ。やはり掃除の後の冷たいものは身体に効きますな」
    「水しかなくてすまないね。そう言ってくれて少し安心したよ。ここには酒しかないから」
    「晴明殿は酒豪でいらっしゃるのですね」
     まあそうとも言える、と晴明が答えると、道満はなぜか少し顔を曇らせた。
    「酒癖が、悪いとか?」
    「いや? 私はざるに近い体質でね、悪酔いなど一度もしたことがない。二日酔いも経験したことがなくてね、世の酒癖の悪い人々の気持ちはわからないのです」
    「……左様でしたか」
     それだけ言って、道満は黙りこくる。
     道満の首筋には汗が流れていて、美しい白黒の髪が濡れた肌にひっついている。ふぅ、と道満が編み上げた髪の毛の束を後ろにやる仕草に視線を奪われて、パタパタとTシャツの胸元を手で風を入れている動作にも目を見張る。汗で濡れた前髪を耳にかける指先の美しさに見惚れて、ふと──道満は晴明の視線に気づき、ほんの少し頬を赤らめて俯いた。
    「晴明殿、その、聞いて欲しいことがございまする」
    「……何かな、道満」
     決して邪な考えを持っていたわけではない、というような表情を顔に貼り付けて晴明はそう答える。
     道満はひとつ息を吸ってから、まるで一世一代の告白をするかのように喋り始めた。
    「ご存知でしょうが、拙僧は既婚者です。旦那がおりまする。ですが結婚してからというものの、拙僧の夫は数日を除いてただの一度も我が家に帰ってきておらぬのです。スマホでやり取りはしておりますが、それも細々としたもの。今日は帰ってきていただけますか、その一文を打つのにも大層な勇気が必要なのです。なのに帰ってくる返事は、出張先の仕事が忙しくて帰れない、それだけ」
     晴明は道満の言葉を静かに聞く。
    「拙僧、わかっておりました。この結婚には幸せな家庭を作れるきっかけがないのだと。それでも拙僧、毎日夫の分の食事も作って参りました」
     俯かせていた顔をあげて、晴明の方を向く道満。その顔は曇ったものではなく心の底から嬉しそうな顔だった。
    「ですが晴明殿にお裾分けをし始めてから、毎日が楽しいものになりました。毎朝起床したら今日は何を作ろうかとか、そんなことを考えるのが楽しくて楽しくて。いつの間にか夫のためではなく晴明殿のために夕食を作ることが目的になってしまって、拙僧は……」
     再び表情が暗くなってしまった道満に、晴明は何も言葉をかけることができない。部屋に沈黙が重くのしかかる。だが、何か言わないといけない気がした。
     でも、こんなことしか言えなかった。
    「おまえのご飯は、いつもうまいですよ」
     晴明の明晰な頭脳は、それだけしか言葉を排出できなかった。それでもその拙い慰めの言葉が道満の顔を明るくさせるには十分だったようで。
    「……ありがとうございます、晴明殿」
     にこり、と眉を下げて道満は笑った。
    「拙僧、今まで料理をしてきて良かったと思いまする。ええ、本心から」
    「そうか」
     晴明は道満のその笑顔につられたのか、ほんの少し微笑を浮かべた。
    「……そうそう、晴明殿。拙僧、晴明殿の部屋を訪ねたのには用件がございまして。本当は掃除に来たわけではなかったのですよ?」
    「はは、すべては私が部屋を汚くしていたからだからね」
     晴明は腕を組んで、氷の入った水を飲み、ガリガリと氷を口の中で砕いた。
    「それで用件とは?」
    「言いづらいのですが、拙僧は和食しか作ったことがなくて。これを機に洋食にも手を出してみようと思いまして、晴明殿は何かリクエストなどございますか?」
    「つまり洋食の献立を考えて欲しいと?」
    「ええ、左様でございまする」
     洋食か、と晴明は考え込む。そういえばあまり食べたことがなかった。カップ麺で好きなのはあっさり塩味だし、あまり濃い味は好まない。そう言った意味で薄味で和食をよく作る道満の味は好ましくて、その道満からの要求だ。どうしたものかと思っていると、ふとネットサーフィンをしていた際に見た食事が口をついて出てきた。
    「カレーライス……カレーライスはどうでしょう」
     ほう、といった様子で道満は顎に手を当てる。
    「カレーライス。確かに洋食といえば、といった食事ですね。茶色くてトロッとしたルーにお肉と野菜、そしてほかほかのご飯……!」
     名案です、と道満はきらきらとした目で立ち上がった。
    「ええ、それにしましょう! 早速買い出しに行かねば!」
     そう言って道満はご馳走様でしたとコップをキッチンで洗い、自らが持ってきた掃除用具をまとめて「では!」と大きな声で出て行ってしまった。
     晴明はというと、はたまた目をぱちくりとさせていた。既視感のある出ていき方だった。
    「道満はいつもそうと決めれば即行動、というスタンスだったなァ」
     自分もコップをキッチンで洗い、デスクの椅子に座ってふぅ、と溜息を吐く。なかなかのハードな掃除だったから少し疲れた。
     それにしても道満から自身に置かれた境遇を話してくるとは思っていなかった。生前の道満ならば自分の弱みというべき状況を話そうとしなかっただろう。これも記憶のない有無による違いなのか、それとも──いや、何を考えていたのだろうか、自分は。晴明は頭を振る。
    (カレーライスか。楽しみにしておこうか)
     晴明は自分でも気づかないうちに口元に笑みを浮かべていた。
     そうして晴明は今日の仕事の依頼を片付けるべくパソコンに向かったのであった。


