【修学旅行】 実りのある学生時代ではなかった。
生来内気な性格で、定められた枠をはみ出す勇気も、胸を張るほどの自我もなく。周囲の主張に押し負けへらへら過ごすだけの日々だ。
中学時代の交友の不和をきっかけに都内の高校へ進学を果たしたけれど、直面した現実、結論、僕はどこぞのヒーローにも物語の主人公にもなれやしない事実だけが重たくこの身にのし掛かった。
秋から冬へ。見事に色付いたモミジやイチョウの葉が立ち並ぶ境内で、独り、爽籟に浸る。
田舎に生まれ田舎で育った自分でも、二年東京で過ごせば知らぬ間に毒されているものらしい。都会にはない澄んだ空気が肺を駆け巡り、そして浸透していく度に、僕はまるで透明になっていくようだった。
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