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    し~ん

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    し~ん

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    ただの昔話よ

    ##オリジナル

    山間の大きな古屋敷。箱を四方八方に連ねて繋げた迷路のような家。邪神を封じるために作られたのだという。

    夏休みの恒例行事――古屋敷での肝試しは俗習の儀式めいていた。

    「夜遅くに声をかけられても、けして襖をあけてはいけないよ」

    私が田舎に訪れるたび、嫌というほど聞かされた話である。

    祖父母の大きな古屋敷は、からくり箱を四方八方に連ねて繋げた迷路のような家であった。
    古くは戦国初期、室町時代の高名な坊さんが、この土地を荒らしてまわる「くちなわ」を封じるため、ギリシャ神話の迷宮(ラビリンス)のように、延々と曲がったり伸びたりする、大きな屋敷を作らせた。

    この「くちなわ」は山の峰を二周分するほどの、巨大な頭腹尾をもっていて、這いずるたびに土砂が崩れては、大雨をふらせて川を反乱させたり、濁った水で田畑を押し流したり、近隣の村々を困らせていた。この噂を聞きつけた先の京師、京都に住まった坊さんが、ある外法を用いて封じられたのだという。

    この古屋敷に暮らす、地主の子孫には、ある昔話の掟が伝わっていた。

    決められた廊下順に歩かねば、古屋敷の奥に封じられた「くちなわ」の部屋には辿りつかない。
    それは、封じられた邪神もまた、同じように廊下を進まねば外界には出られない。
    「くちなわ」は出口を求めて屋敷を彷徨っている。とくに人気がなくなる夜更けすぎに。

    「だから声をかけられてもけして襖をあけてはいけないよ。頭から食べられてしまうからね」

    ――ということだった。
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