日中はまだ夏の名残を感じるが、朝晩吹く風がすっかり冷たさを帯びてきて、夏生まれの陽にはややもの寂しい時期になってきた。夏の盛りを過ぎると太陽の光が少しずつ穏やかになるのと比例して、この時期は陽の気持ちも少しばかり緩みがちになる。今も床にごろりと寝転がって、時折スマートフォンをいじってみたり、見慣れてはいるけれど自分の部屋のものとは違う天井をぼんやり眺めてみたり。
今年は夏の終わりがいつもより早い。陽としてはまだまだ半袖のファッションを楽しみたいのだが、そろそろ羽織ものが必要だ。いつまでも夏の気分でいるんじゃない、油断して風邪を引いたらどうする、体調管理は基本中の基本だ、などとどやされるのが目に見えている。
「……まあ、お前が好きな季節が少し長くなると思えば、それはそれで悪くないか」
「え? 何か言った、陽?」
既に秋真っ只中といったモカブラウンのロングカーディガンを着て陽の隣で読書に没頭していたはずの夜。その横顔が半回転して自分へと向けられたのに、陽はわずかに驚きながらも何事もないように言葉を返した。
「ひとりごと」
「そう」
短く返事をして活字の世界へと戻ろうとした夜のカーディガンの袖をくいくいと引きながら、陽は問いかけた。
「なぁ、夜」
「ん?」
「次のオフ、暇? 空いてたりしない?」
「次のオフ? ……特に何もないけど」
陽の問いかけに、夜は少し考え込むような表情を見せた後、そう答える。
「そ? じゃ、一緒に秋物見に行かない?」
「俺で良ければ。というか、俺でいいの? 服を見に行くんだったら、恋とかの方がいいんじゃない?」
「たまにはいいだろ? お前もそろそろ新しい服、必要じゃね? 何なら俺が見立ててやるから、な?」
きれいにウインクを決めてみせる陽の姿に、夜は小さく吹き出した。
「はいはい。プロセラのオシャレ担当が見立ててくれるなら、ありがたくご一緒させてもらいます」
そう言って穏やかに微笑むと、夜は再び目線を手元へと落とした。
(この様子じゃ気づいてないな。ま、夜らしいか)
9月最初のオフ、7日に取りつけた予定に思いを馳せながら、陽は満足げに口角を上げた。