        ✧


     はたと、目が覚めた。
     いつの間にやらデスクに座りながら寝ていたようだった。晴明は本来は眠りを必要としない体質ではあったのだが、現世に降り立つ上で人間らしく生きたいと思い睡眠の機能を取り付けたのだった。ふとパソコンの時計を見ると、四時になっていた。
    (まだ道満がお裾分けにくるいつもの時間帯まで少し時間があるし、コンビニでも行きましょうか)
     そう思って晴明はよいしょっと声かけをして立ち上がり、寝汗でひどくなったTシャツを新しいものに着替えて外に出る。むわりとした熱気が晴明を襲った。これはものすごい猛暑である。晴明の部屋にはテレビがないから天気予報はスマホで確認をしている。が、スマホの表示よりも気温が二、三度上なのではないかと思うくらいの暑さだった。
     コンビニに入り、そういえばさっき掃除を手伝ってくれた道満に氷水というちゃんとした飲み物ではないものを渡してしまったのを思い出し、麦茶の大きなペットボトルを籠に入れる。そしていつも口を酸っぱくして言われる、朝ごはんはしっかり食べてくださいという道満の言葉も脳内に浮かび、いくらかパンやらバナナなどを籠に放り込んだ。
     ありがとうございました、という店員の声を背中に受けて、晴明はまた猛暑の道を歩く。必然的に晴明の衣類も汗だくになっていって、これでは新しいTシャツに替えた意味がなかったかな、と思いながら帰り道をゆく。
     先程の道満の告白を思い出す。すべて晴明が調べ上げていた情報ばかりであったが、道満にとっては一世一代の告白だっただろう。他人に、それも春に引っ越してきたばかりの隣人に話すなど。毎日お裾分けをする仲とはいえ他人は他人。それなのに、道満は吐露してくれた。なぜだかわからないが、晴明の胸があったかくなる感じがして、ぎゅっとコンビニの袋を握りしめた。
     とん、とん、と安アパートの階段を上る。時間は四時半を過ぎた頃合いで、そろそろ道満が扉のインターフォンを鳴らしてくる時間だ。太陽はいつの間にか沈み始めていて夕焼け色が晴明を包んでいる。かちゃかちゃと鍵をドアノブに差し入れていると、隣の部屋の扉が開いて道満が鍋を持って現れた。
    「あ、晴明殿……!」
    「道満、さっきぶりですね。もしかしてその鍋にはカレーが?」
     そう晴明が少し声を昂らせて言うと、反対に道満は顔をしゅんとさせた。
    「その、そうなのですが……すみませぬ、また晴明殿の部屋に上がらせていただいてもよろしいですかな?」
    「もちろんいいとも」
     道満と共に部屋の扉をくぐる。しまった、エアコンをつけっぱなしにしておくのを忘れていた。道満が来るのであれば涼しい部屋にしておけば良かったと後悔先に立たず、むわりとした熱気が二人を迎えた。せめてと思って晴明は冷凍庫から氷を出して、先程買った麦茶をコップに注いで冷たい麦茶をデスクに置く。
    「さて、その暗い顔を見れば大体は想像がつくが、一応聞いておこうか。何があったのです?」
     道満はその美しい形の眉を下げて、鍋をコンロに置いて蓋を開けてこう言った。
    「晴明殿、すみませぬ。その、カレーだったのですが、あまり美味しくできず……」
    「いつもあんなに美味しくご飯を作ってくれるおまえがですか? にわかには信じられないのですが……どれ、味見してみましょう。それから対策を考えればいいのですから」
     晴明はスプーンを棚から取り出してカレールーをすくい、口に含んでみる。
     ふむ。これは完全に、美味しくない。
    「晴明殿……これはお裾分けするには値しないものでございまする。やはりこのまま帰らせていただいた方が……」
    「いや、その必要はないよ。この味になった理由がわかりました。おまえ、カレーライスを一度も食べたことがありませんね?」
     そう晴明に言われると、図星といった風に道満は目を見開いた。
    「はい……実は食べるのも作るのも初めてで」
