今し方帰宅したセッコは目の前の光景に混乱する、男所帯のこの家のソファーで寝ているこの女は誰だ?今は単独の仕事で出掛けているであろう、チョコラータの女だろうか?考えれば考える程分からない。
チョコラータに恋人と呼べる奴が居た覚えはないし、ましてや自分が不在の時に自宅へ置いておくだろうか、慎重なチョコラータに限ってそれは無いだろう。この家は元々チョコラータのものだが、住みはじめてからは一切そういった事はなかった。
じっと寝ている女を見る、チョコラータの髪と似ている緑色の髪、自分と同じくらいか少し歳上の様に見える女に少し興味がわいた。チョコラータの次の標的だろうか?そう考えると少し気の毒に思ったが、コイツが騙されたのが悪いと気にしない事にする。
薬でも盛られたのだろうか、無防備に寝ている女は一向に起きる気配はない。ソッと頭に手を伸ばす、起きるかと思ったが女は眉間に皺を寄せただけで起きる事はなかった。
そこであることに気付く、どこか似ている、いつも一緒にいるチョコラータにどことなくこの女が似ている。チョコラータも寝ている際にちょっかいをかけると眉間に皺を寄せる癖がある。よく考えると髪の色も似ていた、まさか…セッコにある考えが思い浮かび、慌てた様に声をかける。
「ちょ…チョコラータ!あ、アンタ、まさか、女になっちまったのか!?」
「何、言ってやがる」
突然のチョコラータの声に驚きながら、その声の方へと顔を向ける。そこにはブランケットを持ったチョコラータが呆れたように立っていた。
「うっ!?あ…あれ?チョコラータぁ?」
セッコの声には答えず、面倒臭そうに謎の女にバサリと持っていたブランケットを被せ、反対側のソファーにどかりと座る。
その顔は先程の女と同じように、眉間に皺を寄せていた。
セッコには分かる、めちゃくちゃ面倒臭い、のだ。
そういえば、単独の仕事はどうなったのだろうか?恐らく、チョコラータはこの女には触れて欲しくないように思い、そちらの疑問を投げ掛ける。
「なぁ、チョコラータ、あ、アンタ、し…仕事どうしたんだ?」
まさか仕事の事を、聞かれるとは思っていなかったようで、少し面食らったような顔をしたが、直ぐに元の顔に戻り、セッコに答える。
「今からだ…が、少し予定外の事があってな……すまねぇセッコ、少しの間コイツの事を頼んでもいいか?」
謎の女を指差し、深くため息をつくチョコラータに何も言えずにいると、ばつが悪そうにまたチョコラータが口を開く。
「…あー…コイツは私の妹だ……セッコ、後は帰ってから説明してやる」
「い、妹!?チョコラータ、妹、居たのかよ!」
まさかの正体に驚きつつ、なんとなく似ていた事に合点がいった。兄妹と聞くと、ますます似ているように思う。
「別に言う必要がなかったからな…起きたら私が帰って来るまで待ってるように言っといてくれ」
そう言いながら立ち上がり、出て行こうとするチョコラータを慌てて止める。
「お、おいっ!お、俺、全然、知らねぇんだぜ!?」
チョコラータはまた先程のような面倒臭そうな顔になる、そんな顔をされても、急に初対面の人間の事を任されても困る、それに❰女❱だ。
今までに関わってきた奴は母親か看護師、または殺す相手だ。いくら相棒の妹だとしても上手く会話出来るかも危うい。
「別に仲良くお喋りしてろって訳じゃあねぇ、ただ、私が帰ってくるまで、この部屋で待っていろとだけ伝えてくれ、後はほって置いてかまわねぇ」
慌てるセッコにそう言い、そのまま制止も聞かずに部屋を後にした。