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    osushi___osushi

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    盧笙に寝かしつけられる不眠の簓の話 ささろ 後半はr18予定……

    #ささろ
    sasaro
    #簓盧

    未定「自分、寝てへんのんとちゃう?」
    「……へ?」

     普段ならぺろりと平らげる盧笙のお好みを残してしまったからだろうか、帰りがけメイクさんに塗ってもらったコンシーラーがはげてしまっているのだろうか、いつもより口数が少なかっただろうか。
     様々な可能性が脳裏をよぎる。簓はなんとかごまかせる方法がないかと頭をフル回転させた……が、すぐに諦めた。ここでどう言い逃れをしようが盧笙は聞く耳を持たないだろうし、そもそも最初から隠しおおせるものではなかったのだ。


     昔から、盧笙は簓の体調に目敏かった。誰にも言ったことのない偏頭痛も、ごく些細な風邪の引きはじめも、自覚すらしていない疲れや不調も、盧笙にだけは筒抜けだった。盧笙はそういうことに気がつくと、決まってギュウッと眉をしかめた。ひどく不機嫌そうなそれが怒っているのではなく心配してくれているのだと気がついたのは、あの雨の日の少し前のことだった。
     盧笙は「ええて、ほっといたら治るし」と言う簓を捕まえて、痛み止めを飲ませたり無理矢理抱えて病院へ駆け込んだり、「ちゃんと食べてよう寝ぇや」と何かしらをこしらえて食べさせ、布団に押し込んだりした。オカン顔負けの世話の焼き具合だった。そして元気になった簓を見て「えぇ大人やねんから体調管理くらいちゃんとせぇよ、ドアホ」と、やはりきつく眉を顰めた。それがホッとしていることを隠そうとしていたのだと気がついたのは、コンビを解散したあとだった。
     再会した今、簓はあの頃よりたしかに"いい大人"になっている。実際自分の体に関心が薄いのは変わっていないのだが、盧笙に成長していないと思われたくなかった。だから隠したかった。ここ最近続いている、慢性的な不眠を。そのせいで起きている体調の悪さを。なのに。


     盧笙の腕が伸びてきて、簓の顎を捕まえた。遠慮のない力で目の下をゴシゴシと拭われる。ペンだこのできた、乾燥した親指。

    「やっぱり、えらい隈やんけ。寝る暇ないほど忙しいん?」

     盧笙の言う通りだった。簓は寝る暇もないほど忙しかった。イケブクロからオオサカに帰ってきてこの方、ずっとそうだった。ロケ先からロケ先への移動時間に眠り、楽屋で食事をとり、家に帰ってネタを書く。そんな生活を続けるうちに、気がつくと簓はタクシーや新幹線やロケバスや飛行機のような、適度な雑音がないと眠れなくなっていた。妙な体質になってしまったものだと思う。なにせ静かな部屋でベッドに入っても、文字通り朝まで一睡もできないのだ。

    「ほな、俺んち来た時も起きてたん?」
    「んー、自分ちおる時よりは眠れたかなあ。盧笙のいびき、いい雑音になんねん」
    「雑音て……けど、今色々あるやん。睡眠導入音とか、BGMっぽいの。使えへんの?」
    「あれなぁ、全然あかんねん。なんやろ、自分でかけてるーいうだけで白けるいうか」
    「ほーん……難儀やな」

     目の下を擦っていた盧笙の指が、いつのまにか耳たぶをもにもにと弄っている。体温の高い盧笙の手はあたたかく心地いい。簓は無意識に、その手に顔を擦り寄せていた。猫なら喉が鳴っているだろう。人間でよかったと思う。

    「けど、最近とうとう移動中も寝られへんようなってきてなぁ……寝なあかん寝なあかんと思うほど冴えてまうねん。まいるわ、ほんま」
    「……赤ちゃんもな」
    「赤ちゃん?」

     盧笙の手が離れていく。名残惜しいような気がして、つい目で追ってしまう。赤ペンの跡がついた長いひとさし指。

    「赤ちゃんも、静かーにするより適度な雑音あったほうがよう寝るんやって。テレビの砂嵐とか、ドライヤーとか。胎内音と関係あるらしいわ。けどな、それより一番効果あんのがお母さんの心臓の音やねん。どんなぐずっても、胸のあたりで抱っこしてたらすぐコロリよ〜…て、最近育休から戻ってきた先生が言うてはった」

     言うだけ言った盧笙は突然、何かを決意したかのように立ち上がり、ソファにごろりと横になった。簓はそれを、ラグに座ったままポカンと見ている。何を言っているのかも、何をするつもりなのかもわからなかったのだ。肘掛けに頭を乗せ、収まりきらない長い足をまっすぐ伸ばし、やけに背もたれ側に寄って寝そべっている盧笙。右手はまっすぐ横に放り出されている。

    「ほれ」
    「……コント、寝かしつけ〜?」
    「ちゃうわ、はよ来んかい」
    「来んかいて……なに? なにが始まんの? 俺赤ちゃんちゃうで? まぁたしかに赤ちゃんくらいかいらしい自覚はあるし、お前も年々オカンみ増してるけどもやな……」
    「誰がオカンじゃ。もうえぇから、はよ」
    「えー、なんなんもう…」

     とりあえずゆらゆらと目の前で揺れる右手を握ってみると、そのまま勢いよく引き寄せられた。

    「うおっ」

     寝そべった盧笙の胸に、バフッと顔が埋まる。逃がさないとでもいうように、両腕がぎゅうぎゅうと締めつけてくる。その様、さながらヘッドロック。「く、くるしい」肩のあたりをタップするが、盧笙に離す気はないらしい。「なぁ、簓」低い声が、押しつけられた額に直接響く。

    「どうせ寝られへんなら、ダメ元で試してみてもえぇんちゃう? 自分、ほんまひどい顔してんで。心配やわ」

     いつもより甘い、ゆったりとした盧笙の声。それはまるで、子守唄のように聞こえた。
     簓はそれ以上の抵抗を諦め、ソファによじ登った。正しいやり場のわからない両手を腹のあたりで組んで、ぴったりと体を寄せる。盧笙がどんなに端に寄ったところで、二人がけのソファに男二人が転がれば当然狭い。しかし背中に強くまわされた腕のおかげで、落ちる心配はなさそうだった。
     硬い胸にぎゅっと耳を押しつける。どく、どく、どく。自分のそれより少し遅くて、大きな鼓動。盧笙の心臓が血液を送り出す音が、それが体中を流れる音が聞こえる。それだけが聞こえる。

    「……どや? 眠なってきたか?」
    「んん……けど俺、赤ちゃんちゃうし…」

     言いながらも、重くなった瞼が緞帳のように降りてくるのを感じた。うそやろ、こんなあっさり…そんな思考ごと、脳みそがどろどろと溶けていく。体が弛緩していく。あたたかな泥に、頭の先まで浸かっているような感覚がある。盧笙が言う。

    「おやすみ、ささら」

     おやすみ、盧笙。しかしそれは音にならなかった。そのとき簓はもう、深い眠りの底にいた。
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