    「やはりね。こういう場合はカレールーを足せばなんとかちゃんとした味になるだろう。道満、おまえの家にカレールーは残っていますか?」
    「は、はい!」
     そう言って道満は晴明の部屋を出ていき、また戻ってきてその手にはカレールーの箱が握られていた。
    「よし、そうだね……二個くらいルーの欠片を入れてしまおうか。それくらいなら濃くなり過ぎないだろう」
    「大丈夫でしょうか?」
    「大丈夫。私を信じて」
     晴明は道満の不安げな瞳を見つめて、それからカレールーをぽとりと鍋の中に入れた。お玉でゆっくりと掻き混ぜれば完成だ。
     晴明は道満に自分のスプーンを差し出そうとして、いけないと思い止まった。いわゆる間接キスというやつになってしまうだろう。はて、なぜそんなことを考えなければいけないのだろうと晴明が思いながらスプーンを洗い、道満に差し出した。
    「ほら、試してみなさい。これならいいでしょう」
    「はい……、あっ」
     道満が口に含むと、まるで花が開いたかのように笑顔になって晴明に顔を向けた。眩しい笑顔だった。
    「美味しい、です……! すごいです、晴明殿!」
    「ははは、照れますね。いえ照れませんが」
    「どっちなのですか。ふふ、晴明殿は本当にすごいです」
    「どちらでもいいのさ。よければ道満、一緒にここでカレーライスを食べませんか?」
     その申し出に道満は嬉しそうに答えた。
    「はい、ぜひ!」
    「すまないが炊飯器がないものでね。パックご飯でいいかな?」
     問題ありませんよ、と道満から返答があったので、二つ分電子レンジにパックご飯を入れてチンをする。ご飯を皿に盛り付けて(晴明の家には揃いの皿などないのでちぐはぐな皿たちによそった)、カレールーを乗せていく。とてもいい香りがした。
     二人で床の畳に座り、いただきますと手を合わせてカレーライスを食べ始めた。
    (ほう。最初の出来栄えとはえらい違いだ。これはうまい)
     そう晴明が思って道満に目配せをすると、道満もまた美味しそうにカレーライスを口にすすめていた。
    「とっても美味しゅうございます! 先程とは違って薄くのっぺりとした味ではなくて、野菜の味もお肉の味も染みていて……これが本当のカレーライスなのですね!」
    「それは良かった。ふ、初めて二人で料理をしましたね」
    「あ、そうでしたね。なんだかそれって、……──」
     道満が言葉を途切れさせた。ちらりと晴明の方を見て、またカレーライスを口に含み出した。
     今のはなんだったのだろう。晴明は道満をじっと見つめた。
     美味しそうに口にスプーンを運ぶ道満。その姿は好物を前にした子どものようで、しかし道満は良き夫とはいえない男の妻で。窓から差し込む夕焼けに照らされる道満の髪や横顔に目を見張る。
     それはもう、衝動だった。
     はふはふ、と熱いルーを口に含もうとする道満の腕を掴んで、そのまま道満の唇に口付けた。
     からん、とスプーンが皿に落ちて、二人は夕焼けの中で重なる。
     どちらともなく唇を離して、至近距離で見つめ合う。晴明の心の内はもう、カレーライスよりも道満のことでいっぱいだった。
     せいめい、どの。
     その小さな、いたいけな言葉を皮切りに深いキスが始まる。どこかで麦茶に入れた氷が溶けてカランと音が聞こえてきた。晴明の背におずおずと腕が回されて、夕焼けの赤に染まった畳に道満の長い髪が流れる。

     初めてのキスは、カレーライスの味がした。




    <続く>


    いつもリツイートやいいね、スタンプなどで応援ありがとうございます!
    励みになります〜!!ついに寝取りまできました!!
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖🙏💖👏👏👏🙏🙏👍👍💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator