待ち合わせ息が白い。
大丈夫だろうと高を括り、ちょっと薄着して出てしまったのが悪くて、思ったよりも寒かった。
早めに待ち合わせ場所に行かないと、彼は絶対に他の人のための目印になってしまうと思って、小走りで待ち合わせ場所に向かう。私と出掛ける約束なのに、他の人の約束のための待ち合わせ場所になるのはとても嫌だった。
幸運にも彼はまだ来ていなかったので、私はほっとしする。小走りが功を奏したのか、体からの熱でそこまで寒さを感じなかった。まあこれは短期のものなのでこの後すごく寒くなることはわかっているのだけれど。
「更科ちゃん」
上から声が降ってきた。見上げると、とっても暖かそうな待ち人が、私を見ていた。
「皇くん、こんにちは」
「こんにちは。その格好寒くない?」
正直寒い。寒いけど、人の防寒具を奪うような真似はしたくない。まぁ立場が逆だったら私の防寒具を渡そうとするんだけれど。
「まぁ、大丈夫ですよこのくらいなら」
冷たい風が顔を撫でていく。ふる、と体が震えた。せめてマフラーでも持ってきたらよかった。
「ね、更科ちゃん」
「?」
ふわりと、彼のコートが私に被さる。でも彼がコートを脱いだわけではなくて、自身のコートの前部分を開けて、私を中に招き入れてくれたようだ。そのままぎゅっと抱き締められる。とてもあったかくて、皇くんの、男の子の匂いがして、どぎまぎしてしまう。硬い胸板から聞こえる鼓動が、ちょっと早い気がしたけれど、私の心音の方が煩いと思った。
「どう?あったかい?」
にこにこの皇くんが私に訊ねてきて、顔の近さにまたどぎまぎしてしまって、
「ひゃい」
恥ずかしい。噛んじゃった。
「あは、かわいい。……それはよかった」
そう言って皇くんは私の頭を撫でた。最近皇くんは隙あらば私を抱き締めて「かわいい」と告げてくれる。嬉しい、けど、全然馴れないので、恥ずかしい。
今回も恥ずかしさやら照れやらで慌てそうになる自分を落ち着けるために深呼吸をしたけれど、皇くんの匂いを存分に吸う形になってしまって、安心すると同時に少しだけ悶々とする気持ちが湧いてしまって、それがすごく恥ずかしさを助長していて、ハグを終えた頃には、私はゆでダコみたいになっていた。
当分、この温もりと匂いを忘れられそうにない。