The Odd Couple サンクレッドの知る限り、その日は何の祝祭でもなかった。サンクレッドをはじめとする、誰かの生誕日でもなかった。夕陽も夜景も美しくはなく、そもそも夕陽は疾うに沈んでおり、夜景は窓と壁の向こうで、あまつさえやや曇っていた。灯りと酒と食事はあったが、いずれも豪勢ではなかったし、場所はバルデシオン分館で、暁の皆で囲んでいた。しばらく前に世界が終焉から救われたというだけの、ただひたすらに、何処までも何もかも、普通の、ありふれた夜だった。
「サンクレッド」
「ん?」
「手、出せ」
だから、テーブルの向かいで自分と同じ酒の杯を持つ、この男の呼びかけに、躊躇う理由は特になかった。
「? ほら」
左の手を差し出す。右は杯で塞がっていたからだ。それ以外に理由はない。
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