いたずらじゃなくて…「あーおーい、トリックオアトリート?」
「ハッピーハロウィン、新。はい、どうぞ」
新の言葉に葵はにっこり笑って、ジャック・オー・ランタンやおばけのイラストがプリントされた小さな包みを手渡した。
「さすが葵くん、抜かりがないな。もしお菓子がなかったらいたずらできたのに」
「いたずらって、どんな?」
「お菓子がないならキスをちょうだい? って言って、葵にキスしてもらおうと思った」
自分の返した答えに、目の前の葵の表情が寂しげに曇ったのを新は見逃さなかった。思わぬ反応に、新の心臓がどくんと跳ねる。
「……葵?」
「……それは、新にとってはいたずら?」
「ん?」
「俺は、いたずらで新とキスはしたくない。ハロウィンの決まり文句だってわかってはいるけど……それでもやっぱり嫌だな」
静かに、けれど強い意思の込められた声で、真っ直ぐに自分の目を見つめながら言葉を紡ぐ葵。その澄んだ空色の瞳を悲しい色に染めてしまったことを、新はひどく後悔した。
「……そっか。そうだよな、ごめん」
「俺の方こそごめんね。新に悪気がないのはわかってるんだ。だから、いたずらじゃないんだったら……いいよ?」
着ていたパーカーのポケットに葵からもらったお菓子をしまうと、新は葵の手にそっと手を伸ばす。軽く握られた手の甲に撫でるように触れると、やがてゆるゆると指を絡めてきてくれたことに新は安堵の息を吐いた。
「葵」
「うん」
「お菓子ありがと。いたずらじゃなくて、お菓子のお礼に、キスしていい?」
「……どういたしまして。キス、しよう?」
そう答えてふわりと柔らかく微笑んだ葵。その瞬間、たまらなく愛しさが込み上げてきて、新は片手で葵の身体をぎゅっと抱き寄せた。すると、葵の腕もまた、新の背中に同じようにしっかりと回された。
「ありがとう、葵。大好き」
「……うん、俺も。大好きだよ、新」